第10話「学祭当日」
学祭当日。
大学内で待ち合わせる事になった私は、賑やかな大学の敷地内を歩きながら、指定された場所へと向かった。
皆月さんに会うのは…2週間以上ぶりで、変に緊張する。
あんまり堅くなりすぎず、かと言ってカジュアルすぎない事を意識してパンツスタイルの私服で来たけど…大丈夫かな。変じゃないかな。
自分の服装や髪型を気にしながら綺麗に整備された石畳の道を進む。
「あっ、いたいた〜」
待ち合わせ場所に着く前に、建物の入り口辺りに立っていた皆月さんが、大きく手を振りながらこちらへ向かって歩いてきた。
白いシンプルなワンピースに身を包んだ可憐な姿に、不覚にも心奪われる。
私だけじゃない、その場にいた複数人の男性の視線も見事に掻っ攫った皆月さんは、私の前でその足を止めて、
「会いたかった〜」
人目も
柔らかすぎて怖い胸の感触が顎の辺りに当たって、体中が変な汗を垂らす。
おっ…ぱい、でっか…
こんなに大きかったっけ…?と戸惑いながらも疑問に思っていたら、寂しいことにすぐ体温は離れた。…いや心臓に悪いからありがたかったかもしれない。
「久しぶり!元気してた?」
彼女にしては珍しく、ハキハキと活気のある声を出す。
「…今めっちゃ元気になりました」
「んふふ、なにそれ?」
「いやなんでもないです。それにしても…大学って広いですね」
私が男なら色んなところが元気になっていたであろう冗談を自分で言って自分で軽く受け流して、周りを見渡した。
学祭だからか、道の脇には出店みたいなものもチラホラ見えて、その広さと賑やかさに圧倒される。
「広いよね〜。わたしもはじめの頃はよく迷っちゃったな」
「あぁ…そんな感じします」
「ふふん、今では知り尽くしてるもんね。…案内するよ」
私の失礼なような発言には気にも止めず、得意げに胸を叩いた後、私の手を引いて楽しそうに歩き出す。
「…楽しそうですね」
「渚ちゃんが学祭来てくれて、ほんとうれしいの。今日はたくさん楽しんでね?」
久しぶりに会った皆月さん…破壊力ハンパない。
誰が見ても魅力的な笑顔にまた心臓を苦しめながら、手を引かれるがまま建物内へと進む。そこからは普通に、そのまま手を繋いだ状態で構内の色んなところを案内してくれた。
…手、めっちゃ柔らかい。けど、少し手荒れしてるのが心配にもなった。
「皆月先輩、その子は?彼女ですか!」
「やだ、もう〜…バイト先の後輩の子だよ。もしここに入学したら仲良くしてあげてね」
「わぁ〜高校生ってこと?かわいい〜」
途中、大学の同級生や後輩らしい美女数人に囲まれて、ほっぺやら何やら無遠慮に触られまくった。
ここの女子大、顔面の偏差値も高いんだ…と入学するのがちょっと怖くなるくらいには、皆月さんの同級生や後輩の人たちはみんな綺麗な人だった。
「男に興味ないと思ったら…こんなかわいい子飼ってたんだ」
「ちがうよ、渚ちゃんはそういうんじゃないから。もう…あんまり触ったら怖がらせちゃうよ、やめてあげて?」
滅多に見ることができないであろう怒った顔で、皆月さんは同級生の女性の腕を掴んだ。
「わお…こわいこわい。やめとくわ」
私の頬からパッと手を離した女性は、わざとらしく肩をすくませた。
「ま、今日は楽しんでよ。あたしらそこら辺にいるから、興味あったらおいで」
「あ…はい。ありがとうございます」
「じゃあ、自分ももう行きますね!皆月先輩、また後で!」
「はーい、またね」
嵐のように周りを囲んでいた女性達は立ち去って、残された私達は一度、疲れたから座ろうか…と近くにあったベンチに腰を下ろした。
「ごめんね、みんな好き勝手して…」
「びっくりしたけど、大丈夫ですよ」
「よかった」
安心して見せた華が舞うような笑顔を、ついついじっと眺める。
この笑顔を見て綺麗じゃないなんて思う人、この世にいるんだろうか…?相変わらず、皆月さんは今日も今日とて男ウケしそうな魅力に溢れた人だ。
…そういえばさっき「男に興味ない」みたいなことを同級生らしき人が言ってた。
一番はじめに電話した時、誰かに料理を作って振る舞ってたみたいだけど…あれって彼氏じゃなかったのかな。
「……皆月さんって」
「ん?なぁに」
「彼氏とか、いないんですか?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま口から放り投げる。
聞かれると思ってなかった質問だったのか、僅かに驚いた顔を見せたあとで、眉を垂らして困ったような、見慣れた表情に変わった。
「いないよ」
意外すぎる…
「え、元カレとかは?」
つい、タメ口で聞いてしまった。
「元カレ…?」
「過去に付き合ってた人のことです」
私の単語の意味が分からなかったらしく、首を傾げた皆月さんに間髪入れず答えを渡す。それよりも、恋愛事情が気になって仕方なかった。
「いたこと…ないよ?」
「え。う、うそだ」
「嘘じゃないよ〜、こんなことで嘘つかない」
「まじ?」
「まじ」
信じられない私を、皆月さんは少し怪訝に思ったようで、眉をひそめて小首を傾げていた。
こんなに顔が可愛くて、巨乳で、優しくて穏やかで、巨乳で、清楚でお姉さん属性高くて、巨乳で、いい匂いをまとうような、ちょっとえっちなお姉さんである皆月さんが…誰とも付き合ったことない?
何度考えても、頭が事実を受け止められなくて混乱する。
………実はめっちゃ理想高いとか?
「そもそも恋愛なんてしてる時間ないよ〜。バイトに大学に…今は就活でしょ?家のことも…とにかく忙しいもん」
答えをくれた皆月さんの言葉に、ハッとなる。
⸺私…そんなこともお構いなしに、そうとは知らずに電話かけまくっちゃってたじゃん。
恋愛する暇もないくらい忙しいのに、毎晩のように電話をかけては何時間も拘束していた事を、今になって深く後悔した。
「すみません…」
「?…なにが?なんのこと?」
「いや、こっちの話です…」
その後ずっとその事が引っかかって、反省する気持ちを抱えたまま学祭の時間は終わった。
「また、バイトでね」
「はい…」
帰りに気さくな感じで手を振られたけど、私はもう目も合わせることすらできずに、逃げるように帰路に着いた。
きっと負担だったろうな…
「はぁ…やらかした」
優しいからって、甘えすぎてた。
家に帰ってからひとり、私は重たくため息を吐き出した。
もう、電話かけるのやめよう…
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