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「まあ、残念だけど、そのときはそのときだよ」と綾川先輩は言った。
相変わらず綾川先輩はいい加減だと小夜は思った。
(と、いうよりも、きっと綾川先輩は、もういなくなってしまった稲田穂村先輩のいない天文部になんてなんの未練もないのだろうと思った)
「そうですか。まあいいですけど」
ちょっと拗ねたような顔をして、小夜は言った。
本来ならこれで、二人の今日の会話というものは、終わりになるはずだった。(実際に、今日が『今日』出なかったから、そうなっていただろう)
でも、今日はさすがに違った。
小夜は今日、『ある思いと決意をして』この天文部の部室にやってきていた。
だからいつものように、このまま二人の会話や関係が終わるということにはならないのだ。絶対に。(……たぶん)
三笠小夜が心に決めてきた思い、決意とは、つまり今日、『この先輩と二人だけの天文部の部室の中で、(あるいは学校の帰り道までの間に)綾川波先輩に、結果はどうでもいいから、(もちろん、うまくいってほしいけど)自分のこの二年間の先輩への思いをきちんと伝える』というものだった。(それを伝えるまでは、絶対に先輩から離れないと小夜は心に決めていた)
なので小夜は早速、気持ちを切り替えて(さっきまでの会話は、二人のいつもの繰り返される儀式というか、習慣のようなものだった)行動に出ることにした。
「先輩」
小夜は言った。
「なに?」
うーん、と背伸びをして、時計を見たあとで、窓の外に広がる真っ赤な夕焼けの風景に目を向けていた綾川波先輩が小夜を見て言った。
「もし、今日が『地球最後の日だったとしたら、先輩は今日、なにをして過ごしますか』?」
そんなことを小夜は真面目な顔をして言った。
これがずっと考えに考えた末に辿りついた、現在、中学二年生の三笠小夜の(一応、天文部員としての)最高の恋の告白の始まりの文章(言葉)だった。
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