第52話 竜王様、ポアルと冒険者ギルドへ向かう
それはある日のこと。
私とポアルはいつものようにアナさんのお店でバイトをしていたら、アナさんが突然こんな事を言い出した。
「アマネちゃんとポアルちゃんには悪いけどぉ、しばらくお店はお休みする事になったわぁん」
「お休みですか?」
私はオウム返しにアナ店長に訊ねる。
「そうなのよぉ。急にカンバーン地方の領主から出張依頼が入ってねぇ。なんでも使ってた魔道具が壊れたとかで修理してほしいって」
「修理って……。わざわざアナ店長が出向くほどの魔道具なんですか?」
「昔、私が作ってあげたヤツだからねぇ。湖の浄水魔道具なんだけど、あれが無いと綺麗なお水が飲めなくて困っちゃうのよぉ。直すのにも結構な技術が居る代物だし、他の人には任せられないのよねぇ。だから、悪いんだけどひと月くらいお店はお休みになるわぁん」
「カンバーン地方の湖はエライ大きいからなぁ。周辺の地域はそこの湖から水路を引いて生活に利用しとるんや。浄水魔道具がないと、たくさんの人が困るねん」
デンマさんが補足を入れる。
「確かにそういう事情なら仕方ないですね」
「みずのめないの辛い」
「みゃぅー」
そうだね。水が飲めないって大変だもんね。
分かる分かる。私も竜王時代、十年以上も飲まず食わずで仕事させられて凄く辛かった。
いや、ホントあれは辛かった。竜は基本魔力さえあれば生きられるとはいえ、お腹も減れば喉も乾く。
それすら削って仕事するなんて今考えてもどうかしてる。
なんで水は飲まないのに涙と乾いた笑いは出るんだろうね、ははっ。
「アナ、がんばってー」
「うふふ、お土産は期待してて頂戴ね」
そんな訳で、私達は一か月の間、バイトはお休みとなるのだった。
「アズサちゃんとダイ君も出張でお留守だし、しばらくはポアルと二人きりだね」
「ミィもいるよ?」
「みゃぅー」
私の言葉に、ミィちゃんがちょこんと手を上げる。
「あ、ごめんごめん。忘れてたわけじゃないよ。ミィちゃんも大事な仲間だからね」
「みゃぅ♪」
私の言葉に、ミィちゃんは満足するように頷いた。
ポアルとミィちゃんと出来る事か……。そういえば、丁度いい項目がやりたいことリストにあったな。
「ねえ、ポアル――ちょっと、冒険に出かけてみない?」
「ん?」
「みゃぅー?」
ポアルのやりたいこと
・あまねと一緒に冒険する
というわけで、私達は久々に冒険者ギルドへと向かうのであった。
「へっへっへ……よく来たなぁ、お嬢ちゃん達よぉ……」
「ひひひ、随分と久しぶりじゃねぇか。怪我でもしてたんじゃねぇかって心配したぜぇ……?」
「くっくっく……元気そうで何よりだぜぇ……!」
冒険者ギルドの門をくぐるとさっそくガラの悪いオジサンたちが声を掛けてくる。
だが悪いのは見た目だけでその魂は雪月水晶のように透き通っているのを私は知ってる。
雪月水晶は竜界で最も価値のある宝石の一つだ。
その透明度は竜界最高峰。めっちゃ綺麗で大好き。
「あ、お久しぶりです。えっと、黒のハイエナさんでしたっけ?」
「覚えているたぁ、上出来じゃねえか。だが惜しいな、俺達の名前は黒風のハイエナだ。だがそうやって同僚の顔を覚えておくのは大事だ。次の仕事に繋がるからなぁ……」
「同業者の繋がりは大事だぜぇ……! いざってときには助けてもらえるしよぉ。頑張るんだぜぇ」
「腹ぁ減ってねぇか? 名物ランチが食いたきゃまた出世払いで食わせてやらぁ」
相変わらず存在感マシマシの世紀末ヒャッハーな人達だった。
せっかくなので彼らのご厚意に甘えてランチをご馳走になった。オムライス美味しい。いつかちゃんとお返しをしないとね。
ランチとあいさつを済ませると、受付へ向かう。
「お久しぶりです」
「ひさしぶりー」
「みゃぅ♪」
