第2話 エドワード -門出-
和国 工戸公国 公都サガミ
大通りの桜並木の花びらが風に舞い、やわらかな日差しが木々の隙間から漏れる穏やかな1日、この日の事は俺は一生忘れることが出来ないだろう!
「若、お待ち下さい!」
傷だらけの顔の壮年の男が焦ったように走りながら俺を呼び止める、この男の名前はマーシー・クワマンで俺の教育係である。幼少の時から父親よりも接してきたのでこの男のことを、俺は親しみを込めて"爺"とよんでいる。
「小さな子供ではあるまいし待つわないだろ爺、着いて来られても俺が恥ずかしいではないか!」
俺は急いでいる、非常に急いでいるのだ。
「若、学園の許しが出たからといって急がなくても、御館様が帰ってからでも宜しいのではないのでしょうか。」
爺の言うことはごもっともだ、だが俺としてはいち早く刀が欲しいのだ。どうして欲しいのかは、この俺、エドワード・カイザンは今日の成人の儀でようやく大人の仲間入りをすることになったからだ。
この
だが、それは貴族や金持ちなどのごく一部だけで平民は大体が18歳前後だ。
まぁ平民の中でも15歳で成人を迎える者もいるし、中には20歳までに成人を迎える人もいる。
そして今日、俺は15歳になり卒業後も通い続けた学園で成人の儀を終え、他の大人と同じ様に働くことが出来る、特に俺の住む和国は15歳で仕事に就くことを美学とし、侍と貴族以外の職に就き和国中に旅立っていく、俺の場合は離れて暮らす父親が侍であるからこれからギルドで職業を侍で登録をする事できる。登録後は侍として仕事をすることになるのだが…………..。爺の制止を完全に振り切って大通りを駆けていく。)
「えっと…….、ここか。」
地図を見ながら何とかギルドに着くことが出来た。サガミの街のギルドは平屋作りの建物だが、かなり大きさの建物で入口の方には幾人もの冒険者が群がっており喧騒に包まれていた。
(物語だと、ここから俺が主人公って勘違いして暴走する新人多かったよな〜)って頭の中で思いながら冒険者たちを避けて入口へと向かう。
「こんにちわー」
俺は、緊張のあまり入口から入ってすぐの場所で大声で挨拶をしてしまうという恥ずかしい行動をしてしまった。
ギルドの中は賑わっているようで多くの冒険者たちの視線が俺に集中するのだった。
(うわぁー、やっちまったー!)
冒険者はもちろんのこと受付嬢もいる、さらにギルドマスターまで執務室から出て見ているのているのではないかと思ってしまう。後に入口で挨拶は、冒険者登録に来た新人の恒例行事になるとは誰も知らないのであった。
「こんにちわ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
そう言って何事も無かったかのように、声をかけてくれたのはこのギルドで一番美人な受付嬢だった。
「あ、あのすいません父の紹介でここに来たのですが、成人の義をになりたいんですけど……」
父さんからもらった紹介状を胸のポケットから取り出し、受付嬢に渡した。
受付嬢は、紹介状の裏の封蝋の紋章を見て少し驚いた表情をしたが、直ぐに平常に戻る。いや、少し悪い笑みを浮かべるのであった。
「まぁ貴方が、ナグル・カイザン公爵様の処の出来損ないで穀潰しのご子息様ですか!」
受付嬢は、あまり大きい声では無いがよく通る声で訪ねる、周りの冒険者の視線が再び俺に集まってくる。(ごくありふれた庶民の振りをして登録に来たのに正体をばらすなよ(怒)!)などと考えながらも
「はい?出来損ないはともかく、そうですけど……何か問題でもありましたか?」
つい、喧嘩口調になりそうになるのを堪える。
「出来損ないさん、当ギルドに何の用ですか!」
この受付嬢は、悪意しかないのかやたらといやらしい笑みを浮かべながら俺を見据えていた。
"スパーン"、俺の前でニヤニヤしていた受付嬢が後ろから叩かれる、叩かれた勢いが強かったのか反動でカウンターの天板で顔を強打する。顔を強打した受付嬢は鼻から血を垂らしうずくまるを尻目に、ニコニコと愛想笑いを振り撒き新たな受付嬢が立つ。
