第44話 魔王軍四天王、クーデターを画策する
カマーセは戦争の継続を望んでいた。
とはいえ、現状はかなり彼にとって不利である。
「くそが……なにが停戦だ。ふざけんじゃねぇぜ。人間共なんぞ生かしておく価値なんてねぇだろうが。魔王様もマケールも不抜けやがって……!」
四天王筆頭であるマケールは武人気質だが規律を重んじる男だ。最終的には魔王の判断に従うだろう。
同じく四天王の一人、ウーラ・ギルワはカマーセと同じく過激派で知られてはいるが、それは魔王に対する過剰な忠誠心からくるものだ。彼女も魔王が停戦を望むなら、それを支持するだろう。
最後の四天王ジミナ・ボッチは何を考えているかよく分からない人物だ。
実力は申し分ないが、常にフードを被り、殆ど喋る事もない。だが軍議での様子を見るに、魔王が停戦を望めば、それに反対する事もないだろう。
つまり現状、魔王の意に反してでも人類との徹底抗戦を望む四天王は彼一人なのだ。
ならばどうするか?
決まっている。クーデターだ。
彼は魔王に反旗を翻す事を決意した。
「……だが戦力が足りねぇ……。何か良い方法はないか……?」
クーデターを企てるにしても、流石に彼一人では魔王と他の四天王三人を相手にするのは不可能だ。
戦力がいる。それもとてつもなく強大な戦力が。
「……そうだ。アレがあったじゃねぇか。勇者召喚の魔法が」
そこで彼は密偵アイがハリボッテ王国から持ち帰っていた情報を思い出した。
勇者召喚の魔法陣。
アレを使えば、人間共と同じように、こちらに都合のいい戦力を召喚できるかもしれない。
既に魔王軍の研究室が召喚の魔法陣については解析を終えている。今ではアイが持ち帰った支配のブローチの解析に夢中になっているらしい。
「くっくっく、研究室の連中は行使するにはハリボッテ王国の王族の血と莫大な魔力が必要って言ってたが、俺なら扱えるはずだ……!」
カマーセは魔法の才能で四天王に選ばれた男だ。
総合的な戦闘力ではマケールには及ばないものの、魔法という一点に関して言えば彼は四天王の誰にも負けないという自負があった。
彼はすぐに研究室に向かい、勇者召喚の魔法陣の情報を手に入れた。
そして他の四天王や魔王の眼の届かぬ場所へ向かい、早速勇者の召喚を行うのであった。
カマーセの屋敷――その地下深くにある隠し部屋。薄暗い一室の石畳で出来た床に、カマーセは召喚魔法の陣を描く。
「これでよし……。さあ、発動しろ!」
召喚魔法の魔法陣が光り輝く。
本来であれば、王族の血筋でなければ扱えない召喚魔法。
だがカマーセは莫大な魔力さえあれば術式を行使できるように改良を施したのだ。
アマネ曰くハリボッテ王国に伝わる召喚魔法はかなり旧式の術式であり、不自然に手を加えれば魔法そのものが発動しなくなるほどの欠陥品だ。それを莫大な魔力が必要とはいえ、誰でも扱えるように改良し、こうして行使しているという事実こそ、彼が卓越した魔法使いである事の何よりの証であった。
「ぐっ……確かにかなりの魔力を持っていかれるな……! だが問題ねぇ! 成功しろ! 勇者よ! 俺の前に現れ、力を貸しやがれ!」
全身を巡る魔力がごっそりと減り、とてつもない疲労感と脱力感が襲い掛かる。苦痛と悪寒。心臓が不自然に早鐘を打ち、脳を内側から無数の針で貫かれたような痛みが走る。
「ぬっ……ぐぅ、ぅぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
歯を食いしばってなんとか耐えながら、彼は魔法の発動を完遂した。
逆巻く風が狭い室内に吹き荒れ、魔力の余波が稲光となって響き渡る。
そして、全てが収まるとそこには二人の人影があった。
「こ、ここはどこっすか? 本当に竜王様の世界にやって来たんっすかね……?」
「……ここにアーちゃんが居るの? アーちゃん、アーちゃん、アーちゃん、アーちゃん……どこなの? どこに居るの?」
声からして女性。
混乱しているであろう事が容易にうかがえた。
「は……ははは……やった。やってやったぜ、成功だ……」
カマーセは思わずその口元に笑みを浮かべる。自分は賭けに勝ったのだ。
これまで魔族が散々辛酸を舐めさせられてきた勇者を、魔族の自分が召喚してやったのだ。途轍もない優越感と達成感が全身を迸る。魔族の誰にもできなかった偉業を、己は成し遂げたのだ。魔力の枯渇による疲労感すら心地よく感じられた。
だが、まだだ。まだ終わりではない。
彼は手に持った支配のブローチのレプリカに目をやる。これを召喚された勇者共に装着させなければいけない。
彼は勇者に戦力としては期待しても、信頼を置く気など毛ほどもなかった。彼は最初から勇者を使い潰すつもりでいたのだ。
そして召喚され、混乱している今こそが最大の
「くっくっく、さあ、勇者共! この俺に従いやがれ」
彼は手に持った支配のブローチのレプリカを装着させようと、召喚された二人の女性に近づき、手を伸ばそうとして――、
「あ? なんっすか、お前」
「触るな、けがらわしい」
「おごっふ」
めこっと音が鳴るほどに、カマーセは顔をグーでぶん殴られ、綺麗な弧を描いて宙を舞った。
枯渇寸前だった魔力を総動員し、反射的に肉体を強化していなければ彼の体はそのまま汚い花火になっていただろう。
「な……なんだ、いったい何が……ごふっ」
カマーセはそのまま気を失った。
この時、彼はまだ気付いていなかった。
彼が召喚したのは異世界の
もっと別の、どうしようもない程に強大で、自分の手に負えない
その二人――いや、正確には
「とりあえず反射的に殴っちゃったっすけど、ひょっとしてコイツが自分達を召喚したヤツなんっすかね? めっちゃ弱そうっすけど?」
「知らない。どうでもいい。ここにアーちゃんが居るの? 大事なのはそれだけ。アーちゃん、アーちゃん、アーちゃん、アーちゃん……会いたいよぅ」
「ディー様はブレないっすねぇ。とりあえずコイツはたき起こして色々と話を聞いてみるっすか。なんでか自分達、人間の姿になってますし。おーい、起きろっすー」
彼女達は人の姿をしているが人ではない。
アマネと同じく竜界と呼ばれる異世界から召喚された生物――
かつて竜王アマネに仕えていた部下の竜と、竜王アマネと互角に渡り合ったと言われる腐蝕竜ディー。
こうして、新たに二匹の竜がこの世界に降り立ったのであった。
あとがき
名前をカーマッセからカマーセに変更しました
紛らわしくてすいません
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