第42話 竜界、荒れる。そして爆弾は再び投下される


 竜界は荒れていた。

 それはもうものっすごい勢いで荒れていた。

 理由は当然、現竜王アマネの不在だ。


「うぁぁぁあああああああああああああ! もう駄目! もう無理っすよぉおおおお!」


 かつて竜王――アマネの部下だった竜の泣き叫ぶ声が木霊する。


「やっぱり竜王様が居なきゃ無理っすよぉぉ……」


 先代の竜王――アマネの父親をなんとか説得し、竜王の座に据えたのは良いが、仕事がもはや限界だった。

 喧嘩に次ぐ喧嘩。部族間同士の戦争。それに伴う地形変動や大陸崩壊。

 アマネが竜王でなければ認めないという勢力も多く、それらを説得するために忙殺される毎日。

 部下の竜の精神も限界だった。


「こんにちわー。アーちゃん帰ってきましたかぁ?」

「あ゛……」


 そんな彼女の耳に最も聞きたくない声が届く。声のした方を向けば、一匹の竜が入口に居た。


「ふ、ふふふ、腐蝕竜のディー様じゃないっすか。お久しぶりっすねぇ。すいません。竜王様は………えっと、そのぉ……まだ戻られてないっす……」


 部下の竜が素直にそう告げると、腐蝕竜は一瞬ポカンとした後、盛大に泣きだした。


「うぁぁ……うわぁぁああああああああん! アーちゃん居ないの? まだ戻らないの? ヤダあああああああ! アーちゃん居ないのヤダあああああああ! うわぁぁあああん! どこなの……? ワタシを置いてどこに行っちゃったのよぉぉアーちゃ~~ん……。うわぁぁぁあああああああああん!」


「ギャアアアアアア!? ふ、腐蝕竜様! 落ち着いて下さいっす! 竜王様の住処を腐らせないで下さい! アナタの癇癪でどれだけの大陸が腐ったと思って……あぁ!? 尻尾が! 自分の尻尾がちょっと腐ってきてるううううううう!?」


「うるさい! うるさい! うるさーーーい! アーちゃんの居ない世界なんて意味ないよぉ! 全部腐って滅べばいいんだぁ。せっかく美味しいお酒が出来たからお裾分けに来たのに……。寂しいよぅ、アーちゃん……ぐすん」


「アガ……ガハ……ァぁ……じぬぅ……体が、腐っデイ゛グゥぅ……」


 部下の竜が割と瀕死だが、腐蝕竜は気にした様子もない。

 どうしたものかと考えていると、不意に彼女らの足元が光り輝いた。


「……ん? なに、この光は? ……召喚の光? それも随分旧式の……」


「あ、これって……竜王様が召喚された時と同じ魔法陣じゃないっすか? どうしてまた……あっ」


 部下の竜の言葉に、腐蝕竜はぴくりと反応する。

 部下の竜はしまったと口をつぐんだがもう遅い。


「ッ……この光の先にアーちゃんが居るんだね! 許さない……! ワタシからアーちゃんを奪うなんて絶対に許さないんだから……! 待っててねアーちゃん。絶対に取り戻してあげるから! そして取り戻したらアーちゃんを奪った世界なんて全て腐らせてやるんだから……!」


「あ、待って下さいっす! 駄目っすよ、竜王様の休暇を邪魔しちゃ……」


 部下の竜は必死に止めようとする。

 だってそうしないと自分と本担が消し炭になる。


「うるさい! うるさい! それならアンタも一緒に来ればいいじゃん! アーちゃん探すの手伝ってよ!」


「いや、なんで自分まで――って、うわぁぁああああああああああああああ」


 腐蝕竜は部下の竜を掴んで魔法陣にダイブする。


 こうして何者かの仕業により、更に二体の竜が人間界へと召喚される事となった。


 それがどんな結果をもたらすのか。


 それはまだ誰にも分からない……。


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