第54話 竜王様、ポアルに魔法を教える 後編

「そんじゃ、まず私と手を繋ごう」

「ん」


 私とポアルは両手を繋いで輪っかを作る。

 まずは魔法を使う最初のポイント、魔力を感じ取る事。それを覚えるには、他者から魔力を流してもらうのが一番手っ取り早い――と、世界中枢記録さんに書いてあった。

 

 という訳で、ポアルに魔力を流す。いちおう断っておくが、これはあくまで魔力を体内を循環させるだけの形なので、魔力が外に漏れて、世界が滅びる事もない。

 私が魔力を流すと、ポアルがピクリと反応する。


「あっ……なんか、体がぽかぽかしてきた」


「おー、しっかり感じ取れてるね。そのぽかぽかが魔力だよポアル」


 次に私は己の魔力を抑え、今度はポアルの魔力を循環させるようにシフトする。


「んっ……なんか不思議な感じがする、二つのぽかぽかが体の中でジンジンする感じ……」


 私の魔力だけじゃなく、自分の魔力もしっかり感じ取れているようだ。


「それじゃあ、ポアル。次はそのぽかぽかに意識を集中させて。ぽかぽかの流れを掴んで、自分の体の隅々まで行き渡らせるように。それができたら、次にそのぽかぽかを手の平に集中」


「ん……できた」


 つないだ手からポアルの魔力が溢れ出す。


「ポアルの魔力の属性は闇と水だよ。まずはそのぽかぽかを暗い穴に落とすイメージ」

「うん」


 するとポアルの手に集まった魔力が暗い影のように変化する。


「いいね。じゃあ、次は水だ。こっちはぽかぽかを水滴に変えるようにイメージするんだ。口からよだれが出たり、眼から涙が出てくるようにぽかぽかが体から水分になって零れてくる感じで」


「うん……出来た」


 握った手から水滴が零れ落ちる。

 中枢記録によれば、これが出来るまでにまず一か月はかかるって書いてあったんだけど、ポアルは一発で出来てしまった。ひょっとしたら魔法の才能が凄いのかも。


「良く出来たね、ポアル。それが魔法の基礎だよ。そこから放出量と変化させる量を増やせれば、ポアルは立派な初級魔法使いだよ」


「ほうしゅつりょうと、へんかさせるりょうをふやす……。増やすのはさっきのぽかぽか?」


「うん、ぽかぽか。増やすようにイメージするの」


 魔力よりもぽかぽかって言った方が、ポアルにはイメージしやすいようだ。


「イメージ……増やす……ぽかぽかをもっと……」


「まあ、すぐには出来ないと思うよ? まずは魔力●ぽかぽか●をもっと感じとる訓練をして――」


 と、私が説明していると――


 ザッパァァァァァンッッ!


 目の前に巨大な水の塊が発生し、重力に従って地面に落ちた。

 水飛沫が拡散し、周囲が一気に水だらけになる。


「…………え?」


 視線の先には手を水平にかざしたポアルが居た。


「あまね、なんかできた! 頭の中で増えろってイメージしたの! みてみて!」


 更にポアルは手を上へかざす。すると黒い魔力が風船のように膨らみ一メートル程の闇の球体を作り上げた。


「えいっ」


 ポアルが手を振ると、闇の球体は勢いよく射出され、目の前の岩に激突。岩は粉々に砕け散った。


「こんな感じでいいのか? 私、ちゃんとできてる?」


「す、すごいよポアル! 今の闇属性の上級クラスの魔法だよ! 教えてすぐにここまでできるなんて、ポアルは天才だよっ」


「私、凄いの?」


「凄い、凄い! ポアル、凄いよっ」


「むふー♪ あまねに褒められた。嬉しい」


 私に褒められて、ポアルはまんざらでもない笑みを浮かべる。

 いや、実際マジで凄い。

 この世界では上級魔法を習得するのに軽く十年は掛かるらしい。それをすぐに使えるんだから、ポアルは本当に天才なのかもしれない。


「うーん、こんなにすぐに覚えられるんなら、将級とか王級の魔法もいけるかもしれないね。ポアルやってみない?」


「やるっ。魔法覚えるのすごく楽しい! もっと色々覚えたいっ」


「よし、じゃあせっかくだしいけるところまでいってみようか!」


「わーい♪」


 ……こうして私はポアルにどんどん魔法を教え、ポアルもスポンジが水を吸収するかのように次々に魔法を習得してゆく。

 なんとこの短時間で水属性は将級、闇属性は王級まで取得し、その混合魔法まで使えるようになった。


 まあ、覚えておいて損はないしね。


 これでポアルもなんとかモンスター相手でも戦えるようになるだろう。

 そんな感じで魔法を教えていると、気付けば目的地であるダンジョンはすぐ目の前まで迫っていた。

 さて、それじゃあダンジョンいってみよーか。




 ――ちなみにその頃、勇者アズサも騎士団から魔法の訓練を受けていた。


「そうです、アズサ様、そうグオーって感じにお腹に力を溜めて、それをこう一気にどばーって感じです!」


「なるほど完全に理解しました! こんな感じにグッてしてぐあーですね!」


 アズサが魔力を操作すると、手から神々しい光が溢れ出し、それは一筋の閃光となって目の前にあった木に穴をあけた。光属性の初級魔法『光ノ矢』である。


「そうそう! やっぱりアズサ様は筋が良いですよ! あとはこうガーッって感じに!」


「うはー! 心臓とかがバクンバクンって感じで、メキメキメキーですね!」


 騎士団の女騎士アンヌに説明されるままにアズサは魔法を使いこなし、メキメキと上達していた。


「ダイー……ダィィッ!」


 その横でダイ君が土属性将級魔法『土流大障壁』の練習をしている。


「……なんであの説明で分かるんですかね?」


「まあ、ジュゼットも勇者様も感覚派だからな。理論的に教えるよりも感覚で覚えた方が効率がいいのだろう」


「というか、ダイ君ますます強くなってません? 将級魔法なんて国中探しても使い手が限られてるのに……」


「まあ、流石勇者の台座といったところなのだろうな……よく分からんが」


「ですよねぇ……」


 そんな様子を騎士団長とジュゼットは釈然としない面持ちで眺めていたという……。


 教え方は人それぞれ。

 意外にもアマネは理論的に教え、アズサは感覚で覚える派であった。

 ちなみにこの魔法修行でダイ君は更にパワーアップしたという。

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