こんここんこんこん
根ヶ地部 皆人
こんここんこんこん
こん、ここん
扉を叩く音がする。
久々の来客だ。来客なんてものがあるなどと、ここしばらく思いもしなかった。
「あいてますよ。さあどうぞ」
「それでは失礼いたします」
入ってきたのは人間ではない。
「いったいどちらさまですか」
「
狐は白い毛皮に朱色の
「おやおやどんな御用でしょう」
「おいとまの挨拶に御座います」
狐と狸が頭を下げて、声をそろえて口上のべる。
「今までお世話になりました。今宵今晩この時もって
「おや、狐も狸もいなくなるのか」
「いえいえまさかそのような」
首を振ったはどちらであったか。
「狐も狸も野の獣。人里
ああなるほどそういうことか。
「どこかへ行くのは私のほうか」
「残念ながらそうなりますか。最後の人間、最後のお客。世に不思議があろうとも、感ずる者がなければ
「しかし感じる者がないならば」
「そこに残るは
つまりは私が最後の人間。
他に残る者はいないのだ。
つまりは私が最後の人間。
ここで終わって消えるのだ。
「いままでお世話になりました」
頭を下げたはどちらであったか。
もしや私であったのか。
意識が薄れ、世界が消える。
こん、ここん
扉が鳴る音がする。
ただの雑音だ。風の音かなにかであろう。
こん、ここんこんこん
扉が鳴る音がする。
聞く者はもはや居はしない。
こんここんこんこん 根ヶ地部 皆人 @Kikyo_Futaba
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