第50話 ダイ君とミィちゃん、ヤバい畑を処理する
その日の夜、ダイ君は畑を訪れていた。
「ダィィ……」
なんだか妙に畑の様子が気になり、自主的に見回りに来たのである。
「みゃぅ」
「ダィ?」
すると茂みからミィが姿を現す。どうやらダイ君同様、畑の様子が気になったらしい。
ダイ君が一緒に回ろうと誘うと、ミィはダイ君の頭の上に乗った。畑の野菜を食べたおかげで、ダイ君の体もミィを乗せられるくらいには戻って来たのである。
二人はキョロキョロと周囲に気を配りながら、畑の周りを歩く。
すると畑の一画に奇妙な光景が広がっていた。
それは――武器の畑だった。
パイナップルを思わせる多年草の茎の先端部分からにょきっと生えてる鋭利な大剣。極太の蔦のように伸びた鞭に、竹のように真っ直ぐに伸びた槍。ひまわりのような大輪の花を思わせる大盾やナイフや鉄球を実らせた果樹まである。
肉の果樹や魚の畑もにも勝るとも劣らない奇怪な光景が広がっていた。
「ダ……ダィィ……?」
「みゃぅー?」
その奇妙で異様な光景に、ダイ君もミィも驚く。
これは畑なのだろうか? というか、そもそもこの世の光景なのだろうか?
アマネの爪のひとかけら、髪の毛の繊維が畑の土に含まれる鉱物や石ころと反応した結果、武器の畑という世にも奇妙な光景が出来上がったのである。
「……みゃぅ。みゃうみゃぅー」
「ダィィ……」
ミィとダイ君視線を合わせると、とりあえず畑に生えている剣を一本、大根のように引っこ抜いてみた。
「ダィィ……」
その見事な剣の出来栄えにダイ君は思わず見惚れてしまった。
ダイ君は勇者の剣の台座だ。故に触れればそれがどんな剣かくらい分かる。
これは……凄まじい剣だ。
魔力を込めれば切れ味は無限に高まり、持つ者の身体能力を強化する――そんな伝説の武器っぽい感じがした。隣に生えている槍や蔦のように絡まって伸びてる弓矢からも同じような気配がする。
ここにある武器は全て、この世界で使用するには余りにもオーバースペックな代物にしか思えなかった。
「みぃ……?」
どうしようかとミィは悩む。
昼間のアマネの様子を思い出すに、アマネは今回の騒動ですごくショックを受けているように見えた。自分の畑で作った作物が他人に迷惑をかけるのが悲しかったのだろう。
であれば、これは内々に処分してしまった方がいいのではないだろうか?
「みぃ~。みゃぅ~?」
「……ダイィ。ダイッ」
ミィがダイ君に相談すると、彼も同じ気持ちだったらしい。
だがどうすればいいのか?
ダイ君は悩んだあげく、手に持った剣をボリボリと食べ始めた。自分達で処理してしまおうと考えたのだろう。
「みぃ♪」
それはいい考えだと、ミィも地面から生えてる槍に前脚を添える。
すると、槍は光の粒子となってミィの体に吸い込まれていった。
ミィはポアルと共にアマネの眷属となった際に、キャスパリーグと呼ばれる特殊な魔物に進化し様々な特殊能力も手に入れた。
――『収納』。
物体を光の粒子に変えて、自身の中へと収納する。九つあるキャスパリーグの能力の一つだ。
ミィは武器を片っ端から分解しては、自身の体内に収納してゆく。
ダイ君もひたすら武器を抜いては食べ、抜いては食べてゆく。
「げっぷ……ダィィ」
「みぃ……みみゃぅ……」
武器を百個近く平らげたところで、ダイ君はかなり満腹になっていた。
それでもまだまだ武器は生えている。
というか、食べたり収納すればするほど、また生えて来るではないか。
おそらく地中に混ざっているアマネの爪と髪の毛に含まれていた魔力が尽きるまでこの武器は生まれ続けるのだろう。ほんの一欠けらとはいえ、その魔力は余りにも膨大であった。
「ダィィ……」
果たして自分達だけで片付けられるだろうか?
流石にダイ君はちょっと不安になった。
「キシッ、キシッ」
「キキキ」「キシッ」「シシシシシッ」「キィー」
すると緑王樹からカブトムシやクワガタ、クモ、女王蜂といった虫たちが降りてきた。畑作りの最中にポアルが捕まえた虫たちだ。
「ミィ?」
手伝ってくれるのかとミィが訊ねると、彼らはこくりと頷いた。
ポアルに捕まった形とはいえ、彼らはここでの暮らしに非常に満足していた。緑王樹の樹液によって魔力が高まり、知性も得た彼らは既に並みのモンスターを遥かに凌駕するほどの力を手に入れていた。
緑王樹はアマネの魔力と脱皮した皮から生まれたモノ。そこから得た魔力で強化された彼らもまた疑似的とはいえアマネの眷属に近い存在になっていたのだ。
「キシシッ、キシッ」
カブトムシがパイナップルのように生る剣を、クワガタが三つ又に割れた槍を、蜘蛛が禍々しい形状の短剣を、女王蜂が弓矢や盾を、ボリボリと食べてゆく。
すると彼らの体がメキメキと音を立てて変化してゆく。それぞれに適合した武器を高濃度の魔力と共に取り込んだ結果、更なる進化を遂げたのだ。
「キヒッ……キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
「シャッシャッシャ……ギヒャッヒャッヒャッハ!」
「ゲヒヒヒヒヒ! ギェヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
なんという堪らない全能感か。
虫たちは凄まじい力に酔いしれる。
更に女王蜂からの魔力を受けて、緑王樹に作られた巣の中に居た働き蜂らや卵にもその魔力は送られる。ドクンッとこれから生まれてくる何十、何百と言う蜂の子たちの卵も脈打った。
「ダイィ、ダイー♪」
「みぃ、みぃ~」
虫たちに負けじと、ダイ君やミィも武器を取り込んでゆく。
食べる、食べる。
ボリボリ食べる。
パクパク食べる。
食べて、食べて、体がメキメキと音を立てて変化してゆく。
「みぃ~♪」
しかしミィは一声鳴くと、その姿は元の子猫、台座、虫たちの姿へと変化する。
――『擬態』。
『収納』と同じく九つあるキャスパリーグの能力の一つ。
幼体でありながら、その精度は完璧。
力を解放しない限り、彼らの正体を見破る事など誰にもできない。
それから数時間後、ダイ君たちは見事に武器を食べ終え、武器畑は元の更地へと戻ったのだった。
「キシッ」「キシシ」「キィー」
カブトムシたち(仮)は凄まじい力を得られたことに感謝した。
この森では彼らは常に弱者の立場であった。
常に狩られ、仲間はおろか自分の身すら守れぬ日々であった。
だが俯く日々はもう終わりを迎えた。
これからは強者として、仲間や、この場所を守り抜くのだ。
この日を境に、ハリボッテ王国の郊外に広がる森の勢力図は一変する。
『コノ森ヲ守ロウ』
『主様ヘ絶対ノ忠誠ヲ誓ウ』
『主様ノ望ミ叶エル』
『邪魔スル者ハ排除スル』
――こうしてアマネの知らぬところでまた、一大勢力が築かれるのであった。
尚、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます