おなかを空かせた教授

鷹橋

本編

 ——猛烈になにかをしたく思う。いや、なにを?

 人生を振り返れば、若い頃から真面目に生きてきた。

 大学も、日本の中でもトップのなかのトップであった。

 その後、マスター・ドクターについても海外の、誰もが知っていて、羨むようなところを最短で。

 現所属も、日本の中心にもある大学な上に、世界にも影響を与え続けている。

 飽くことなき探究心と知識欲だけで闘ってきた。

 ただ、私の研究は役に立っているのだろうか?

 私は専ら基礎研究と呼ばれるものを扱っている。

 諸君らも、手隙の際に調べると良い。すぐに、実生活で活かせないものばかり、これまでは発表してきた。

 独り身であるからして、誰にも迷惑はかけない。家が汚くても、生活さえできれば良い。

 睡眠時間は必要ない。

 短ければ短いほどよい。私の元来のショートスリーパー気質は、研究者にとってはうってつけのものである。天職とも思う。

 金も余裕がある。使っている暇はない。

 口座には、毎月決まった額が積み重なっていく。そのうちのいくらか引き出して日々を暮らす。

 果たして、こんなことで私の人生はよいのか?

 疑問にも思っていたことはたしか。

 解決策が思いつかない。

 ただ、今は肉を食らいたい。ビタミンが足りないのだ。身体は正直なものである。

 こんなことを想像しているだけで、腹がなる。涎まで出る始末。

 たまの休日、ふらーっと訪れた郊外にある小さな牧場で眺めていた。ホルスタインの牛がうまそうに見えるくらいには栄養状態が悪い。

 いかんいかん。間違っている。生きているものをうまそうだという考えは、おかしい。

 私は目を伏せ、必死に堪えた。

 スマートホンに目をやり、調べ物をした。

「慈善団体 寄付」

これでよい。お金の使い道ならこれで。

 すぐに大量のページがヒットする。その一番上を押す。

 ここらにあるようだ。スマートホンのGPSが影響したのかもしれない。優秀。

 ここよりも市街地寄りだな。

 すぐに牧場の看板を潜り抜け、路線バスに乗り駅の方へ。

 シャッター街を抜けて、慈善団体のオフィスはかなりこぢんまりとしていた。この暑い日本でエアコンがないのは、いささか疑問であると思う。

 よほどお金に困っているのかな。私が役に立ちそうである。暁光。

 ドアをゆっくりと、開かせる。目の前に牛のポスターが貼ってある。でかでかとしたいい牛だ。上には、動物を守ろうと綺麗なフォントで書かれていた。

 おお、私は牛が好きだ。これもまた、暁光暁光。

 受付には、女性が立っていた。中にはその方のみ。気楽なものだ。

「えと、どちら様ですか?」

「はい。寄付をしたく、アポなしで参りました」

「あ、はい!」神妙であった受付と思われる女性の面持ちも緩む。

「どれくらいになさいますか?」

 私は訝しむ。今はとてもこういうところにお金を使いたい。

「五〇〇グラムくらいで」

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おなかを空かせた教授 鷹橋 @whiterlycoris

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