第一章 前世 最強への階段
第1怪 転機
皆さんも、幼い頃、憧れたものがあるんじゃなかろうか? 例えば、それは漫画やアニメにでてくるカッコイイキャラクターだったり、特撮のヒーローだったりすることだろう。その
悪とは純粋で混じりけの一切ない暴力。その暴力を正当化させるだけの矜持が悪には必要だ。
――悪は一切の妥協をしてはならない。
――悪は理解されてはならない。
――そして、悪は己の行為に後悔だけはしてはならない。
その強い信念に基づき執行するのが悪役であり、その悪を執行するべき責任と義務がある。生まれながらに他を圧倒する力を有し、努力もせず威張り散らして命じる存在など、現実の薄汚い権力者どもとどう違う? その意味では悪の巨大組織のボスや魔王など心底吐き気がする。
つまり、ボクが何を言いたいかというと、怪人Aとは権力者やヒーローという一方的で独善的な全体主義者からの理不尽な暴力から、己の信念と誇りを守るために日夜戦わなければならない存在だということ。故に、己の使命を遂げるために悪役は目立ってはならず、ただひたすら日々たゆまぬ努力をしなければならないのだ。
ボクがそんなある意味倒錯した衝動に身を任せたのは、小学校1年生の春だった。
理想の怪人Aになるため、ボクが最初に始めたのは何の変哲もない地道な筋力トレーニング。腕立て伏せ、腹筋、スクワットなどだ。これはテレビやネットで、格闘家たちやアスリートたちがそのような筋トレをしているのを見たから。
当然のごとく、筋トレをしただけで強くなれたら世話はない。特に僕は小柄であり、女の子のような華奢な体型をしていたから、なおのこと筋肉は付きにくかった。それでもめげずに約半年間、筋トレやランニングを続けていたとき、僕に転機が訪れる。
僕の母は物心つく前に亡くなっており、父子家庭だ。父はジパングでも有数の考古学の研究者であり、普段から世界各国を飛び回っていた。特に幼稚園や小学校が長期の休みになると決まって僕を連れて遺跡の発掘に行くことが慣例となっていた。
小学3年生の春も例のごとく西欧のエルドラで最近発見された遺跡を訪れることとなる。
その遺跡はエルドラ南西部の山奥の巨大な洞窟の中にある廃墟となった街だった。
洞窟はかなり広くそのはるか昔、中規模の街が丸ごとすっぽりと入っていたのだと推測された。
なぜかこの遺跡が無性に気になった僕は、皆がまだ起きていない早朝に父の目を盗んで、その遺跡を探索することとした。それはきっと本当に偶然だったんだと思う。街の隅の大きな建物の跡地をぶらついていたとき、
「うわっ!?」
突然足を取られて地面に尻もちをつく。その尻もちをついた地面に円形の赤色の光が浮かび上がる。
「な、何? これ?」
幾多もの重なった円の中にはいくつもの不可思議な紋章や象形文字が浮かび上がり、グルグルと回っていた。
父には遺跡にはトラップのようなものがあることがあり危険だから、絶対に近寄るなと言われている。まさか、これがそのトラップというやつなのだろうか?
僕が逃げようとしたき、腰を下ろしている真っ赤な円形の模様は、地面とともにごっそり消失して穴となり、僕はそこに落下していく。
その穴の中をグネグネと滑り台のように滑っていき、冷たい石の地面へと投げ出される。
「いたた……」
ぶつけた腰を摩って立ち上がり辺りを確認すると、そこは四方が黒色の石からなる通路だった。
落ちてきた天井を見上げて登れるかどうかを確認しようとするが、
「はい?」
口から洩れる素っ頓狂な声。それもそうだ。それらしき穴は存在しなかったのだから。
どう考えてもこれは異常だ。仮にこれがトラップだったとしても、落ちてきた穴が消失するなどあり得ない。要するにこれは――。
「
この摩訶不思議な現象、それはきっと僕が幼い頃から見えていたものと密接な関係がある。だとすると、あの地面に生じた赤色の模様も、僕以外には見えない可能性が高い。
「進むしかない……」
そもそも、ここへの入口が僕以外見えない確率が高い以上、このまま待っていても助けに来る可能性は極めて低い。出口を自ら見つけるしかない。
首を振ってひどく頼りない陰鬱とした気分を必死に振り払い、石の通路を歩き出す。
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