第31話 竜王様、勇者ちゃんの意外な面を見る
というか、アズサちゃん、お店に来るなら事前に言ってよ……。
「いや、アズサちゃん流石に全部は売れないよ……。他のお客さんの分もあるんだし……」
買い占めってよくないんでしょ? アズサちゃんの知識で知ってるよ?
「いやいや、何を言ってるんですか、アマネさん。私がいっぱい買えば、お店の売り上げも上る。アマネさんもお店に貢献できてバイト代も上る。私もアマネさんの回復薬が飲めて幸せ。誰も損をしていないじゃないですか」
「い、言われてみれば確かに……」
「そもそも私はアマネさんの回復薬を転売する気なんて毛頭ありません。全て一滴残らず自分で消費するつもりです。ほら、なにも問題ないじゃないですか」
「い、いや、でもさっきも言ったけど他のお客様に迷惑が……」
「成程……。じゃあ、お店に卸すのとは別にアマネさんが個人で私に売るというのはどうですか? 定価の倍以上のお値段で買い取りますよ?」
「……ッ」
ごくりと、私は喉を鳴らす。
た、確かに私が個人的に売る分にはお店にも、お客さんにも迷惑は掛からないし、アズサちゃんが個人で全部消費するなら何も問題ない。
「分かってますよ。アマネさん、お金が好きなんですよね? 金貨のお風呂が夢なんですよね?」
「ど、どうしてそれを知って……!?」
「……いや、毎日一緒に暮らしてれば分かりますよ。アマネさんいつも金貨磨いて、うっとり眺めてるじゃないですか」
な、なんという観察眼だ。
どうやら私はアズサちゃんの観察眼を見くびっていたらしい。
「という訳で、アマネさん、私に回復薬を作って下さい。アマネさんの、私専用の、私の為のたっぷりと愛のこもった特性の回復薬を……!」
アズサちゃん、目が怖い。
どうしてこの子は、私の作った回復薬がそんなに欲しいんだろうか?
確かに普通の回復薬よりかは性能が良いとはいえ、別にそこまで執着するものでもないのに……。
「いや、個人とは言え勝手に販売したらあかんで?」
するとデンマさんが会話に割り込んできた。その姿に、アズサちゃんは衝撃を受けている。
「こ、この人がデンマさんですか? 話には聞いていましたが、確かに凄く個性的な見た目の方ですね」
「はは、どうもー。んで、さっきの話に戻るけど、アマネちゃんがお店で回復薬を作って販売できるんは、あくまでアナ店長が回復薬の販売資格をもっとるからや。回復薬は無断で作るのも、販売するのもこの国の法律で禁止されとるから、勝手に売買したらあかんよ」
「そ、そうだったんですか……」
知らなかった。というか、アナ店長って元冒険者に、薬品精製や魔道具の資格まで持ってるとかかなり多才なのでは? 感じる魔力もこの国では一番大きいし、ひょっとしたら凄い人なのだろうか?
「まあ、でも普通に常識の範囲内でお店で買う分にはなにも問題ないで? アマネちゃんの回復薬ドラゴンエナジーは人気商品やさかい、ここにある十本や二十本くらいなら――」
「じゃあ二十本で!」
「まいどありー♪ アマネちゃん、再販分、急いでつくってなー♪」
「……はーい」
まあ、私もバイト代が貰えるから別にいいけどね。
ドンッ! とカウンターに金貨の袋を置くアズサちゃんであった。
「うっはー♪ やったー♪ アマネさんの回復薬だ~~~♪ うへへ、誰にも渡さないわ。全部、私が大事に保管しておくのよ……」
「……アズサ気持ち悪い。金貨眺めてる時のアマネみたいな顔してる」
「ミィー……」
回復薬の瓶に涎を垂らしながら頬ずりするアズサちゃんを、ポアルはゴミを見るような視線を向ける。確かに気持ち悪い……ていうか、ちょっと待って。金貨拭いてる時の私もあんな顔してるの? マジで?