「これはこれは、アマネさんにポアルさんじゃないですか。よくお越しくださいました。あらあら、ミィちゃんも相変わらず可愛いですねー。ちょいちょい♪」
「みゃぅー♪」
受付の女性――えっと名前は確かリリーさんだったっけ? アナ店長がそう言ってた気がする。
リリーさんはミィちゃんの可愛さにメロメロだ。まあ、仕方ないよね。ミィちゃん可愛いもん。
「……はっ、すいません、つい。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
リリーさん、我に返り、ちょっと赤面しつつも受付業務へシフト。
「えーっとポアルでも受けれる依頼って何かありますか?」
「ポアル様は現在銅級――一番下のランクになります。受けられる依頼はこちらになりますね」
リリーさんは依頼書の一覧をカウンターに置く。
今更だが冒険者が受ける
ギルドが発行する依頼。モンスターの討伐や薬草の採取が主で通年発行されてる依頼だ。
二つ目は国や町、個人がギルドを通じて発行する依頼。こちらは要人の警護や、商人の護衛、街の清掃から外壁の修理と多岐にわたる。アナ店長の依頼も形式は違うが、これに該当する。
そして三つ目がダンジョンの捜索だ。これは冒険者が自発的に行う依頼と言うよりは義務に近い。
この世界にはダンジョンと呼ばれる不思議な空間が存在する。
ダンジョンの中には様々なモンスターが住みついており、倒しても倒してもダンジョンが新たなモンスターを生み出すのだ。
そんな危険な場所なら入口を封鎖してしまえと考えるかもしれないが、ダンジョンは入り口を塞がれると、また別の場所に入口を生み出すのである。
しかも塞がれた怒りとばかりに大量のモンスターを新たな入口から地上へ解き放つのだ。
なので冒険者はダンジョンへ潜り、定期的にモンスターを倒さなければいけないのである。もしくは最深部まで潜り、ダンジョンの核を砕き、ダンジョンそのものを消滅させる。
そんなに危険な場所なら国で管理すればいいと思うかもしれないが、それも難しい。
ダンジョンはたくさんあり、日々新たなダンジョンが生まれているのである。国だけでは手が回らないので、冒険者にもお鉢が回っているという訳だ。
――と、
「りりー、この中で一番稼げる依頼ってどれだ?」
「稼げる依頼、ですか? ……そうですね。現在のポアル様のランクでしたらダンジョン探索が最も実入りが良いかと思います。ですが――」
「じゃああそれにするっ」
ポアル、即決。
これにはリリーさんも面食らったようで目を丸くしている。
「えーっと、確かにダンジョン探索は最も実入りが良いですが、その分危険度も跳ね上がります。我々ギルドとしてもポアル様にはとても期待しております。まずは簡単な依頼からでも――」
「や! 私、いっぱい稼げる依頼がいい! いっぱいお金を稼いであまねにみつぐの! そしたらあまねは私の事もっともっと好きになる! だからいっぱい稼げる依頼がいい!」
「そ、そうですか。……えーっと、アマネさん?」
リリーさんがゴミ屑を見るような目で私を見てくる。
その声は氷のように冷たかった。
……うん、言いたいことは分かる。
いちおう形式上は私、魔力無し判定になってるからね。
「うわぁ……あんな小さい子に貢がせてるのか……?」
「可愛い顔してやることがえげつねぇ……」
「ひくわぁ」
「なあ、騎士団に通報した方がいいんじゃないか?」
ほら! 周りからもひそひそといらぬ誤解が聞こえてくる。
「違いますから! 勘違いですから!」
……弁明するのにそこそこの時間がかかってしまった。
ともあれ、ポアルたっての希望もあって私達の最初の依頼はダンジョン探索になった。
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