第7怪 最強の悪の怪人となることの誓

気が付くと、そこは何もないだだっ広い空間だった。天上と床は白と赤のチェック模様でできており、果てがないほど続いている。

「ここは?」

 なぜ、自分がここにいるのかを思い出そうとするが、頭に靄がかかっているかのようにどうしても思い出せない。

「ん?」

気配を感じて振り返ると、真っ白椅子に8~9歳くらいの眠そうな目つきの少年が座っており、こちらを興味深そうに観察していた。

『やあ、やっと・・・会えたね』

「やっと会えた?」

 やけに意味深のその台詞に思わず聞き返していた。

『うん。僕は君の力の源。そう言えばわかるかな?』

「お前――俺の中に入っていた半魔か!? お前のせいで俺は――ッ!」

 こいつは俺の分身であり、俺を怪人にした不幸の源。

『人風情に半魔扱いされるとは心外だね。それに、君の不幸は分をわきまえずこの僕を君に強制的に入れようとした下等生物どもが原因だ。僕を恨むのは筋違いだよ』

 ムッとしたように口を尖らせて至極当然の返答をする。

「それで? ここはどこで、俺に何の用だ?」

 俺のこの質問に白髪の少年は暫し目を見張っていたが、

『君、それ、本気で言っている? そもそも、僕に願いを乞うたのは君の方だろう?』

 聞き返してくる。

「はあ? 俺が願いを乞うた?」

 白髪の少年は俺の顔をマジマジと凝視していたが、

『あーあ、くそっ! 内在する力が弱すぎて術が不完全となってしまったのか。魔力を絞り出してこれだ。まさかこれほど貧弱だとはね。流石の僕も、予想にもしなかったよ』

 苦渋の表情で、そんな失礼な感想を述べる。

「よくわからんが、馬鹿にされていることだけはわかるぜ」

『忘れているならば、余計な話をしても意味ないね。いいかい、今から僕の言うことを耳の穴をかっぽじって聞くんだ。ここから君に伝える事は君の今後の運命、しいては僕の目的の成就に関わる重要なことだ。と言っても多分、全て忘れるとは思う。でも、覚えて置くんだ! いいね!』

 当初の余裕の態度とは一転、白髪の少年は鬼気迫る形相で椅子から立ち上がると俺の前までくると、そんな矛盾以外の何ものでもない台詞を叫ぶ。

「あ、ああ、わかった」

 あまりに真剣な白髪の少年の様子に気押されて、思わず何度も頷く。

『僕は一つの術を発動した』

「術?」

『そうさ。これは僕の本質に根ざす術。さらに僕の目的を遂げるまで一度発動すれば僕にも制御は不可能だ。君はたった一人でやり遂げねばならない』

「やり遂げる? 何をだよ! さっきからお前の言っていることはさっぱりだ」

 白髪の少年は苦虫を噛み潰したような顔をすると、

『君は今から前世に戻ってやり直しの権利を得た。本来ならば君の記憶を保っての態様だった。でも、君の魔力マナがあまりに貧弱だったから、おそらく記憶は承継されず、全て忘れるだろう。君にはもうその変調がでているしね』

「前世に戻る? それは何の冗談だよ?」

そんな便利で反則的な力あったら世話はない。いくらでも歴史の改ざんができる事になってしまう。

『冗談じゃなく、真実さ。既に賽は投げられた。もう君は止まらない。いや止まれない。幾度も前世と後世と行き来する。ただし、やり直すことができるのは前世ただ一つ。前世をいくら変えても後世の事象には何ら影響はしないし、その逆もしかり』

「それじゃ、前世に行く意味なんてねぇだろ?」

 もし俺が変えたい歴史があるとすれば、それは俺が生きるこのクソッタレな世界だ。前世なんぞではない。

「ただ一つの例外があるのさ」

「例外?」

『そうさ。前世で得た力や技術、魔力、身体能力に至るまで後世でもそのまま承継することができる。だから、願うんだ。精一杯、君の理想を願って強くなる事を! もし、君が努力せずに弱いままならば、君は次こそ全てを失い死んでいくことになる』

「全てを失い死んでいくってのはどういうことだ? 第一、前世に転生しても忘れるなら、努力しようがねぇだろっ!」

『そうさ。だから、本来これは君の潜在能力を読み違えていた僕の負け。ただの悪あがきに過ぎない。どのみち、君に選択肢はない。でも、ポジティブな点もある』

「ポジティブな点?」

「ああ、最初の帰還までは期間が長く設定できるのさ。おそらく、最初に後世に戻るのは君が前世で13歳なったとき。そのとき、君は後世へと戻る』

 そこまで口にすると、白髪の少年は周囲に視線を移して小さな舌打ちをする。

 俺も釣られて白髪の少年の視線の先を見ると、

「なッ⁉」

 驚愕の声が漏れる。さもありなん。永遠とも思えるほど続いていた白と赤とのチェックの天上と床は、俺たちを中心にした半径数十メートルを残して濃厚な真っ白な霧で多い尽くされていたのだから。

『どうやら、ここら辺がタイムリミットだ。いいかい。願え、ひたすら強くなることを!』

 その言葉を最後に白髪の少年は真っ白な霧に飲み込まれてしまう。

 強くなれか。なぜだろうな? 今、俺はその言葉に強い強制力を感じている。

 俺がヒーロー共に、いやこの世界に家族を含めたあらゆるものを奪われたのも、対抗する力がなかったからだ。もし、俺に何ものにも負けぬ他者を圧倒する力があれば、こうはならなかった。

 そうだな。もし前世に生まれ変われたならば、今度こそ力をつけて見せる。例えこの手を悪逆に汚そうとも、この世の誰にも負けない最強の悪の怪人としての力を!



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