第4怪 三魔術

 それから翌日、退院が許されると父はよほど心配したのか、即帰国して自宅で自宅療養するよう僕にきつく指示をした。三魔術について確かめたかった僕にとっては、これはこの上なく都合がよく、内心ほくそ笑んでいた。

 そして、夜父が寝静まった後、自室を抜け出して学校の裏山へと行く。ここなら少し無茶をしてもバレはすまい。

それでは待ちに待った魔術の発動試験だ。

 まずは、今僕が最も必要としている【身体強化】から。発動の仕方は本を何度も読んでシュミレーションしており、準備万端だ。もちろん、魔術の発動など、生まれて初めての経験。一度で上手くいく自信など皆無だった。というか、数日かけても到底できるとは思えなかったんだ。しかし――。

「できた!」

 一発で成功してしまう。お腹の中心をイメージしてそこからゆっくりと時計回りに円を描きながら、熱の球体を大きく広げていくと肉体にその熱がしみ込んでいく。十中八九、この熱が肉体に留まる感覚が、術の発動だろう。

 本の内容が正しければ、僕に与えられた術はこの世の理すらも破壊するもの。これはその一端に過ぎない。もちろん、流石にそんな力、何の努力なく単に与えられただけで手に入るわけがないだろうけど。

 高鳴る胸を自覚しつつも大木を殴りつけるとその幹の一部が破砕されていた。跳躍するといつもの数倍高く飛ぶことができ、通常ならばびくともしない大岩を楽々動かすことができる。

「予想よりはかなり平凡だけど、これは中々使えるね」

 僕の子供の力で大木の幹を一部といえども破砕させることなどできるわけがない。この跳躍力、陸上選手並みにある。さらにこの大岩仮にマッチョの大人でも一人で動かすのは難しそうだ。

 もっとも、あくまで僕が子供だったらということ。一流の格闘家やアスリートならば十分可能な範囲。とてもじゃないが、世界の理から逸脱しているとはいえない。言ってしまえばしょぼい強化だ。だからと言って僕は落胆など微塵もしちゃいない。普通の力だが、逆にいえば無難であるともいえる。この力は応用が利く。武術を学べば、この力は数十倍の価値を生むことだろう。何より、此度新しい武器を手にいれた。しかもこれは発展途上の力。

「いいね。いいねぇっーーー!」

 僕は歓喜の咆哮を上げて暫く、目の前の道が開けた喜びの余韻に浸っていたが、

「次は自己治癒と 対物強化だっ!」

 僕は残り二つの魔術の行使を試み始める。


 対物強化はペーパーナイフで小さな木の枝を切断することができた。大木にも小さな傷をつける事ができたから、これを人に使えば大怪我を追わせてしまう。時と場所を十分考えながら使用しなければならない力のようだ。

 身体強化や対物強化だけでも今の僕には十分すぎる効果だったが、自己治癒だけは別格だった。ナイフで切りつけた傷が一瞬で癒える。身体強化や対物強化のようなタイムラグすらないスムーズな魔力操作。多分、僕はこの自己治癒という魔術と相性が頗るよいのだと思う。

 僕はこの魔術という力に没頭していく。


 それから僕は父の目を盗んで、魔術と魔力向上の修行に没頭した。

身体強化、自己治癒、対物強化はかなり、発動までの時間も大分短縮できるようになった。さらに、肝心要のその術の効果もかなり向上できており、大分使える術になっている。

 このように魔術の操作はかなり順調だった半面、魔力限界値の向上は努力を重ねても思うようにいかなかった。

 そもそも魔術を駆使してもマジックポイントが一定以上減らなかったのだ。様々な方法で何度も三魔術を使用したがマジックポイントは150を下回ることはなく、残存魔力量は199を超えることはなかった。

「くそっ! なぜ、マジックポイントが減らないんだ?」

 一日中身体強化と衣服に対物強化を発動しつづけてもマジックポイントは三分一すら減らない。どうやってもこれ以上減らす事はできそうもない。

「そもそも、なぜ、マジックポイントが減ると限界魔力量が上がるんだろうな?」

 確か魔力の上昇は生と死の繰り返しにより爆発的に上昇する。魔力はいわば生命の根幹となるエネルギー。それが枯渇することは疑似の死に近づく。だから、マジックポイントがギリギリまで減少することは、いわば疑似的な臨死体験の状態となり、さらに寝てそれを回復すると魔力が爆発する。そんなロジックだったはずだ。

「生と死の繰り返し……か」

 もしかして、瀕死の重傷を負ってから回復しても似たよう状態になるのだろうか? いや、それも多分違うな。あくまで魔力の減少と疑似の死が同義でなくてはならないんだ。自分の肉体を仮に傷をつけて自己治癒で回復したとしても魔力が変動するわけじゃない。痛いだけで無意味だろうさ。

「完璧にお手上げだね」

 今の僕にはこれ以上は手の打ちようがない。色々調べてみるしかないだろうよ。

 ネットや図書館で情報を徹底的に収集してやる。平行して武術を学ぶ術を見つけるべきだ。いくら身体能力があってもそれを使える技術がなければ目も当てられないし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る