暗躍


「そういえば今日だったか? 学園の入学式は」


「はい。今年も前途有望な者が多数見受けられたようです」



 乱立する高層ビルの中の一つ。

 他より頭一つ抜けて高いそのビルの上階にある、とあるオフィス。


 そこで、二人の男が話していた。



「『息子』の様子はどうだった?」


「…銀二様の息子であると公表したことにより、周囲からおだてられ増長している、との報告が入っております」


「はは。結構なことだ。どこから見られているか分かったものではないからな。存分に目立ってもらおうじゃないか」



 そう話す男の名は、仲宗根なかそね銀二ぎんじ

 天ヶ室財閥に名を連ねる、仲宗根グループの代表である。



「それで、我らが総帥から『意見』への対応はあるか?」


「いえ、以前動きは見られません。傘下のグループや企業に『世襲制の廃止』を叫ばせていますが、一向に」


「……そも、継ぐ者がいないというのに。本当に食えない男だ」


「やはりだから、でしょうか」


「そうかもしれん。昔から律儀だったからな。正規の手順で総帥に就いたわけではない自分は、その立場に相応しくない、とでも考えているのだろう」


「だから自分の後を継ぐ者のことも考えられない、と?」


「そこが妙なのだ。あの男は責任感もそれなりに持ち合わせていたから、一切関知しないということはあり得ないはず」


「…ひょっとすると、もう見つけているのかも」



 その言葉に銀二はクックッと笑い声を漏らし、目を細めて言った。



「なに、それなら相応の対応をするまで。……この財閥は、必ず私が手に入れる」



 感情を匂わせない面持ちで銀二を見つめる、彼の腹心。そこで彼は思い出したように銀二に告げた。



「そういえば、副総帥の件ですが」


「何かわかったか」


「…調査のために送り込んだ者達からの連絡が途絶えました。依然、正体については一切不明のままです。」


「……それなりの強硬策だったのだがな」



 銀二は眉根を寄せ、呟く。



外空とのぞらすめらぎ。いったい何者だ──?」

















「──えっきし!」


「…ん、どうした風邪か?」


「や、ムズムズしただけです」


「そうか? 大丈夫そうなら続けるぞ。まずここの収支に関してだが──」


「なるほどなるほど」


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