第57話 竜王様、ギルドマスターに出会う


 冒険者ギルドに戻ると、なにやら建物内は物々しい雰囲気に包まれていた。


「ではこれより討伐隊を編成します。銀級、黒銀級以上の冒険者の皆さんは集まって下さい!」


 リリーさんの周りには真剣な顔をした冒険者が何人も集まっていた。あ、黒ハイエナの人達も居る。


「何かあったのかな?」

「なんだろ?」

「みぃ?」


 私はたまたま近くに居た冒険者の男性から事情を聴く事ができた。

 なんでも私達が今、冒険してきたダンジョンで階層主の変異種が出現したらしい。

 変異種とは通常のモンスターが異常進化した個体で、その強さは通常種を遥かに凌ぐらしい。

 普通のモンスターの変異種でもかなり珍しい事例なのに、ダンジョンの、それも階層主が変異種になるなど前代未聞だそうだ。


「確認されたのは五階層の階層主だ。ホブゴブリンの変異種キングゴブリンさ。強さだけならはるか下の階層――五十層の階層主クラスの強さだ」


「へぇー」


「へぇーって、お嬢ちゃんなあ……。五十層っていやぁ、黒銀級はおろか金級の冒険者ですら命懸けの階層なんだぞ?」


 そうなんだ。確か冒険者のランクって下から、銅級、銀級、黒銀級、金級、聖金級だったっけ?

 アナさん曰く、聖金級は国家戦力級で大陸に三人しかいない。その強さはもはや人外で、実質的には金級が冒険者が到達できる限界って言われてるらしい。

 そんな人たちでないと相手にできないなんて、凄いモンスターも居るんだなぁ。せっかくダンジョンに行ってきたんだし会ってみたかったなぁ。


「ま、私達には関係ない話っぽいし、魔石やアイテム換金して帰ろうか」


「うんっ」


 私達は換金所に向かうと、ダンジョンで採ってきた魔石やアイテムを渡す。

 今のところは魔石に不自由もしてないし、今回は全部換金しちゃおう。


「ん……これはまさか……っ」


 すると、受付の男性は私達の持って来た魔石を見て表情を変える。正確には一番大きな魔石。あのホブゴブリンから獲れたやつだ、


「し、失礼ですが、この魔石のモンスターを倒したのは……?」

「えーっと、この子です」


 私はポアルを前に出す。


「えっ? でも、あれってあまねが――」

「……私、魔力無しってことになってるから、ポアルが倒したってことにしといて」


 どうせ大したモンスターじゃないし、ポアルの手柄にしても問題ないだろう。


「しょ、少々お待ちくださいっ」


 受付の男性は何やら酷く慌てた様子で奥に引っ込んでしまった。

 いったいどうしたんだろうか?

 しばらくその場で待っていると、受付の男性が戻ってきた。


「失礼。お待たせいたしました。少々、ギルドマスターからお話がありますのでこちらへよろしいでしょうか?」


「……? はあ、分かりました」


「?」


「みゃぁ?」


 私達は奥の部屋へと通された。

 中に入ると、でっかい筋肉質なおじさんがいた。かなり厳つい顔で、左目は眼帯で覆われている。


「初めまして。ギルドマスターのマッスルだ。まあ、座ってくれ」


 促されて席に着く。


「まず確認したいんだが、君たちがあの魔石のモンスターを倒したってのは本当か?」

「はい、本当です」


 嘘ですけど。


「わ、私がたおしたっ」


 ポアルも私の嘘に乗っかってくれる。まあ、でも全くのでたらめって訳じゃない。倒したのは私だけど、あの程度ならポアルが実際に戦っても勝てた相手だ。だからポアルの手柄でも何も問題ない。


「……そうか。ふぅー……」


 ギルドマスターのおじさんは天井を仰ぎ見ると、しばらくしてから私達の方を見た。


「……礼を言う。君たちのおかげで我々は余計な犠牲を出さずに済んだ」


「はい……?」


「階層主の変異種の話は知っているか?」


「まあ、いちおう」


「あの魔石は、その変異した階層主のもんだ。本当はこれから討伐隊を組んで討伐に向かう予定だったんだ。とはいえ、殆どが銀、黒銀級の冒険者だ。かなりの犠牲者が出ただろう。それを未然に防げたのは幸運だった。冒険者ギルドを代表して礼をいう。本当に良くやってくれた」


「え、そうなんですか? あれってそんな凄いモンスターだったんだ……」


「へぇー」


「みゃぅー」


 ただのホブゴブリンだと思ってたもん。

 私達の反応リアクションに、ギルドマスターのおじさんはポカンとする。


「……その様子じゃ本当に何も知らずに倒したみてーだな。とんでもねぇ嬢ちゃんたちだぜ。なるほどな、アナが入れ込むの納得だ」


「アナさんを知ってるんですか?」


 というか、私たちのことも知ってる?