ポアルには嫌われたくないし、今度は少し自重しよう。私は内心、そう決心した。
「というか、いいんですか? 午後の分はこれから作るにしても、店頭に並べる分は殆どないですけど……」
「あはは、かまへん、かまへん。今日はお客さんも多くあらへんし、余程の緊急事態でも起きん限り問題あらへんって」
デンマさんがそんな風に盛大にフラグを立てたからだろうか。勢いよく誰かがお店に入ってきた。
「て、店長は居るかーー!?」
入って来たのはあの冒険者組合で見た冒険者だった。
黒……なんとかのハイエナさんだったっけ? 世紀末ヒャッハーっぽい人たち。
そのメンバーのちっこい人。
「あら、黒風のハイエナのヒデーブ君やないか。悪いけど、店長は今お留守や。どないしたん? そんなに慌てて?」
「か、回復薬を売ってくれ! ありったけ、全部だ! 頼む」
「ぜ、全部って……どうしたんや? なにかあったんか?」
「に、西の森で大規模な魔物の討伐があったんだが、予想以上に怪我人が出ちまったんだ。回復魔法が使える教会の連中も出払っちまってるし、頼みの品の回復薬もどこも品薄で……。頼む、金はいくらでも払う! この店のありったけの回復薬を売ってくれ!」
「え、いや、でも……」
今、お店にある回復薬の大半はアズサちゃんに売ってしまった。午後の再販分はこれから作る予定だったので、残りは数本。でもこの慌てっぷりからして数本程度で足りるとは思えない。
私はアズサちゃんに視線を向ける。
「その……アズサちゃん。出来ればでいいんだけど、その回復薬、この人達に……」
「場所はどこですか! 案内して下さい! すぐに運びます! これだけあれば足りますか?」
アズサちゃんはカウンターに置かれた回復薬を素早く箱に詰める。
そこには涎を垂らした欲望丸出しのアズサちゃんではなく、勇者の顔をしたアズサちゃんが居た。
「あ、あぁ! これ、ドラゴンエナジーだろ? 冒険者の間で話題になってたやつ。これだけの量があれば十分だ! 頼む! 兄貴たちを助けてくれ……!」
「分かりました! アマネさんは念の為、追加の回復薬を作って下さい! 後で騎士団の人達に取りにこさせます!」
「え、あ……うん」
「ダイ君、ターボモード! 最大出力でお願い!」
「ダイーー!」
すると後ろに控えていたダイ君の足が車輪に変化する。……ついでに背中からなんかジェットエンジンみたいなのも生えた。え、なにそれ?
「な、なんだ、この台座? なんで足が生えて……えぇ、車輪になった!?」
「掴まって下さい。飛ばしますよ。ダイ君、ゴー!」
「ダイーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「え、いや、ちょぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
風のような速さでアズサちゃんは、ハイエナさんの人と一緒に、ダイ君に乗って消えてしまった。
なんか意外だ。てっきりアズサちゃんの事だし、惜しがると思ったのに。
「……やっぱり勇者なんだね、アズサちゃんは……」
私はアズサちゃんの意外な一面を知る事が出来てちょっと嬉しかった。
「よしっ、それじゃあ急いで追加の回復薬を作ろうか!」
「つくるっ」
「みゃぁー!」
その後、騎士団の人が追加の回復薬を取りに来た。
聞いた話では、アズサちゃんが届けた回復薬のおかげで、怪我人は全員助かったそうだ。
またこの事件がきっかけで、私のドラゴンエナジーの噂は更に広がり、お店は常に品薄状態になるくらいの人気商品になった。アズサちゃんも回復薬を無償で提供したとして冒険者組合から表彰され、騎士団の人達からの評価も更に上がったらしい。
「うぅ……アマネさんの回復薬がぁ……。一本くらい残しておけば良かったぁぁ……」
まあ、当の本人はこんな感じでしばらく落ち込んでたんだけどね。
その後、アナさんに頼んで、アズサちゃんに回復薬をプレゼントしたら、すっごく喜んでくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます