第2話 二人の生活とトラウマ

 香と唯は2人でシャワーを浴び、朝食の用意を始める


「結局流されてしまった・・・」


 香は唯を見ながら自分の意志の弱さに気が付く、しかし唯の喜んでいる顔を見るとたまらなく癒される。つい唯の頭を撫でる。ずっと撫でていたい気持ちを抑えながら、朝食を用意する。

 慣れた手つきで用意しているが、ただのレトルトカレーである。それを見た唯は、少し香に遠慮しながら伝える。


「香さん、今度から私にご飯を作らせてもらえませんか?」


 唯は周囲を見ながら気になっていた。

 部屋は汚くはないものの、物がそこらへんにあふれている。食べ物は、すぐ食べられるレトルト食品の山。香の生活は少しだらしないものだったからである。それもそのはずで香は仕事一筋で生きてきたから、それ以外はからっきしだった。


「じゃあお願いしようかな。」

「香さんのために、頑張っておいしいものを作りますよ」

「よろしくね唯ちゃん」


 朝食は簡単に済ませたあと、唯は部屋を見渡し、片づけを始める。


 部屋の片付けを始める姿を見て、心の奥底で何かが動き始めたことを感じる。これまでの自分は、仕事が全てで、生活は二の次、三の次だった。しかし、唯の行動が、香の心に温かい光を灯していく。


 香は心の中で

「なんか一生懸命な唯ちゃんを見ていると、癒されていく」

 少し幸せな気持ちで満たされていく。ただ、自分の今までの生活を反省しなければいけないことに気が付いてしまう。


「じゃあ私も片づけをやらないと」

「香さんはゆっくりしていてください。せっかくの休みなんだから」


 しかしそのとき唯が手に持っていたのは、香の脱ぎっぱなしの下着だった。


「いやいやそれぐらいは自分で片づけるから」

 香は顔を赤くして下着を取り上げる。

「でも、昨日もみまし・・た・・し」

 唯は顔を赤くし照れながら言う。

 その表情を見ながら、香は昨日のことが頭の中で鮮明に思い出され、お互い顔を真っ赤にする。

 二人の時間に少しの沈黙が起きる。その沈黙を破るように香が唯に伝える。


「じゃあ唯ちゃん、2人で片付けようか。」

「はい!香さん」


 唯はそんなやり取りのなか、心の奥から温かい気持ちになっていた。


 今まで自分の親からお前としか呼ばれず、邪魔者扱いされ、男を連れ込んでは寒い中外にいさせられたこと、少しでも部屋が汚かったり、機嫌が悪かったりすると、暴力を振るわれていたこと、唯には友達がいなく頼る人がいなかった。「自分のことは必要とされていない」そう感じていた。

 だが香は違った、昨日の夜、優しく抱きしめてくれたこと、ことあるごとに自分を「唯ちゃん」と呼んでくれること。それがたまらなくうれしかった。自分の存在が香のの中にあることを実感していた。


 午前中は部屋の片づけを行っていた二人、その日の昼、二人でスーパーマーケットに買い物に出かけることにする。


「さて唯ちゃん、なに作ってくれるの?」

「香さんってどんな食べ物が好きなんですか?」

 唯の提案に、香は少し戸惑いながらも考え始める。香もなにも思いつかなかった。今まで、食べ物に無頓着だった。

「カレー?」

「香さん、それ今朝食べました・・・」


 とりあえず唯は自分で香に食べてもらいたいものを作ることにする、


 スーパーマーケットの中を歩きながら、唯は香の好みを探るように色々な食材を手に取り始める。香はその様子を見ていて、何か新しい発見があるかのようにワクワクしてくる。普段考えもしなかった食材や料理について、唯からの説明を受けながら、香の食に対する関心は徐々に高まっていきます。


「香さん、作りたい料理があるんですけど、いいですか?」

「うん、いいね。何を作るの?」

「それは・・・スパゲティです。」


 香は驚いたが唯の目の輝きを見て、その提案に快く同意する。二人で必要な食材をカートに入れていくうちに、香は自分がこれまでに感じたことのないような楽しみを感じ始めていました。


 家に戻ると、唯は早速料理を始める。唯は手際よく食材を切り始める、

「香さんは座って待っていてくださいね」


 香はソファに座り、料理をする後ろ姿を見つめる。自分のために料理をしてくれる人がいる。それだけのことがとてもうれしく感じた。


「やばい新婚みたいだ・・・相手、女子高生だけど・・・」


 数分後、料理が完成する。テーブルには、スパゲティ以外にも料理が並び、香はその光景に目を見張りました。香は唯に感謝の言葉を述べます。


「唯ちゃん、おいしい!久しぶりにこんな手料理食べて幸せだよ。」


 食事中、二人はそれぞれの料理について話し合います。唯の作った料理は一つ一つが丁寧に作られており、その味わいは香にとって幸せの時間が訪れる。唯は自分が香に喜んでもらえたのがうれしくて、とって大切な存在になっていることを実感した。そして、香も唯のおかげで幸せな時間が開けたことに感謝していました。


 香と唯は二人ならんでソファーに座りながら

「いやーこんなにおいしいご飯が食べられると、太っちゃうかもな」

「じゃあ、香さん今度は一緒に運動しましょう。」

「こんな昼間っから2人っきりで?」

「いやいやそうじゃなくて・・・それは夜で・・・」


 唯は顔を真っ赤にしする。香はその顔を見ながら軽く抱き寄せる。


「唯ちゃん、ありがとう。こんなに幸せな気持ちになれるならと思わなかった。これからも一緒にいてくれる?」


 唯は笑顔で頷きます。


「もちろんです。香さんと一緒にいられることが私の幸せですから。」


 その日、二人は互いに支え合い、これからも一緒に暮らしていくことを決める。唯の存在は、香にとってかけがえのないものとなり、香の存在も唯にとって大きな他酔える存在となる。


 その日の午後は2人で自宅で映画を見ながらゆっくり過ごし、夕食の時間を迎える。夕食は唯が作った家庭的な料理だった、サラダ、肉じゃが、生姜焼きと料理が作れない香にとって、自宅で食べるには懐かしい味だった。香は食事をすることが楽しみになった。唯と香は食事後食器を洗うのを一緒に行う、並んで食器を洗うことが、それだけで幸せに感じる。洗い物が終わったあと、少し背の低い唯を後ろから抱きしめて唯に伝える。


「唯ちゃん。ありがとうね。」

「はい。香さん。」


 食後少しゆっくりしていたら、唯がお風呂の準備を済ませる。


「香さんお風呂が沸いたんで先に入ってください」

「ありがとう。唯ちゃん」



 香はシャワーを浴びる。てっきりまた「お背中流します」とか言ってくるかと思ったが、その様子もなく少し残念と思う香りがいた。唯はその間、ベットをきれいにしていた。香がお風呂から上がると、寝る準備が整っていて驚く。


「唯ちゃんもお風呂に入ってきな。」

「はい。ありがとうございます。」


 香は缶チューハイを飲みながら、ひとつ気になることに気が付いた


「もしかすると・・・」


 確かに唯は家事をいろいろやってくれているが、少しやりすぎなところがある。途中まで、新婚気分みたいなところもあったが、よくよく考えてみると、まるで家政婦みたいである。そんなことを考えていると、唯がお風呂から出てきた。


「ねえねえ唯ちゃん。ちょっと隣に座って」

「はい・・・なんでしょう」


 唯は少し緊張しながら香の隣に座る。


「もしかして唯ちゃんは、いままで家事を全部やらされていた?」

「はい・・・」


 唯は今までの記憶が思い出され、今まで受けてきた虐待の影響で震え始める。そんな唯を見ながら香はそっと抱きしめる。


「唯ちゃん。いいんだよ、家事は二人やろう。いま近くにいるのは私なんだから。私は唯ちゃんに酷いことはしないからね」


 唯は泣き始める。香はそれをみて、抱きしめていた手で涙を拭き強く抱きしめる。


「唯ちゃん。辛かったね・・・もう大丈夫だから。」


 唯は香の胸の中で泣き続ける。そしてそのまま泣き疲れて寝てしまう。香は抱きかかえベットで寝かせ、涙の後をそっと拭き、手を握る。


「唯ちゃん。もう大丈夫だからね。少しぐらいわがまま言ってもいいからね」


 そのあと香はソファーで追加の缶チューハイを開ける。


「絶対守るからね。唯ちゃん。」


 その一言には、唯との生活に覚悟がみられた。


「あの、お願いします。」


 唯が起きてきて、小さい声で香に伝えた。香は驚く。


「え?唯ちゃん起きていたの?」

「はい。あのわがまま言っていいっていたので、お願いしに・・・」


 香は、ひとり言のように言っていたことを聞かれていたことが、少し恥ずかしかった。


「唯ちゃん。どうしたの?」

「あの・・・昼間、食べすぎだから一緒に運動したほうがいいと思って・・・」


 顔を真っ赤にして唯が言った。


「唯ちゃん。無理していない?大丈夫?」

「はい。香さんに抱きしめtもらいたいです。」


 香はそっと唯に触れキスをする。そのままベットに落ちていく。二人は愛し合いとも幸せを感じ続ける。




 眠る前に香が我に返る。


「明日は仕事か・・・」

「おいしいご飯を作って待っています」

「じゃあ急いで帰ってこないとね」



 夜が更けていく

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