冷めない余韻
moon
忘れないで
冷めない余韻。
いつものように、駅近くの細い道へ煙草を吸いに行った。毎日、学校前に吸いに行くのが私たちの日課だった。
「おはよ~」
そう言って笑ってくれる彼はいなく、そこにあったのは潰れた煙草の空箱だけだった。
それが誰のなのか、考えなくてもわかってしまったのが少し悔しい。
JRの電車が通り過ぎ、もう時間だ、と何かが私を急かす。
煙草の火を消し、小走りで駅へ向かった。
私にとっては全部特別だった。
雪が降った日には2人揃って学校に遅刻したし、
昼休みになればグラウンド裏で煙草を吸った。
1人で過ごすはずだった誕生日には彼が隣で笑っていて、私の右耳には彼が開けてくれたピアスの穴がある。
孤独な夜から逃げ出したあの日も、彼が横にいた。深夜2時のでかい国道を歩いて、子供みたいにはしゃいだ。
いつもの川沿いで煙草を吸ってる時、気づいてしまった。
私が依存しているのは煙草ではなく、
煙草を吸っているこの時間と彼だ。
人に会うために、思い出すために、こんな不純な動機で煙草を吸っている人が私以外にいるだろうか。
彼のプレイリストを流せば頭の中があの夜でいっぱいになる。苦しい。戻りたい。
少し前の自分に嫉妬した。
学校が終わり、電車に乗り、彼の小説を読む。
これは私の事だろうか。そうだったら嬉しいな、とか思いながらあの日と照らし合わせてまた悲しくなる。
私たちの駅に着く。
辺りはもう薄暗く、イヤホンからはAge Factoryが流れる。
私はそこに咲いていたスイセンノウから目が離せなかった。
「さよなら」という言葉が愛の延長線上でありますように。
冷めない余韻 moon @andy0221
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