「いえいえ、そういう訳ではありませんよ?ただ貴方のお父様から聞いた話だともっとこう……なんというか大人ぽい感じの話しだったので」
受付嬢の目からは俺は父親から聞いていたより幼く見えるらしい。
「うっ…….そ、そんな事より早く登録して下さい、今日は刀が拝領されると聞いて来たのですから時間が惜しいんです」
そう、ここ
「あら、そうですね。それではこちらへどうぞ」
そう言われて案内された場所は小さな個室だった。
「まず、侍としての登録をします次に冒険者としての登録をしますので、龍神石に手をかざしたままここで少々お待ちくださいね。」
そう言うと、受付嬢は机に龍神石を机に置くと奥の扉に入っていった。
「分かりました、やってみます。」
受付嬢が奥に行くのを確認し龍神石に手をかざしてみる、龍神石は青い淡い光を放ち周りを少し明るくさせるのであった。
しばらく待っているとドアが開かれ先ほどの女性が戻ってきた。
「色々と準備が整いましたので、行きましょうか。」
「はい」
女性に促されるままに、別棟に続く長い渡り廊下歩いて移動した、途中ギルド裏手から魔物を担いだ冒険者たちが屋外解体所を利用しようとする光景が見ることが出来た。
そして、別の部屋に到着すると。そこには一人の無骨な老人がいた。男は、俺と目が合うや否や自己紹介をしてきた。
「ほぉう、おめぇがカイザン公爵家の息子か」
少し豪快な人間だが、何故か憎めないタイプの性格のようで圧倒されてしまう。
少し気後れしてしまうが、ここで躓くと後々ヤバい気がする 、ここは無難な挨拶をしておこう。
「初めまして、エドワード・カイザンと申します」
これで、切り抜けたはず大丈夫なはず!
「ふむ、わしはこのギルドで剣術講習と刀匠をしているオガミと言う者ぢゃ。よろしく頼むぞ」
「はい、こちらこそお願いします」
俺は、オガミに軽く頭を下げ挨拶をし、彼と会話を続けた。
「まずは、尋ねるが剣術について聞きたい。先ずはどの流派を使う?」
オガミは、出来たばかりの俺のギルドカードを見ながら訝しげに訪ねてくる。
俺は、オガミの問いにはあまり答えたくは無かったが、なるべく答えることにした。
「俺が使える流派は4つです、一つ目の流派は式典での演武に使う皇武演桜流ですね、2つ目はカイザン流抜刀術です、3つ目は極法流で最後が無天流です。」
俺は偽ることなく、現在使える流派を答えた。オガミは、そんな俺を品定めをするかのように見据えている。
「カイザン流抜刀術か....、道理で断罪と見届け人のスキルと称号を持っている訳ぢゃな」
オガミに言われスキルと称号を言われドキリとしてしまう。
(知っているのか...?カイザン流抜刀術の修練方を?何故に?)
「つぎは、手を見せてみぃ!」
俺は、オガミにそう言われると両手の平を上に向け見える位置に差し出した。だがオガミは、差し出した俺の手をさらに引っ張り、ゴツゴツした手で俺の手を触り一つ一つ確認していく。
「よく使いこまれた良い手だ、この手なら.....」
オガミは黙り込み考え込むと
「そこで少し待っておれ、とっておきのを見繕ってやるわい。」
オガミはそう言うと奥へと続く通路に消えると一本の刀を持って戻ってきた。
「これが今日から貴様の相棒となる刀だ。大事にするんだぞ?」
「ありがとうございます」
渡された刀を見てみるととても綺麗で思わず見惚れてしまった。
鞘の色は黒を基調としており鍔の部分にも龍のような装飾が施されている。柄巻は白に近い灰色をしており、柄頭には小さい水晶玉のようなものが付いている。
刃紋はとても美しく波打っておりまるで生きているようだ。
「凄い......、本当にいいのかこれ貰って?」
俺は刀を見た瞬間から目が離せなくなり、本当にこの刀と釣り合いが取れているのか不安になっていく。
オガミは、そんな俺を励ますかのように、
「構わんさ、妖刀龍翔じゃがこいつが勝手にお前を選んだじゃからな!よく言うだろう、超一流武具は使い手を選ぶと。」
(まさか、インテリジェンス・ウエポン)
「え!?そうなんですか!?」
オガミは厳つい顔を破顔しながら答える。
「ああそうだ、だからこいつに選ばれたお前は立派な侍になれるんじゃ」
「はい!頑張ります!」
