第56話 竜王様、階層主に挑む

 ――とまあ、そんな感じにダンジョンを進んでいると、気付けば私達は第五フロアの最奥へと到着していた。


「途中で結構な数の冒険者ともすれ違ったね」


「みんななんか慌てて戻ってたけど、どうしたんだろう?」


「なんか早くこのことをギルドに、みたいなこと言ってたね」


 私達にも気づかなかったしよほど慌ててたんだろう。まあ、私達には関係ないことだ。


「えーっと地図によればこの扉の向こうに階層主が居るみたい」


「おぉー」


「みゃぅー」


 階層主。それはダンジョンの一定階層ごとに配置されているボスモンスターだ。

 強さはその階層で出現するモンスターよりも遥かに強く、倒せば一定確率で他のモンスターよりも良質な素材やアイテムが手に入るらしい。


「えーっと、マッピングによればここの階層主はホブゴブリンっていうゴブリンの上位種みたい。区切りも良いし、ここを攻略したら一旦引き返そうか?」


「うん、頑張る」


 すでにここに来るまでにポアルは何十体というモンスターと戦ってきた。

 というか、ほぼ一方的に倒してきた。ポアルにもいい経験になっただろう。


「うーん、ここもポアルにお任せって思ったけど、せっかくだし私も少しは戦ってみようかな。いい、ポアル?」


 ここまでずーっとただポアルの後をついて、ドロップアイテムを拾ってきただけなので、せっかくだし私も少しは体を動かしたい。というか、色々情けない姿も見せたので挽回したい。


「いいよ。私もあまねの戦ってるところみたいっ」

「みゃぅー」


 ポアルの同意も取れたので、階層主とは私が戦う事になった。

 でっかい扉を開けて中に入る。

 私達が入ると、扉は締まり、薄暗い室内に明かりがともされた。


「――ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」


 そこには身の丈が十メートルを超える巨大なゴブリンが居た。

 通常のゴブリンと違って肌の色は赤銅色で、全身がかなり筋肉質だ。

 頭には王冠を被り、煌びやかなマントをはためかせ、手には巨大な剣を握りしめている。あれってアズサちゃんの知識にあったバスターソードってヤツかな? 


「へぇー、でっかいねぇ。これがホブゴブリンかぁ。上位種ってこんなに姿が違うんだね」


「すごく強そう」


「みゃぅー」


 流石、上位種といったところか。

 感じる魔力も普通のゴブリンよりもかなり多い。

 でもダイ君やアナさんよりは少ないかな? ぶっちゃけ大したことなさそう。

 まあ、いうて五階層のボスだしね。もっと下の階層なら話は別だろうけど。


「んじゃ、戦ってみるかなー」


「ゴォォオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 のんびりと前に出た私目がけて、ホブゴブリンは襲い掛かって来た。

 手に持った大剣を私目がけて思いっきり振り下ろす。


 バキンッ!


 折れた。剣が。


「………………ォァ?」


 ホブゴブリンが何とも間抜けな声を上げた。


「脆いね。こんな剣、私が付喪神ちゃんにあげた鎌にも及ばないよ」


 あんなオモチャにも劣るなんて、ずいぶんなまくらな剣だ。見かけ倒しだね。


「ォアォ? ァ……ァァアアアアアアオオオオオオオンッ!」


 剣が折られたことに怒ったのか、今度はその拳を私に叩きつけてきた。


 グシャリ。


 砕けた。拳が。


「アンギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアlt!」


 ホブゴブリンの悲鳴が木霊する。


「やわっこいなぁ。やっぱり全然強くないじゃん。見かけ倒しだね」

「? ……?? ? ?」


 ホブゴブリンは何が起きたのか理解出来ないように、私と自分の拳を交互に見る。


「パンチってのはこうやるの。えいっ」

「ッ! ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアツ!」


 私が拳を振るうと、ホブゴブリンは一瞬で吹き飛び、塵になって消えた。

 ポトリと、足元にこぶし大の魔石と煌びやかな装飾が施された指輪が転がる。


「うーん、あんまり大した運動にはならなかったなぁ」


「すごい、すごいっ! あまね、あんな強そうなモンスターに勝っちゃった」


「みゃぅみゃぁ~」


 ポアルとミィちゃんが興奮した面持ちで駆け寄ってくる。


「いやいや、ポアル。あれ、見かけ倒しで全然強くなんてないよ。たぶんポアルでも簡単に勝てたと思うよ」


「そ、そうかな?」


「そうだよ。あ、そうだ。この指輪、ポアルにあげるよ」


「え、いいの? あまねが倒したのに?」


「初めてのダンジョン探索だし、これは私とポアルの思い出にしたいんだ。だから貰ってよ」


「ッ……うん! 大切にする!」


 ポアルは指輪をはめると、それをうっとりと眺める。

 うん、似合ってる、似合ってる。


「さて、それじゃあアイテムも手に入れたし帰ろうか」


 見れば、部屋の奥に下に進む階段が出現していた。その隣には地上へ戻るための帰還用の魔法陣も浮かんでいる。

 どういう仕様なのか分からないが、ダンジョンでは階層主を倒すと帰還の為の魔法陣も出現するらしいのだ。

 親切な仕様だよね。


「みゃぅ~」

「ん? どしたのミィちゃん?」


 見ると、ミィちゃんはダンジョンの壁をしきりにぺしぺしと叩いていた。時折、カリカリと引っ掻いて傷もつけている。……爪とぎでもしているんだろうか?

 カリカリと妙に規則性のある動きで、ミィちゃんは壁で爪を研いでいく。

 お、魔法陣みたいな形になったね。センスあるじゃん。

 でも早くしないと帰還の魔法陣が消えてしまう。


「どうしたの、ミィ? 行くよ」

「みゃぅー」


 ポアルに急かされると、ミィちゃんは満足したようにポアルの無な者とに飛び込む。


「んじゃ、帰ろう」

「うん」

「みぃー」


 私達は帰還の魔法陣に乗っかると、地上へ戻るのであった。





 あとがき

 25日に書籍版が発売します

 数万字ほど加筆&書き下ろしもありますので、もしよければそちらも読んで頂けると嬉しいです

 イラストのポアルとダイ君が可愛いです。あと不死王

 よろしくお願いします

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