 ギルドマスターのおじさんは頷くと、懐から取り出した葉巻に火をつけた。


「知ってるもなにも、アイツとは冒険者時代のツレだ。俺ぁ金級までしか上がれなかったが、アイツは聖金級まで上がれる器だった。……本人は辞退したがな」


「あなってすごい冒険者だったんだ」


 アナさんの話に、ポアルが目を輝かせている。


「ああ、そりゃあすげぇ冒険者だったぜ? 『青薔薇』なんて二つ名で呼ばれててな。大陸最強の魔法使いって言えば、誰もがアイツの名を口にしたもんだ。それだけにアイツが冒険者を引退するって時には、誰もが驚いたよ。なにが『魔道具店をやる事にしたわぁん♪』だ。あの馬鹿垂れが」


 口では悪態をつきつつも、その口元には笑みが浮かんでいた。

 きっと本当にアナさんと仲が良かったのだろう。


「今でもアイツとはたまに酒を飲むだが、その時に嬢ちゃん達の話も聞いてな。中々見込みのある子達だと。アイツが人を褒める事なんざ滅多にねぇからな。そもそもアイツが人を雇う事なんて今までなかったんだ。余程気に入られたんだろうぜ」


「そ、そうなんですか……? なんか可愛いから採用、みたいな軽いノリだったんですけど」


「がっはっは、アイツらしいぜ。まあ、雑談はこの辺にして本題に入るか。ほら、これ」


「ん?」


 ギルドマスターのおじさんはポアルに何かを投げてよこす。

 それは冒険者のタグだ。でもポアルが持ってるのとはデザインと質感が違う。


「黒銀級冒険者のタグだ。表層とはいえ階層主の変異種を倒した冒険者が銅級じゃ示しがつかねーからな。本当ならすぐにでも金級にしてやりてーんだが、オレギルドマスターの権限じゃ黒銀までしか上げられねぇんだ。金級以上は国からの評価も必要になってくるからな」


「へぇー、そうなんですね。良かったね、ポアル。大出世じゃん」


「やったー♪ あまね、似合う?」


 ポアルは新しい冒険者タグを首から下げる。


「うん、似合う、似合う。ポアルはなに付けても可愛いねー」


「むふー♪」


 なでなで、にっこり。ミィちゃんは当然だけど、ポアルも撫でられるの好きだよね。


「がっはっは、仲が良いな。というか、嬢ちゃんはいいのか?」


「……? なにがですか?」


「冒険者の資格だ。もし必要なら嬢ちゃんにも冒険者資格を与えることが出来るぞ?」


「うーん、別にいらないです。別に不都合はないですし」


「そうか。もし必要ならいつでも言ってくれ。黒銀は無理だが、銀級ならすぐに手配できる」


「じゃあ、機会があればよろしくおねがいします」


「ああ、いつでも言ってくれ。話はこれで終わりだ。時間を取らせて悪かったな。どこか急ぎの用事があれば、馬車を手配するが?」


「あ、大丈夫です。あとは家に帰るだけなので」


「またねー」


「みゃぅー」


 そんな感じで、ギルドマスターとのお話は終わった。


「さて、それじゃあ家に帰ろっか。家に帰るまでが冒険だよポアル」


「うんっ」


 こうして私とポアルとミィちゃんの初めての冒険は大成功に終わるのだった。

 しかしこの時の私は知らなかった。

 そもそもどうしてダンジョンの階層主が変異したのかを。

 この騒動にはまだもう少し続きがあったということを――。





あとがき

本日、本作書籍版発売です

加筆や書き下ろしマシマシです

イラストもめっちゃ可愛いので何卒よろしくお願いします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る