こうして俺は侍としての一歩を踏み出したのだ。
「それで、カイザン公爵家の方針ははこれからどうするのだ?」
オガミは、エドワードの事をよほど気にいったらしく
「まずは、修行しろって言われてるんで暫くはこの国で生活しようと思います」
「そうか、まぁその方が安全ぢゃろうな。それにこの国は治安も良いし安心できるしの!」
「はい!俺、必ず強くなってみせます!」
「おお!そうか!頑張ってくれよ!それじゃあそろそろ時間だし行くとするかな」
「あ、はい!今日はありがとうございました!」
「気にするな。それと今度ワシの道場兼工房にもに遊びに来るといい。きっと良い経験になるはずぢゃ。」
「本当ですか!是非行かせてもらいます!」
俺は、小部屋を出るとギルドの受付へ戻って行った。
「お疲れさまでした、これで手続きは全て終了しました」
「ありがとうございました!それでは失礼します!」
「はい、お気をつけて」
そう言って俺はギルドを後にした。
「よし!早速帰って母さんに伝えよう!」そう思いながら帰路についた。
「ただいまー」
そう言いながら玄関の扉を開けるとそこに居たのは普段は父の公務先に着いて回るメイド達がが立っていた。
「おかえりなさいませエドワード様、旦那様が聖城京よりお戻りになられています、エドワード様がお戻りになられたら執務室まで来るように言われておられました。」
メイド達は、俺にまで丁寧な口調で伝言を伝えてくる。
「え?父さんが?」
「はい、至急とのことでしたので急いでご準備をして下さいませ。」
「わ、わかった、着替えたら行くよ」
そうして俺はとりあえず、身なりを整える為に自室へと向かった。
ここで俺の事を少し語るとしよう。俺、エドワード・カイザンはカイザン家の跡取りであるが実は4男である、物心がつく前に兄たちは死んでしまってもうこの世に居ないのである。つまりは、成人まで生きられた俺は自動的に跡取りとなってしまったのである。こんな経緯がある為、俺は兄たちに比べたら暗殺対策を厳重に施されたうえで比較的自由に生きさしてもら得ている。剣の修行はかなり厳しいものだったが。とりあえずは着替えを終わらせよう。
数分後、着替えを済ませた俺は父のいる執務室に向かった。
「父さんエドワードです、入ってもよろしいでしょうか?」
俺は執務室の扉の前に立つと入室の許可を求めた。
「入れ!」の言葉と同時にメイドによって扉が開かれ、中へと招き入れられる、父さんはまだ執務の途中らしく忙しそうに書類を精査し机の前に座っていた。
「あぁ、すまないないきなり呼び出したりなんかして。とりあえず座ってくれ」
そう言われたので俺は机の近くにあるソファーに座ることにした。
「父さん、何の用?」
俺は、とりあえずどんな用か尋ねてみる。
「実はな……、お前に紹介したい人がいるんだ」
父親が含みのある言い方をする時は何かややこしい事が何かあるはずだ。
「紹介したい人?爺みたいにお目付け役?」
爺が2人に?想像するだけで嫌になってきた。
「あぁ、まぁお目付け役みたいなもんだがな。そろそろ来ることだが。」
「へー」
すると突然目の前に見たこともない五芒星の魔法陣が現れた。
「来たのか、転移不可の結界をも無効とは!」
転移?此処にか?
「父さん……これって……」
「あぁ、恐らく転移魔法の類いだ」
そう言っている間に魔法陣から一人の女性と見紛うかのような青年が出てきた。
「この度は、秘密のお目通りと言うことで転移にて失礼致します。我が
そう言うとその男は深々と頭を下げてきた。
「は、初めましてカイザン家4男のエドワード・カイザンです。えっと……父さんの知り合いですか?」
陰陽師か、俺の体格と比べると華奢な感じがするな、お目付け役らしいけど大丈夫か?
「ええ、まぁそんなところです。しかし驚きました、まさかカイザン家の跡取りがこんなにも若い方だったとは……」
勝手に年嵩がたかいと思われていたようだ。
「え?そうですか?」
「ええ、普通ならもっと年配の方が多いですから」
「まぁ、そうですよね」
「さて、挨拶はこれくらいにしておいて、そろそろ祝いの場に移ろう。」
父親に促されるが祝いとは?
