第41話 エピローグ 竜王様、休暇を満喫する


 ――朝、目が覚めると酷い頭痛に見舞われた。


「うぅ……頭が痛い。なんでだろう?」


 昨日の事がまるで記憶にない。

 それに眩暈や吐き気が酷い。


「……ていうか、なんでソファで寝てんの? ポアルと一緒に寝てたのに……」


 本当に分からない。

 一体、昨日何があったっていうんだ?

 そしてこの大量のポアルがプリントされたグッズは一体……?


「うっぷ……。と、とにかく水……」


 コップに水を注いで一口飲むと気分が多少良くなった。


「はぁ~、なんでお酒なんて飲んでないのに、二日酔いみたいになってるんだろ……?」


 寝ぼけて飲んだとか?

 いや、ないない。だって家にお酒は置いてないし。

 とりあえず昨日、何があったのか確かめなくっちゃ。


(えーっと、中枢記録にアクセスして……昨日の出来事をピックアップ……)


 私は中枢記録のログを辿る。中枢記録にはこの世界で起きた全ての出来事が記録されている。

 当然、昨日私の身に何があったのかもだ。


(……ん? なにもなかった?)


 検索結果は――『なし』。

 私は普通にポアルと一緒に寝て、そのまま朝を迎えたと記録されていた。

 ただ寝ぼけてソファに移動したと。


「……寝ぼけてる最中に頭でもうったのかなぁ……?」

 

 ついでに私のポアルへの愛が爆発して寝ぼけて創造魔法でこの変なポアルグッズを作った?

 ……いや、流石に無理があるような気もするけど、中枢記録がそういうのなら間違いないのか……?

 だってこれを改竄するなんて、この世界の人間には不可能だろうし、出来るのなんてせいぜい私くらいのものだ。


 ――流石に、自分で改竄してそれを忘れるなんてありえないだろうし。


 ま、それならそれでいいや。

 今日はアズサちゃんも帰ってくるし、三人でのんびり過ごそうっと、

 気持ちを切り替えると、私はポアル達を起こしに行った。


 ……この時の私は全く知らなかった。


 本当に酔っ払った自分が中枢記録を改ざんし、あまつさえその事をすっかり忘れている事に。


      


 お昼ごろにアズサちゃんが帰ってきた。

 アズサちゃんは帰ってくるなり私に抱きついて、あまつさえわんわんと泣いた。

 どうやら余程の体験をしたらしい。


「――それで、そのとんでもない化け物が現れてあっという間に魔族との戦争を終わらせちゃったんですよ」


「へぇ、そうなんだー。どんな化け物だったの?」


「えーっと、なんか羽の生えたでっかいトカゲみたいなモンスターでしたね」


「え、それってドラゴンなんじゃない?」


「いやぁ、流石にそれは無いと思いますよ。ドラゴンなんてこの世に居るわけないですし」


「……ふーん」


 相変わらず何故かこの世界の人間はドラゴンの存在を信じない。

 それはアズサちゃんも例外ではなかった。

 最初の頃に出会った頃に比べて、明らかにこの世界の常識に馴染んでいる。まるでそういう風に意識・・を誘導させられているかのように。

 しかし魔族と人間の間に入って戦争を止めるなんて変わった化け物だね。まるで竜界に居た頃の私みたいだ。


「ま、休戦になったんならいいんじゃない? ゆっくり休めるじゃん」


「……そうですね」


 そういうと、アズサちゃんはまた私に抱きついて来た。ふわりと柑橘系のいい匂いがした。


「どうしたの?」


「……今回、私凄く危ない目に合って怖かったんです。だからもう少しこうさせてください」


「別にいいけど」


「うへへ……ありがとうございます」


 アズサちゃんはしばらく私から離れなかった。

 ポアルが外でミィちゃんと遊んでて良かった。多分、見られてたらポアルの機嫌が悪くなってた気がするから。


「……ダィー、ダィー」


「あれ? これってダイ君の声? ……どこから?」


「あ、ダイ君ならココです」


 するとアズサちゃんは自分の頭を指差す。頭の上に小さなダイ君が居た。


「……なんか小さくなってない?」


「実は今回の戦いでかなり力を消耗したみたいで……。しばらくはこの体のままみたいなんです」

「……ダィ」

「へぇー」


 本当に不思議生物だね、ダイ君。

 いったいどういう仕組みなんだろう?


「……アマネさん」


「なぁに?」


 アズサちゃんはさっきよりも強く私を抱きしめる。


「私って勇者に向いてないんでしょうか?」


「さあ? そんなの私には分からないよ」


「……そこはもっとこう、なんか慰めたり、どうしてとか理由を聞くものじゃないですか? 私、今回めちゃくちゃ怖い思いしたんですよ? ……もっと労って甘やかして欲しいです」


「私が何か言ったところアズサちゃんの為になる気がしないもん」


「しますよ。……すっごくします。だってアマネさんは私の大切な人ですから」


「私としては、どうしてアズサちゃんにそこまで好かれているのか理由を聞きたいけど……」


「それは……そういうのを言うのは恥ずかしいです。……もっといい雰囲気の時に言いたいですし……」


 アズサちゃんの顔が赤くなる。

 ……熱でもあるのかな?


「ふーん、そっか。恥ずかしいなら仕方ないね。とりあえずお腹空いたしご飯でも食べよっか」


「むぅー……もっと甘やかして下さいよー。あとアマネさん鈍感系なんですか? 私けっこう分かり易いと思うんですけど?」


 アズサちゃんはむくれながらも昼ごはんの準備に取り掛かる。

 私はポアルを迎えに行こうかな。


「あ、そうだアズサちゃん。さっきの勇者に向いてるか、向いてないかの質問だけどね」


「なんですか?」


「これはあくまで私の持論だけどさ、そういう風に他人に聞く時って、自分なりの答えはもう出てると思うんだよ。その答えが他の人と同じにしたくて質問するんだよね。安心するためにさ」


「……」


「だから私は答えないよ? 私はアズサちゃんの解答用紙じゃないし、その答えはアズサちゃんが自分で納得するしかないからね」


「……意地悪な答えですね」


「そうかな?」


「そうです」


「そっか」


 でもさっきよりもアズサちゃんの声は明るくなっていた。


「ただいまー。あまねー、見て見て、でっかい虫採れた!」


 迎えに行こうとしたら、ポアルが帰ってきた。

 手に持った虫を見せびらかせてくる。


「おぉー、凄いね。カブトムシかな?」


「これ、食べれる?」


「……流石に無理だと思うよ。アズサちゃんのご飯があるからそっちを食べよ?」


「むぅー、じゃあ逃がしてくる」


 ポアルは捕まえたカブトムシを庭に離す。

 カブトムシは緑王樹の幹に止まった。

 虫だと認識できるんだよね、緑王樹。

 受粉とかしてくれないと困るし、魔法の対象外にしてある。

 樹液も出てるしいい餌場になるだろう。


「さあ、皆でお昼ご飯食べよっか」

「たべる!」

「みゃぅー♪」


 ああ、やっぱり休暇は良いなこの心地よい空間がいつまでも続いてほしい。

 私は心の底からそう願うのであった。

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