第11怪 狂った修行の日常

 それから僕は父から命じられた塾にピアノなどの習い事、古戸流での鍛錬、魔術の自己鍛錬を限界まで実施し、夜は魔力暴発を起こし眠る。そんなストイックというにしては狂気じみている生活を只管繰り返した。

 ちなみに、毎晩全身血だらけとなるので、自室では魔力暴発はできない。そこで対策を立てる必要に迫られた。

丁度良いことに裏山に小さな天然の小さな洞窟があり、僕はこれを利用することにした。

 小遣いで寝袋を購入し、夜間に自室の鍵をかけた上で窓から部屋を抜け出して裏山の洞窟へいき、魔力暴発を実施。その後、起きたら近くの川で全身の血を洗い流し、石鹸で念入りに身体と寝袋を洗う。そして、寝袋を洞窟へと隠す。その後、家に戻って今度こそ二度寝する。そんな塩梅だ。これで父にも発見されず、魔力暴発を毎晩実施することができた。

 魔力は魔力暴発を経るごとに2057から、9664、5万9062、53万1586、742万4872と相乗的に上昇していく。途中で9999億を超えてから、象形文字のようになってしまう。それでもかまわず僕は毎晩この生活を貫いた。

 そんな非日常な生活も慣れれば、日常となる。数か月は生き残る生活を送るのに背一杯だったボクだが、さらなる飛躍の方法を考えられるようになっていた。

まずは、魔導書について。【魔力向上編】には魔力を向上するためのいくつかの方法が記載されていたが、雀の涙の上昇であり、魔力暴発による魔力上昇のレベルには到底至らなかった。

 もはや学ぶことがないと知った僕は読み進めた結果、第二章の【魔力操作編】へと進む。これはまさに全てが目から鱗だった。その内容は魔力の高度な操作法について。それを只管、研究、鍛錬をして取り入れ、発展させていく。

その研究の結果編み出した僕のオリジナル技が、魔力の詳細なコントロールと効果の付与だ。

 まずは大前提。全身を流れる魔力は緻密にコントロールすることができる。腕や足はもちろん、皮膚や内臓といった肉体の特定の部分だけに魔力を込められるのだ。これは魔導書にも書いてあった基本的事項であり特段珍しいことではない。僕が編み出したオリジナルは、この肉体の一部に込めた魔力に意味を持たせて特定の効果を生み出すこと。

 例えば両方の眼球に限定して『魔力量の数値化』の効果をイメージしながら魔力を込める。すると、視界に入る全てのものの魔力量が数値化できてしまう。この技術により、両足に魔力5を込めて『跳躍』の効果を付与して空高く飛ぶことができたり、左手に魔力3の『切断』の効果を込めて木材を切断するなどの緻密な魔力操作が可能となったのだ。

 また、この技術を応用して実現したのが知識の取得だ。僕の理想の怪人Aは、ただの脳筋バカであってはらない。高度な知識も必要なのだ。もちろん、それは塾で学ぶような中学受験にしか大して役に立たぬ子供だましの内容ではない。学ぶ必要があるのは、物理、化学、生物学、医学、語学など実際に生活に必要不可欠な実学。

もっとも、僕には魔術、武術の他、学校への通学や父に指示された習い事などやることは沢山ある。学問だけに費やす十分な時間はない。そこでこの技術を応用し、身体の一部たる脳に魔力を込めて『処理速度と記憶力向上』という効果を付加する。さらに数百万もの魔力を込めた状態で『処理速度と記憶力向上』の効果を無意識化で維持できるように訓練した。

 この結果、読解力、記憶力、理解力が爆発的に上昇し、超高速の読解ができるようになった。

 この力を使って秋菜あきな町と蔵戸町の図書館にある本を読み漁ったのだ。必要な情報が記載されている本を読み終えるまでそう期間はかからなかった。

 致し方なく美緒に依頼して今は世界の主要都市の図書館にハッキングしてもらい情報を取得している。美緒のハッキングの腕は神懸っており、本当に重宝している。まあ、彼女の要求する報酬が最近少々過激になりつつあり、そこが最近の僕の悩みの種でもあったわけだが。

 こんなふうにこの魔力の効果の変質は予想以上に利があり、様々なものに応用できるようになってきている。

 そして美緒という情報取集手段を手に入れた僕は、自らの悪の活動を活発化させていく。

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