「それもそうですね、エドワード君もお腹が空いたでしょう」
「いえ、まだそこまでは…….」
「遠慮しなくていいんですよ、ほら、食堂に行きましょう」
「は、はい」
そして俺は二人の後を付いていった。
食堂では普段と違い豪勢なものがいくつも並んでいた、美味しそうなご馳走を目の前にしてたまらず飛びつきたくなる。そんな俺を父さん生暖かい目で見守っているかの眼差し見ている。
「此度は、我が子エドワードの成人の祝いだ、何時もエドワードの為に仕事をしている皆の者よ無礼講である、楽しんでくれたまえ!」
父さんの挨拶が終わるやいなや目の前の骨付き肉を手に取り齧り付く。
「おっ美味しい!!なんだよこの肉!!」
言葉を失いそうな位に美味しすぎる、何の肉だよ。
「そうであろう、そうであろう!なんせ、このわしが直々に買い付けをさせたドラゴン肉のステーキだからな」
父親は、ニヤリと笑い自慢げだ。
「うん、確かに美味しいけど……流石にこれは食べ過ぎじゃない?」
「何を言っとるんじゃ!これからは修行に出るからいい物はいつ食えるか解らんぞ」
確かにそうだ明日からギルドで受けた依頼をやらないといけなくなるかもしれないからな。
「それにしても、エドワード殿は本当によく食べるんですねぇ」
「ええ、昔からそうなんであまり気にしないでください」
「いやいや、とても凄い事だと思いますよ?私なんていつも残してしまうので」
ははは、そう言えばミトゥースさんって歳いくつなんです?」
「ん?ああ、そういえば詳しい自己紹介がまだでしたね。私は今年で16歳になります」
「へぇー!俺の一つ上かぁ」
「ふむ、それじゃあエドワード殿は15歳なんですね?」
「そうですね、やっと成人しました!」
「そっか、私の方が一つ上なのか」
俺は、ミトゥースさんと自己紹介を兼ねた談笑で、時間を忘れるほど会話を楽しんでいた。
「おい、二人とももう食い終わったんなら早く行くぞ」
そう言って父さんは先に部屋を出て行った。
「あはは、それではまた明日来ますので」
ミトゥースはそう言い転移魔法で屋敷を後にする。
「あ、待ってよ父さん!」
そうして俺は、自分の部屋に戻って行った。
「ふぅー、やっと寝れるな」
そう思いベッドに横になった瞬間、部屋の扉がノックされた。
(誰だろう?)
俺は起き上がってドアノブに手をかけた。
「はい、誰ですか?」
するとゆっくりと扉が開かれていった。
「あら、やっぱり起きていたのね」
「母さん!?」
扉の向こうには母さんがいた。
「どうしたの母さんこんな時間に」
そう聞くと母さんは少しだけ恥ずかしそうに言った。
「実はね、あなたに伝えないといけないことがあるの」
「伝えないと行けない事?」
「ええ、それはね.....、修業は和国から出て、中大で行うようにしてね。」
その言葉を聞いた時俺は自分の耳を疑った。
「俺が、和国を出て外の国に?」
「ええ、お父さんと話し合って決めたことなの」
正直なところ不安しかないが、俺だって男だしこういう展開に憧れが無かったわけでもない。
「でも、どうして急に?」
すると母さんは真剣な顔で話し始めた。
「実はね、最近この辺りの森で魔物が増えているらしいのよ」
「それで、父さん達が討伐に行くことになったの?」
「ええ、そう言うことなるわ。それともう一つあるのだけど」
「何?」
「実は、この前ギルドに行った時に聞いたんだけど、なんでもあのオルバの悲劇の再来が近いの、此処も無事ではなくなるって噂があるのよ」
「へぇー、そうだったんだ」
「だからもし、何かあった時にはすぐに逃げるようにして欲しいの」
「うん、わかった。その時はすぐに帰ってくるよ」
「ありがとう。それと最後にお願いなんだけど…….」
「ん?なに?」
「あなたも、気を付けてね」
「わかっているって。じゃあお休み」
そして俺は眠りについた。
翌朝、俺達は朝食を食べて早速ギルドに向かって歩いていた。
「なぁ父さん、昨日母さんから聞いたんだけどさ」
「エドワード、なんだ?」
「オルバの悲劇の再来が近いのていうあれ、本当だと思う?」
「さぁな、ただのデマかもしれんし、真実だったとしても今の俺たちがどうにか出来る相手じゃないからな」
「確かにそうだよね」
そうこうしているうちにギルドにたどり着いた。中に入ると相変わらず人がたくさんいて賑やかだ。
「さて、まずはどんな依頼主にちゃんと会うんだぞ、ワシはギルドマスター達との用事があるから、ミトゥース殿と頑張れよ」そう言って父さんはカウンターの方に歩いて行った。
(まぁ、別に良いけど……初仕事か....なんか緊張するな..)
俺は冒険者としての初仕事で緊張してギルド入口で少し固まってしまった。そんな俺を後ろから呆れたような声で
「エドワード殿でも緊張をされることもあるんですか?」
ミトゥースが声掛けてくる、彼なりの優しさのようで声を掛けてくれたおかげで俺の緊張が解けたようだ。
「それでは、エドワード殿。行きましょうか」
ミトゥースに促されギルドの中へ入るのであった。
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