第53話 竜王様、ポアルに魔法を教える 前編
依頼を受注した私達はダンジョンへ向かう。
ここから一番近いダンジョンは、王都郊外にある洞窟型のダンジョンらしい。私達のホームとは真逆の方向だし、歩くと結構な距離がある。
「ダンジョンかぁ……懐かしいなぁ……」
「あまね、知ってるの?」
「うん、竜界にもダンジョンはあったからね。大半は地龍が作り出す巣穴なんだけど、大きい巣だと階層二千層、深さは十万㎞にもなるやつでね。すっごく綺麗な宝石が取れるから、みんなこぞって潜っては宝石を採って巣穴を荒らして地龍を怒らせてたなぁ……」
「うわぁ……」
「みぃ……」
しみじみと昔を思い出す私に、ポアルとミィちゃんはドン引きしていた。
「他には魔力溜まりからダンジョンが発生するってケースもあったね」
「まりょくだまり……?」
「うん。厳密に言えば魔素溜まりって言うのかな? 要は物凄く濃い魔力が一箇所に集まると、空間を侵食してダンジョンみたいなのを形成しちゃうんだ。この場合、地龍が作ったダンジョンと違って、迷宮核ってのが存在するの。これを壊しちゃえばそのダンジョンは無くなっちゃう」
「へぇー」
ポアルは私の話が面白いようで目を輝かせてる。
「こっちの世界のダンジョンも似たような感じみたいだよ。私達が今から行くダンジョンは後者。迷宮核が存在するダンジョンみたいだね」
「なるほど。それで……ダンジョンに潜ってなにすればいいんだ?」
「……ポアルって意外と説明聞いてないところがあるよね。まあ、私も興味のない事は覚えない性質だから人の事は言えないけどさ。リリーさんが言ってたでしょ? ダンジョンにはモンスターが居るからそれを倒して魔石や素材を手に入れるんだよ。宝箱ってのもあるらしいけど、これは滅多に見つからないらしいし」
「……モンスターと戦うの?」
一転、ポアルは不安めいた表情になる。
そう言えば、ポアルはまだモンスターとの戦闘経験が無かったね。
以前、森でイノシシを狩った時も怖がってたし、これはちょっと不安だなぁ。
まあ、いざとなったら私が倒すからポアルには万に一つも危険はないけど、今回のダンジョン探索はあくまでもポアルが主役。
ポアルが戦えない事にはお話にならない。
うーん、どうしたもんか?
「あ、そうだ。ポアルって魔法は使えるの?」
「魔法……? 使った事ないよ? あまねに会うまで角折れてたし」
「あー、そうだったね。ごめんね。嫌な事思い出させちゃって」
そうだった。ポアルは人と魔族のハーフで、本来は人からも魔族からも忌み嫌われる存在だ。生まれつき角は片方しか生えておらず、その一本しかない角も、嫌がらせのように折られてしまった。
角は魔族にとって力の象徴であり、魔力を制御する大事な器官だ。
それを折られてしまったポアルはこれまで碌に魔法も使う事が出来ず、生きることも困難な生活をしてきたんだった。
「ぜんぜん気にしてないよっ。ほらっ! 今はあまねに治してもらった角があるもんっ」
「うんうん、立派で可愛い角だね。なでなで」
「ひゃぅ……くすぐったいよ~。やめてよ、あまね~♪」
といいつつ、顔は全然嫌がってないじゃないか。
「うーん、それじゃあダンジョンに向かうまでの間に、ちょっと魔法の訓練でもしてみる?」
私がそう提案するとポアルは目を輝かせた。
「いいの? やってみたい!」
「みゃぅ!」
何故かついでにミィちゃんまで手を上げる。
成り行きとはいえ、ポアルとミィちゃんは私の眷属だ。
竜王である私の影響を受けて、内包する魔力量はかなり増大している。
でもいくら魔力があっても、それを使い来ないこなせなければ意味がない。
「それじゃあ、私が竜界で一番得意だった夢幻魔法を――って駄目だね。ちゃんとこの世界の魔法じゃないと……」
この世界にはこの世界の魔法があり、この世界のルールがある。
私はあくまで休暇の為にこの世界に来ているんだから、そのルールを破っちゃ駄目だ。
……割と、もう何回も破ってる気がしないでもないけど、そこは眼を瞑ってしまおう。
という訳で世界中枢記録にアクセスして、この世界の魔法についての知識を得る。
この世界の魔法は六つの属性と九段階の強さのランクがある。
属性は私やアズサちゃんがこの世界に呼ばれて魔力測定した時に姫様が言ってたアレだね。
火、水、土、風、光、闇。基本はこの六つで、それを組み合わせることも出来る。
確かアズサちゃんは属性三つだったっけ? 風と土と光。
この世界では誰でも魔力を宿し、基本的に必ず一つ以上、属性を持つらしい。二つでかなり珍しく、三つ以上は数百万人に一人ってレベル。
次に強さの段階。下から順に下級、中級、上級、将級、王級、法王級、聖王級、霊王級、神王級となっている。これは使う魔法の威力、扱いやすさを基準に設定されているそうだ。
どの属性であっても上級まで修得出来れば一人前。将級、王級が扱えれば天才、法王級以上ならば歴史に名を残せるレベルだという。
こういう括りって人間らしいなーって思う。
何せ竜界にはこういうの一切ないからね。
精々が弱い、強い、めっちゃ強いくらいの大雑把な括りで、属性も無い。だって竜にとって魔法なんて手足を動かすのと同じ感覚で使えるものだからだ。
流石に得意、不得意はあるけどね。たとえば火竜は水魔法が苦手だし、逆に水竜は火魔法が苦手だ。でもあくまで苦手なだけで、使えないって訳じゃない。
それに対してこの世界では、属性以外の魔法は使う事すら出来ない。不便だなーって思う。
ちなみに私が使った
「えーっと確かポアルの属性は闇と水だったよね?」
「そうなの?」
「うん。確かそうだったよ」
初めて会った時に
「ミィちゃんは光だったっけ?」
「みゃぅ~?」
ミィちゃんはこてんと首を傾げる、可愛い。ちょう癒される。ナデナデすると、もっともっととねだってくる。うーん、ラブリー。
「という訳で、ポアルには闇と水の魔法を教えるよ。ミィちゃんは光の魔法ね」
「わーい♪」
「みぃ~♪」
ダンジョンに到着するまでまだ時間はあるし、ポアルとミィちゃんへの魔法講座が始まった。
あとがき
ちなみに十万㎞って地球二周半くらいの長さらしいです
……長いね!地龍のダンジョン!
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