【一章完結】ゲーム世界のモブ兵士に転生した俺は、真の実力を隠したい~気づけば主要キャラ達に囲まれているんですが、俺ってただのモブですよね?~

岸本和葉

第1話 モブ兵士、推しと出会う

 ――――どうしてこうなった……。


 強大な力を持つ魔族の首を刎ねながら、俺は内心でボヤいた。

 背後には、本来この魔族を倒すはずだった〝勇者主人公〟アレンがいる。

 彼は呆気に取られた様子で、ただモブを眺めていた。


◇◆◇ 


 ブレイブ・オブ・アスタリスク――――通称ブレアスと呼ばれるファンタジーRPGである。豊富な育成要素に、個性的なキャラ達と絆を深めていくコミュニティ要素、そこに膨大な世界観と物語が組み合わさり、多大な人気を獲得したのが、ブレアスというゲームだった。


 俺はブレアスの大ファンだった。もう数えきれないほど周回したし、アニメ化されたときはブルーレイまで買ったし、フィギュアなどのグッズを買って部屋に飾ったりもした。

 大学を卒業して、あのクソみたいなブラック企業に就職してからはまったく触れてなかったけど、ブレアスへの愛はちっとも変わっていなかった。


 不景気真っ只中で転職する勇気もなく、毎日与えられる膨大な仕事を淡々とこなしているうちに、俺は呆気なく過労死した。我ながら、もっと上手くやれたのではないかと考えてしまうが、今更何を言っても仕方がない。


 今大事なのは、俺がブレイブ・オブ・アスタリスクの世界にいるということ。


 ――――まさか、ゲームの世界に入っちまうなんてな……。


 青空を見上げ、俺はボーっと考える。少し気温が下がってきたのか、肌に当たる風が冷たい。そんな感覚が、この世界が現実だと証明している。

 ここがブレアスの世界と気づいたときは、ずいぶん興奮したものだ。なんたって大好きなゲームの世界に転生できたのだから。前世で嫌な死に方をした俺への褒美と思うのも仕方ないだろう。


 ブレアスの主人公である〝アレン〟という男は、〝勇者〟を目指す学園で仲間と絆を深め、ときに恋人・・をつくったりしながら、敵対する魔族たちと壮絶な戦いを繰り広げていく。ルートによっては、ハーレムを作り上げることだって可能だ。


 周回プレイで培った知識で、夢のハーレムを作りながら無双してやる――――。


 そう、意気込んでいたのだが……。


「おい、シルヴァ・・・・、交代の時間だぞ」


「あ……うっす」


 先輩兵士に声をかけられ、俺は持ち場である城門の警備につく。

 

 ここは夢にまで見たブレイブ・オブ・アスタリスクの中。しかし、俺の立場は、決して〝主人公アレン〟などではなかった。


 俺の名前はシルヴァ。しがない門兵である。


◇◆◇


 ここはゼレンシア王国。国の中枢であるゼレンシア王都は、外敵からの侵入を防ぐために巨大な城壁に囲まれている。

 東西南北に門があり、俺はその東門の警備を担当している下っ端兵士。


 やることは簡単。王都に怪しい人間を入れないようにすることと、罪人を外に出さないようにすること。

 それ以上のことはしない。

 何故なら、この世界にはちゃんと〝アレン〟がいて、ブレアスの本編通りの物語が展開されるのだから。この世界に平和をもたらすのは、アレンとその仲間たち。しがない門兵に出る幕はない。

 俺は原作至上主義なのだ。原作を改変するものは、たとえ俺自身であっても許さない。


 というわけで、俺は毎日暇だった。

 門に立って、訪れる人々の通行許可証を確認するだけ。

 アレンになれなかったのは残念ではあるが、これはこれで悪くない。地味な仕事だが、前世の多忙さと比べればまさに天国だ。ボーっとしてるだけでお賃金がもらえるなんて、えらく素晴らしい職業である。


