第45話 竜王様の休暇が終わるまでにやりたい100のこと

 ここ最近、私は自宅でまったりとくつろいでいた。


 朝日を浴びて、二度寝。お昼ご飯を食べたら眠くなって昼寝。夕ご飯を食べて、ポアルやアズサちゃんと遊んだり話をしたら就寝。


「あ~~、幸せぇ……」


 なんて最高で幸せな日々なのだろうか。

 あとこの御布団とか言う道具が最高すぎる。この温もりが、かつて竜界で働きすぎて疲れた心を癒してくれる。ずっとこの中に居たい……。

 決めた。私竜界に帰る時は、ポアルとミィちゃんとあとこの布団も一緒に持って帰る。竜界にも寝具の文化を広める。この心地よさを知れば、きっと皆も癒されて喧嘩とか戦争とか減るはずだ。


「アマネさーん、ご飯出来ましたよー。一緒に食べませんかー?」


「食べるぅー」


 私はずるずるとベッドから這い出ると、いい匂いのする方向へ向かう。


「今日はアマネさんの大好きなオムライスですよ。こっちの世界にもお米があって良かったです」


「わーい♪」


 アズサちゃんの作ってくれたお昼ご飯はとても美味しかった。


「そう言えば、アズサちゃんも、まだしばらくは家でまったり出来るんだったよね?」


「そうですね。とはいえ、魔族との停戦に関しては極秘事項らしく、名目上は一時休戦って形での休暇って感じですかね。騎士団の人達にもそういう風に伝えられてるらしいです」


「へぇー」


「パトリシアさん、すごく忙しそうでしたよ。周りの側近っぽい人たちもてんやわんやでした」


「大変だねー」


 人間って面倒だねぇ。停戦するにも色々と準備が必要なんて。

 竜同士の場合なんて、その日のうちに「はい、やめまーす」ってお互いに約束してそれで終わりだ。めっちゃシンプル。そして数日後には、忘れて繰り返す馬鹿どもである。鳥の方がまだ記憶力が良いよ。……ホント、言ってて悲しくなってくる。


「まあ、せっかくの休暇ですし、私はアマネさんやポアルちゃんと一緒に過ごせるなら、何も文句ないですけどー♪」


「……アズサちゃん、なんでいきなり抱きついてくるの?」


「アマネさんが悪いんですよ。アマネさんがこんなに可愛いからいけないんです」


「そっかー。私の可愛さって罪だったんだねー」


「そうです。ぎゅーって抱きつかれる刑に処します。えへへ」


 うーん、こういう中身のない会話、実は意外と嫌いじゃない。

 だってこういう無駄な会話っていかにも休暇って感じするじゃん。


「ほーら、ポアルちゃんもこっちにどうぞー?」


「……なんかあずさの顔が気持ち悪いからやっ」


「がーんっ」


 残念、振られてしまった。


「ていうか、あまねをはなせっ。あずさばっかりあまねにくっついてズルい!」


「だったらポアルちゃんも一緒に抱きつけばいいんですよ。ほら、カモンッ」


「あずさが気持ち悪いからヤダ! だから離れろ! 私があまねに抱きつく!」


「あぁん、いけずっ。でもそんなところも可愛い♪」


「……二人とも、そろそろ離してよぉ……」


 こういう時間も会話も嫌いじゃないけど、それでも両手を引っ張られるのは痛いです。


「フミャァ~~……」


 そんな私達のやり取りを、猫のミィちゃんは実に興味無さそうにあくびをするのであった。

 ああ休暇、素晴らしきかな。




 それはアズサちゃんのこんな一言から始まった。


「そうだ。アマネさん、せっかくの休暇なんですし、やりたいことリストでも作りませんか?」


「……やりたいことリスト?」


「そうです。今は休暇中ですけど、いつかはまた勇者として戦場に出なきゃいけないですし、それまでにアマネさんたちと色々と遊びたいなって……。勿論、アマネさんたちのやりたいことも一緒にやりたいです。なので、お互いのやりたいことをリストに書いて、それを一つずつ実行していきませんか? 私の居た世界の映画とかでもそういうのあったんですよ。まあ、アレはあくまでもゾンビ世界で生き残るためのルールみたいな感じでしたけど」


 自分ルールみたいなやつ?

 アズサちゃんの知識にあったあのゾンビ王国みたいなアレかな?


