第12怪 悪の活動 その1


「あの建物で間違いないんだな?」

 眼前のクラブを眺めながら美緒に確認する。

『うん、そこにグレムリンのヘッドがいるよ。今回の保護対象の少年と少女もそこに監禁されている』

 僅かに怒気と嫌悪感を含んだ美緒の声がイヤホンとか聞こえてくる。美緒も奴らに相当腹を据えかねているんだろう。

 最近関東で頭角を現してきたハングレ集団、グレムリン。強盗、詐欺、麻薬の密売、売春様々な犯罪に手を染めている最低の悪たれども。

「奴らに僕の予告状は送っておいたか?」

『うん、関係各所・・・・にメールで送っておいた』

 あとは奴ら潰すのみだ。

「では、今から悪を執行する」

黒色の目出し帽を被って同じく黒色のパーカーのフードを深く被り、両手に黒色の手袋をはめてゴキリと鳴らす。

 相手は関東最大といっても所詮ハングレ。要は素人だ。実戦経験にすらなりそうもないが、魔術の実働実験には丁度良いだろうよ。

 僕はクラブの入口へ向けて歩いていく。

入口には二人のゴロツキがタバコを吸ってだべっていた。

「なんだ、この餓鬼?」

ニット帽にサングラスの男が眉を顰めて疑問を呈す。

「へっ! 目出し帽だし、強盗班の末端の餓鬼じゃね?」

 金髪の優男がタバコを地面に捨てると靴の踵で踏んで火を消しながら、ぼんやりと呟く。

「おいおい、強盗班は遂にこんな餓鬼まで動員してるのか? まさに闇サイト様様じゃん?」

「まあな。とりあえず、末端の餓鬼は及びじゃねぇんだよ! 用があるならお前のような下っ端じゃなくて強盗班の幹部を連れてこい!」

「鬱陶しい」

勘違いして捲し立てている金髪の優男の顔面に右の裏拳を十分手加減をしつつもぶちかます。金髪の男は高速で壁にぶち当たってまるでボールのように、壁と床と衝突していき、ピクリとすら動かなくなる。

 うむ? 少々やり過ぎたか? 

「おーい、生きてるか?」

 金髪の元まで移動すると奴をつま先で軽くつついてみる。呻き声を上げていることからも、一応生きてはいるようだ。

「うーむ。もう少しで殺すところだった。こうも脆いとはな。手加減を学ぶためにも、やっぱり、実戦は必要ということか……」

そう独り言ちながら、ニット帽の男に顔だけ向けると、

「ひぃっ!?」

 恐怖に顔を引き攣らせてナイフポケットから取り出しながら後退りをする。僕はニット帽の男まで間を詰めると、奴の顔を右手で軽く叩いてやる。

 たったそれだけで、ニット帽の男は何度も回転して背中から壁に叩きつけられてピクピクと痙攣し始めた。

「これもダメか……。本当に手加減って奴は難しいな」

 まあいいさ。何事も慣れだ。すぐに馴染むだろうよ。

 僕はクラブの扉を蹴り壊して中に入る。

 僕は暗殺者でもスパイでもない。怪人だ。悪の執行者は目だってなんぼ。正面から堂々と蹂躙するべきなのだ。

僕は建物の中に入り、敵を求めて歩き出す。


「死ねぇ!」

 右手に持つサバイバルナイフで斬りかかってくる金髪坊主の男。

「馬鹿が……」

 こいつら、攻撃するときに掛け声をしなければならない病気にでもかかっているんだろうか? 声でバレるし、何より呼吸が乱れるから攻撃のリズムも狂う。いい事など何一つない。

 そのサバイバルナイフの軌道を変えて自身の右肩に突き刺してやる。

「ぎゃあっーー!」

 絶叫を上げて床をローリングする金髪の坊主の男を蹴り上げると弾丸のような速度で回転しながら、ゴリラのような筋肉質の大男に衝突して両者とも泡を吹いて気絶する。

「バ、バケモンっ!」

 悲鳴を上げて僕から一目散で逃げ出そうとする赤髪イケメンまで疾走し、足を払うとクルクルと数回転して顔面から床に叩きつけられる。その後頭部を踏みつけるとクシャッと形の良い鼻が潰れて、踏みつぶされた雨蛙のように痙攣する。

「次はお前らか」

 通路の奥で警棒や鉄パイプを持った奴らに狙いを定める。しかし――。

「ゆるして……」

「助けてくれっ!」

目が合っただけで武器を捨てて土下座で命乞いをし始める阿呆共。

「お前ら……その程度の覚悟で悪を名乗っていたのか?」

 悪とは純粋で一切の混じりけのない暴力だ。その一方的で独善的な力を奮うには何人にも負けぬ信念が必要なのだ。こいつらがそんな大層なものを持っているとは思えない。ただ弱者を利用して欲望を満たしたいだけ。僕がこの世で最も嫌悪する輩だ。

「今まで弱者を好きになぶってきたんだ。お前らに慈悲を叫ぶ権利はない」

 僕は奴らに指を鳴らしながらゆっくりと近づいていく。

 

 懸命に慈悲を願う奴らの一人一人を念入りに折檻してその心を完膚なきまでに折ってやる。まあ、既に折れていたような気もしないでもないが、別に命を奪っちゃいないし、後遺症すら生じない、僕としては温すぎる処置だ。

「イライラする……」

 どうせこの先の部屋にいる奴も、安全な場所や立場でしか力を奮えぬ卑怯者に過ぎない。どうせなら、徹底的に妥協なく真の悪というものがどういうものか教育してやるさ。

 僕は胸に沸々と沸き上がる憤怒に任せて正面の扉をけ破った。


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