第8怪 マジックブースト
スキンヘッドの男どもをぶちのめした件で、警察に取っ捕まるんじゃないと正直ヒヤヒヤしたが、結局警察からのアクションはなかった。おそらく、今回の件で警察には明確に認識された。次はないと考えるべきだろうよ。悪を執行するためのコスチュームは必要かもな。
当面の問題は古戸流古武術の3万円と保護者の承諾だ。こればっかりは子供の僕にはどうしょうもない。意を決して父に頼んでみたら――。
「そうだねぇ。護身術を学べば、カっちゃんも少しは無茶を止めるだろうし、通うのは構わないよ」
意外なほどあっさり許可された。
「ほ、本当ッ⁉」
思わず身を乗り出して確認すると、
「ただし、塾や習い事はちゃんと続けること。いいね?」
いつもように、念を押してくる。
父の言いつけで塾とピアノの習い事は僕の日常のスケジュールとして組み込まれている。
「うん‼ もちろんだよ!」
両拳を握ってガッツポーズをとる僕に、
「うんうん、カっちゃんが子供っぽくて僕、本当に嬉しいよ」
父は涙ぐんだのだった。
さっそく次の日から古戸流古武術の道場に通い始める。武術など倣ったことがない僕にとって型の稽古一つとっても新鮮でのめり込むには十分だった。
「ねぇねぇ、カッちゃんって本当に武術初めてなの?」
「ああ、全くの初めてだよ」
初音だけではない。どういうわけか、色々な人物から以前武術を習ったことがあるんじゃないのかと聞かれた。基礎を習っていたのなら、端から習いになどきてやいない。
「そう! センスがあるのね!」
「ありがとう」
照れたように頭を掻きながら、小さく謝意を述べておく。
もちろん、僕は自身の身の丈を知っている。センスなど僕にあるわけもない。暇があれば習った事項の鍛錬をしているから、そう見えるだけだ。要するに打ち込む時間の量が人よりも圧倒的に多いだけ。何せ、娯楽の時間を全て鍛錬に使っているからな。
しかし、これはマズイかも。変に優等生扱いされれば、怪人六か条第三条に抵触する。どこかで調整とらねばならないかも。
「おい、お前、初音にそれ以上くっつくなっ!」
少女のように綺麗に整った少年が僕から初音を遠ざけるように割って入ってきた。
彼は既に自己紹介を受けた。
「別にくっついているつもりはないんだけど? ねえ、初音さん?」
「う、うん」
なぜか、顔を真っ赤に染めて俯き加減に頷く初音。
「……」
その様子に益々ヒートアップしてくる司。彼が初音にぽっぽなのは知り合って浅い僕がみてもわかる。
「それじゃ、僕は今から塾があるからこれで帰るよ」
気まずい空気に限界を感じた僕は右手を上げる。
「またね」
手を振ってくる初音に僕も振り返すと、
「早く帰れ!」
司が罵声を浴びせてくる。
苦笑しながらも僕は更衣室へ戻った。
こんな感じでこの4カ月間、僕は極めて充実した日常を送っていた。もっとも全てが順調というわけでもない。限界魔力量の限界値については進展がないままこうして4カ月が過ぎようとしていた。
自室で本のページをめくっていると今までは白紙だった6ページ以降に文字が書き込まれていた。
「ページが増えたッ⁉」
本の6ページから8ぺージまでが閲読できるようになっていた。
どうやらこの本、時間の経過とともに新ページが開くことができるようになる仕組みらしい。同時に、今まで読むことができていた1から5ページは白紙となっていた。要するに新ページを読むと既読のページは読めなくなる。そんなシステムらしい。この本はスマホのデジカメなどの電子機器にも映ることはない。今後は完璧にマスタ―した上で、既読ページを文章に書き起こしてから新ページに進むべきだろう。
さて、6ページから9ページまでの記載内容は魔力の増幅の理論について。
「【
魔力の増幅を考える上で、【
唯一の危惧点はこの【
「ま、実行するけどね」
そもそも、この僕が危険だからと躊躇などするわけがない。こんな便利な魔術なら早い段階で是非とも慣れておきたい。
夜に家を忍び出していつもの裏庭にあるだだっ広い野原に行くと、地面に座ると胡坐をかいて瞼を閉じる。
【
魔力の増幅といっても、魂の中に含まれている魔力の量は一定。実際に魂に存在する魔力量が増えるわけじゃない。あくまで魔力を使用できる蛇口を大きくするだけなんだ。
ここで、各魔術の発動に必要な魔力量は固定されている。例えば、身体強化に必要な魔力量が5であるとしよう。マックスの5まではその魔力量に比例して効果は増大していくが、5以上は引き出すことができない。使用するうちに僕の三魔術の効果が著しく向上したのはこの使用魔力量が必要魔力量の限界値まで上昇したからだ。これが魂から外部に魔力を取り出すための蛇口が一定という意味だ。
この【
つまり、僕のマジックポイントが減らなかったのも、そもそも身体強化という魔術を使用するのに必要な消費魔力量が少なかったのが原因だったわけだ。同時に身体強化や対物強化の効果が僕の魔力が強い割に大したことがなかったのも同じ理由だろう。僕の今の魔力量は数代承継した状態のもの。効率よく使用できているなら、身体強化や対物強力はより強力なものになるに違いがないはずなんだ。
この【
「さーて、やるとするか」
ここからはまさに綱渡り。少しでも調節を誤れば僕の肉体は死ぬ。それでも、停滞よりはずっと良い。
自身の心臓の鼓動がやけに大きく聞こえるのを自覚しながら、僕は神経を集中していく。
いつのまにか、僕の周囲から音が消え、肌感覚を含めてあらゆる感覚が消失する。どこか懐かしくも落ち着く感覚に僅かな戸惑いを感じながらも、僕は瞼を閉じたままお腹の底をイメージする。突如、眼前には大きな扉が出現していた。
「できた! 思った通りだ!」
魔力の流れは不可視だから感覚で理解するしかない。それが緻密な操作の弊害となっている。見えぬならば、イメージとして具現化すればよい。
「次は鍵だ」
右手に持つ鍵を思い描くと右手に握り絞める鍵。そのカギを眼前にあるイメージの扉の鍵穴へといれて反時計回りに回すと、扉は扉が軋み音を立てて開いていく。
「ゆっくり、ゆっくりと……」
慎重に扉を開けていくと全身から熱いものが大量に放出されていく。その莫大の魔力を肉体に滲みこませ留めていく。
「ぐっ!?」
それは全身が無数の手により引っ張られるような独特な感覚。目を開けて自身の身体を確認すると無数の青あざができていた。これが肉体への負荷って奴なのだろう。
僕は目の前の大岩に拳を軽く叩きつける。
拳が大岩に衝突。爆音とともに大岩は放射上に破砕し、大きく割れてしまっていた。
「やった……」
思わず口から歓喜の言葉漏れ出していた。拳一つで岩を割る。これは前の僕には決してできなかった行為。
「これで僕はもうワンランク上がったっ!」
津波のように襲いかかる歓喜を僕は夜空に爆発させたのだった。
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