第9怪 道場での修行と変な奴との再会
【
身体強化は、地面から大木の枝に跳躍して上り、木々を高速で飛び移れるようになったし、片手で3メートル近い岩を軽々持ち上げられるようになる。物質強化はペーパーナイフで鉄をケーキでもきるかのように切断できた。
そして、【
そして遂に限界魔力量はこの四カ月で200まで上昇することができた。たった1だが、これも重要な一歩だ。これは毎日、マジックポイントを10~20にまで減少した効果だと思われる。
こんな感じで僕の日常はこの上なくよい感じだった。特に道場でも上手く弱いことを誤魔化せていた。ほら、この通りだ。
「よかったな。今日はマケカツだぞっ!」
「そいつに負けたら、マジで恥ずいぜ!」
僕の対戦相手の少年の友人から飛ぶ声援。その様子からして本気で羨ましがっているようだ。
今は週に一度の手合わせ中だ。この古戸流年少の部では、師範が基礎につき合格とみなした者たちの中で『手合わせ』という試合を開催されている。六級から始まり、試合での勝利数に応じて一級まで上がっていく。二級以上になると月謝が無料となり、一級は全国の古戸流の大会のシード権や、逆に給与のようなものさえももらえるらしい。
現に――。
「カっちゃん、頑張って!」
ただ一人、一級の少女、
審判役の師範が両手を上げて、
「初め!」
開始の合図をする。
防具を付けた少年が僕に殴りかかってくる。何の工夫もない稚拙極まりない動きだ。この程度の相手なら魔術を使うまでもなく一瞬で勝負はつく。もちろん、目立ちたくない僕が勝利するのは論外。この試合は仮想のイメージで何度どうやって勝利できるかをするためのものとなっている。
打ち出される右拳や蹴りを鼻先で避けていく。その度に僕はイメージの中で彼の人体急所、
この七か所の人体急所に一度に打突を入れる技を今研究中だ。まあ、危険なんでこんな
「くそぉ! 当たれよ!」
しまった。つい、夢中になってよけ続けてしまった。相手も汗だくで肩で息をきらしている。一目見て限界だ。これ以上は怪しまれる。
「あっ!」
間の抜けた声を上げてよろめくと彼の拳が僕の額にクリーンヒット。そのまま自然に背後に大げさに吹っ飛んでやる。
「勝負あり、勝者五十嵐!」
師範の声が上がって、
「また、負けちゃったか……」
肩を落としながら立ち上がると、
「残念だったね。でも、すごく上手く避けてたよ!」
おそらく元気づけようとしているのだろう。初音が僕に近づいてくると顔の前で両手を振って励ましてくる。
「カツ、お前、避けるのだけは轍もなく上手いのな。五十嵐の奴、絶対あれ、バテてたぞ?」
司も呆れたような表情でツッコミを入れてくる。司は僕に初音に対して特別な気持ちがないと知ると、途端にフレンドリーになる。今では初音のデートの場所やプレゼント選びなどを相談される仲だ。究極のボッチを目指す僕としては初音と司のような目立つ二人とこれ以上関わるのは百害あって一利なしの状況なんだが、なぜか二人の方から僕に関わりを持ってくる。こればっかりは致し方ない。
「そうかな。ま、結局負けたけどね」
実際にこのイメージトレーニングは中々有益だ。一応実戦仕様だしさ。
「それよりも、今から駅前のマルドナルドで昼飯でも食ってこうぜ!」
今日は日曜日だし、結構混んでそうだ。特にこの二人を連れて学校の同級生に会えば間違いなく噂にはなる。人混みを避けたい僕からすればこれ以上目立つ危険性ある行為は是非とも回避したいところだ。
「うん、新しいシェイクが発売されたらしいし、私も行きたいっ!」
初音も乗ってきたし、これは断れないか。
「わかった。じゃあ、着替えて道場前に集合ね」
僕も同意して更衣室へ向かう。
駅前のマルドナルドでハンバーガーと新作のシェイクを食した後、初音と司の二人と店を出たとき、ブラウン色の髪をツインテールにした小柄な美少女が入口で佇んでいるのに気付く。
ツインテールの少女は僕を視界に入れるとすぐ走ってきて抱き着いてくる。