「ふーん、休暇中にやりたいことリストか……。いいね、確かにそういうのもアリかもしれないね」


 私もこの世界で三百年は休暇を楽しむと決めているし、やりたいことはまだまだいっぱいある。

 リストに書いて言語化しておけば、後になってやり忘れて後悔するってこともない。


「ポアルも書かない?」


「書く! 面白そうっ」


「ミャァー♪」


 ポアルもミィちゃんも乗り気だ。


「じゃあ、とりあえずみんなでやりたいことをそれぞれ紙に書こうか。あ、ポアル文字は書ける?」


「大丈夫、かける」


「へぇ……、凄いね」


 ポアルはすらすらと紙にやりたいことを書いていく。アズサちゃんの居た世界じゃ識字率はかなり高かったけど、この世界では識字率は決して高くない。むしろ書けない人の方が多い。文字が書けるのは貴族か商人、あとは軍部の上官くらいのものだ。

 文字を教える学校も殆どが貴族だけで、平民が入学する事は殆ど無い。平民はずっと平民、貴族はずっと貴族。商人の子は商人と、この世界は生まれながらにヒエラルキーが固定されている。というよりも、固定するように偉い人たちが決めているのだろう。


「アマネさん、私も書けますよ、ほら」


「いや、アズサちゃんはそりゃ日本語が――って、あれ? これってこっちの世界の言葉?」


 アズサちゃんが書いたやりたいことリストはこっちの世界の言葉で書かれていた。


「はい。こっちの世界に来てから、空いた時間を利用して本を読んだり、騎士団の人達に教えて貰ったりして書けるようになったんです」


「……凄いね。まだこっちの世界に来てから一月くらいしか経ってないのに……」


「えへへ、頑張りました。むしろ、私なんかよりアマネさんの方が凄いじゃないですか。こんなにスラスラ書けてますし」


「あっ……えっと、まあ、時間だけはあったからね。アナさんとかに教えて貰ったりして……」


「やっぱりアマネさんは凄いですねっ。尊敬します。大好きです、愛してます。抱いて下さいっ」


「あはは……」


 本当は世界中枢記憶にアクセスして、知識を得ただけです。アズサちゃんと違って、私のこれは完全にズルみたいなものだ。

 むしろ私と違って全くゼロの状態でここまで学習するアズサちゃんの方が遥かに凄い。やっぱり勇者に選ばれるだけのことはあるよ。普通に凄いと思う。

 それからしばらく私達は自分のやりたいことを書き続けた。


「んじゃ、みんな書けたし、見せあおうか」


「はい」


「んっ」


「ミャァ」


 ちなみにミィちゃんのやりたい事はポアルが代筆してくれている。というのも、ポアルにはミィちゃんの言っている事が分かるみたいなのだ。


 やりたいことリスト アマネ 

・休暇を満喫する 

・畑を作る 

・スキーをする 

・たくさん本を読む

・温泉に入る 

・旅行をする 

・凄い魔道具を作る  

・浴びる程お酒を飲む

・お花見をする  

・一日中寝てみる  

・風呂一杯の金貨を溜める 

・料理をする etc……


 やりたいことリスト アズサ

・勇者として強くなる 

・ダイ君を元に戻す 

・元の世界に戻る方法を探す 

・魔族の実情を知る

・騎士団の皆さんにお礼をする 

・アマネさんやポアルと一緒に遊ぶ 

・家庭菜園を作る

・アマネさんと◆●◆●●(塗りつぶされて文字が読めなくなっている)etc……


 やりたいことリスト ポアル&ミィ

・美味しい物を食べる 

・アマネと一緒に畑を作る 

・アマネと一緒に遊ぶ 

・アマネと一緒に寝る 

・アマネと一緒におやつ食べる 

・アマネと一緒に冒険する 

・アマネの為にお金かせぐ 

・アマネと一緒に虫取りをする 

・アマネと一緒にお星さまを見る etc……


 なんだかんだで考えると結構出てくるもんだ。

 でもポアルとミィちゃんはかなりシンプルだね。


「……ねえ、ポアルちゃん? どうしてどれもこれもアマネさんと一緒って書いてあるの? なんというか私が意図的に弾かれてるような感じがするんだけど……」


「だってあずさよりあまねと一緒が良い」


「みゃぅー」


「がーんっ」


 ポアルの一言に打ちひしがれるアズサちゃんであった。


「被ってるのも多いけど、それを弾いても五十個くらいはあるね」


「ですね。でもせっかくだし、最初は皆のリストに書いてあるやつから始めませんか?」

「共通のやつだね。いいんじゃないかな。それじゃあ、これなんてどう?」


 私はリストの一つを指差す。


・畑を作る


「畑ですか……いいと思いますよ。せっかくですし、花壇も作りませんか? お庭も華やかになると思います」


「いいね。それじゃあ、畑と花壇を作ろうか」


「つくるっ」


「ミャァ♪」


 みんなも賛成のようだ。


 それじゃあ最初の休暇ミッションは『畑作り』に決定だ。

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