#学園1のアイドルを破壊したい

シーズーの肉球

第1話

 今日も今日とて、雪島は多くの人に囲まれている。遠巻きから彼女を見つめる目も沢山だ。この注目が一過性のものだと俺は思っていたが、騒動から一週間経過したというのにまだ話題になっているのには驚いた。

 彼女が#学園1のアイドルならば、俺は#学園1のぼっちだろう。どう頑張っても、存在を認知されるわけがない。


「……ごめん、少しお手洗いに」

 そう言って、雪島が席を立つと、取り巻きも一緒になって付いていく。ほとんど護衛だ。ずっと他人に付きまとわれるのも疲れそうだなとぼんやりと思いながら、俺は席を立った。


 いつものように人目を避けて廊下を進み、段々と自教室から離れていく。目的地は体育館裏の階段だ。夏や冬は流石にきついだろうが、まだ4月の時分なので居心地の良い場所だった。入学して間もなく、既に俺はこの穴場を見つけていた。

 友達でもできればこんな場所で一人、昼食を食べる必要はないのだろう。が、誰かと一緒にいる方が疎外感を感じるほど、上手く生きられない自分は孤独に生きる方が合っている。そう、俺は信じて疑っていなかった。


 俺は弁当の蓋を開けた。

「美味しそうだね」

 唐突に話しかけられて驚き、思わず弁当を落としそうになった。恐る恐ると振り返ると、雪島と目が合った。

「どうして……」

「どうしてって。先に私がいたのに君が来たんだよ。全くこちらに気づかずにいるから驚いた」

 何故か嬉しそうに言う雪島。確かに俺はこんな所に他に人がいるわけないと思って全く周りを見ずにいた。だとしても、彼女がここにいるのは最もありえない。

「ここ、良い場所だね。静かで、誰の目もない。落ち着くよ」

「……まあ、確かに。だから俺はずっとここで昼飯を食べてる」

「ずっとって、入学してから?」

「そうだけど」

「なんだ。私が一番初めに見つけたんじゃなかったのか」

 少しばかりがっかりした様子の雪島を尻目に弁当を食べ始める。昼休みの時間は有限だ。

「ねえ、明日もここに来ていい?」

 彼女の発言に思わず箸を止める。

「べつに俺の家でもないし、許可とか必要ないけど。でも、何で……?」

「居心地が良いから。大丈夫、私のことは空気のように扱ってもらっていいからさ。何も話さなくていいよ」

 雪島は何を考えているか分からない。まあ、人気者の一時の気の迷いだろう。どうせ、飽きてすぐ来なくなると思い、とりあえず頷いた。

「ありがと! 私の名前は」

「雪島さんだろ。この学園にいて知らない奴いないよ」

「あっ、うん」

「俺は……」


 お互いの自己紹介を終えて、沈黙が落ちた。不思議と、雪島という他人が近くにいても気まずさはなかった。

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