「ちょっと――」
初音が焦燥たっぷりな非難の声を上げる中、
「やっとまた会えたね」
小柄な少女は僕の顔をその豊満な胸の谷間に押し付けると強く抱きしめてくる。
混乱する頭で懸命にこの女が誰だか思い出そうとするが全く心当たりがない。
『やっとまた会えた』の言葉からも、昔あったことがあるはずなんだが……。
「離れなさいっ!」
温和な初音には珍しく据わった目で怒声を上げる。その声に驚いて店の中や通行人たちの視線が僕らに集中する。
このままでは非常に面倒な事になるな。
僕は彼女の拘束を引き離し、
「彼女は僕の従姉さ。父さんに僕を迎えに行くように頼まれたんだよね?」
一方的に捲し立てると二人に右手をあげて、
「じゃあ、僕はこれで帰るよ。早く、お姉ちゃんも!」
「うん、美緒はどこでもいくよ」
頷く彼女の手を引き、二人を振り返ることすらなく歩き出す。
彼女を人気のない河川敷の橋の下へと連れて行くと、
「で? 君だれ?」
片目を瞑り、今一番聞きたかったことを尋ねる。
「あーそれ傷つくなぁ。ほらぁ、半年前、美緒を助けてくれたじゃん!」
ツインテールの少女はさほどショックを受けた風もなく両手を後ろで組んでいたずらっ子のような笑みを向けてくる。
半年前? まさか、あの時ゴロツキに攫われそうになっていた女か! マズイな! あれから誰のアクションもなかったから、上手く誤魔化せたかと思っていた。あのとき、僕を認識していたか!
「僕に何の用?」
警戒心たっぷりの表情で尋ねるが、
「心配ないよ。美緒は君の味方っ!」
快活な笑顔で僕を強く抱きしめてくる。
「いや、それ、答えになってないんだけど?」
彼女を振り払ってそのパッチリした両眼を見つめる。
「美緒、君のことすごく調べたんだ。君、世直しのような事してるんでしょ?」
そういうや、あれから数度、よってたかって大人数でリンチしていた不良どもを悶絶させたり、オヤジ狩りをしている馬鹿どもをぶちのめしたりしたが、あれを見られてたのか? いやそんな気配はなかった。単なるはったりだ。
「なんのことだよ?」
「そうくるか。これ見てよ」
スマホの画面を僕に示してくる。そこにはヤンキーの金髪を鷲掴みしている僕の姿が映し出されていた。くそ、バレてやがる。だとすると十中八九、この後、粋がった馬鹿どもを軽く教育したことも見られている。しかも、このアングル、きっとスマホでとっていないな。もしかして、防犯カメラからの画像か? だが、なぜこの少女がその画像を持っている?
ともかく、証拠もばっちり取られている。スマホを奪って壊してもどうせデータは確保済みだろうし。
「なんの目的だ? 脅迫でもする気かい?」
「まさか、美緒は君のファンよ。君の世直しを手伝いたいだけ。仲間にいれてよ。美緒はすごーーーく役に立つよ。もちろんちゃんと報酬は貰うけど」
報酬か……もしかして、僕が金で動いている裏の住人と勘違いしているとか? いや、彼女は世直しって明確に言っている。そもそも、子供の僕に報酬を与えるほどの金銭などあるわけもない。何より、世直しなどと間違えられるなど、どこぞの
「世直しなんぞしちゃいないし、金ももっていないから、報酬なんて払えない」
はっきりと拒絶の台詞を吐く。
「知っているよ。報酬は――」
僕を強く抱きしめて僕の唇に彼女の唇を押し付けてくる。
突然の彼女の奇行に、頭が真っ白になって身じろぎ一つできない。ただ、彼女の柔らかな唇の感触だけが強烈な主張をしていた。
彼女は僕から離れると、顔をリンゴのように真っ赤に染めながら、
「一件につきこれでいいよ。難易度が高いことは、もっと要求がすごくなるけど」
そんな馬鹿馬鹿しい戯言を宣言したのだった。
ツインテールの小柄な少女は、自らを
LINEでは次回の報酬はデートと書いてあったし、なんとかなるだろうよ。
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