 故に、これから俺が身を投じる状況は、決して本意ではないと先に言っておく。


◇◆◇


「魔族がいたぞ!」


 誰かの叫びが聞こえた。

 俺のいる部隊は、すぐさま声のほうへと走り出す。


 ――――ひどいありさまだ。


 所々で火の手が上がる街を横目に、俺は駆けた。

 現在起きているのは、ブレアスの本編が始まるひと月前の出来事イベント、通称〝楔の日〟。本来群れないはずの魔族が結託し、ゼレンシア王国を襲うという、今を生きる国民からすれば恐怖しかないイベントだ。


 実際このイベントは大した被害もなく、勇者たちによって収束する。しかし、魔族の真の目的は、弱い魔族の侵略で勇者たちの気を逸らし、より強い魔族をゼレンシア王都の中に潜伏させること。これ以降、国内で魔族による被害が多発するようになる。


「あそこだ! あそこに魔族がいるぞ!」


 部隊の先頭を走っていた兵士が叫ぶ。

 巨大な蜘蛛の頭から、人間の上半身が生えたバケモノが、そこにいた。


 魔族とは、魔物が人間に近い形に進化した存在である。

 この蜘蛛の魔族は、半分ほど魔物の肉体を残している。この状態の魔族は、レベル1と呼ばれ、大して強くない。

 ただ、一般の兵士が勝てるほど、弱い存在でもない。


「勇者が来るまで足止めする! 行くぞ!」


 抜剣した俺たちは、魔族を取り囲む。

 兵士である俺たちの役割は、勇者たちのサポート。魔族と戦うのは、勇者の資格を持つ実力者たちの仕事であり、俺たちは彼らが来るまでの時間稼ぎを担当する。

 

「シャァァアアア!」


 凶暴な叫びを上げながら、魔族は蜘蛛の胴体から大量の糸を吐く。

 周りの兵士が絡めとられていく中、回避に成功した俺は、魔族に向かって走った。


 ――――時間稼ぎ、時間稼ぎっと……。


 魔族の攻撃をかわしながら、俺は適度に戦っているふりをする。

 こいつの首を・・・・・・刎ねるのは・・・・・簡単だが・・・・、魔族を討伐したとなると、大勢の注目を浴びてしまう。それは俺の望むことではない。


「よっと……」


 魔族の攻撃を弾き、俺は距離を取る。

 そろそろ勇者が来る頃だろう。俺の役目も終わりだ。


「シィィィ……!」


 そう思った矢先、何故か魔族が俺に背を向けて走り出した。

 まさか逃げ出すと思っていなかった俺は、一瞬呆気に取られてしまう。


「チッ……逃がすか!」


 脚の一本くらい斬り飛ばしておけばよかった。

 俺はすぐに魔族を追いかける。このペースなら、すぐに追いつける。

 しかし、魔族が進む先に、ひとつの人影が見えた。水色の髪の少女は、怯えた表情を浮かべ、魔族越しに俺を見る。


 俺は、あの少女を知っている。

 ブレアスにおいて、重要な役割を持つメインキャラ……シャルル=オーロランド


 ――――何故ここにいる? 周りに兵士はいないのか?


 様々な疑問が頭の中を駆け巡る。

 ただ、分かることはひとつだけ。この場で彼女を助けられるのは、俺しかいないということだ。


「俺のシャルたそ・・・・・に……何してくれとんじゃァァアア!」


 気づいたとき、俺はすでに跳んでいた。


「ゼレンシア流剣術……! 〝独楽噛こまがみ〟!」


 俺の剣が、魔族の体を斬り裂く。

 ついカッとなってしまった。冷静になった途端、後悔が押し寄せる。


「……あなたは」


「えっと……このことは、どうか内密に」


 呆然とした様子のシャルたそ、もといシャルルに対し、俺は口に指を当てて、苦笑いを浮かべた。

 こうして俺は、まったく意図していない形で、ブレイブ・オブ・アスタリスクの主要キャラとお近づきになってしまった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

『あとがき』

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