第34話 竜王様、買収される

 それから数分後、サッシーさんと助手さんが目を覚ました。


「こ、これが緑王樹! す、素晴らしい! こんなの歴史的な発見じゃないか!」

「凄い! 凄いですね博士! 今の魔法史が引っくり返りますよこんなの!」


 今度は気絶しせずにサッシーさんとジョシーさんは緑王樹を興奮した面持ちで観察している。

 ……しかしそんなに珍しいのかね? こんな木、竜界ならそこら中に生えてるんだけどな……。


「これが価値観の違いってやつか……。一枚、二枚、三枚……ふへっ」


 私にとってはこんな木よりも金貨や宝石、財宝の方がよほど価値がある。

 だが彼女達にとっては緑王樹の方が価値があるという事だろう。

 種族によっても、人によっても価値観は違う。

 何が大切かなんて人それぞれという事か。


「よし、アマネさん! 今日は泊まっていっていいかな? というか出来ればここに住みたい! 住まわせてほしい! この樹を研究しなければ!」


「いや、そんな急に言われても困りま――」


「家賃として金貨千枚! 毎月払おう!」 


「どうぞゆっくりご滞在ください。部屋もいくらでも使って頂いて構いません。私は外で寝ますから」


「あまねが買収された!」


 ごめんね、ポアル。

 私はお金には勝てないんだ。

 やはりお金……。お金は全てを解決する。


 アズサちゃんの世界でもそうなんだよ。

 色んな物事は全て札束で殴るのが一番手っ取り早い解決法なんだ。

 ガチャだって金が正義って言うらしいし。……ガチャが何かは知らんけど。

 ともかく私にとってはお金こそが何よりも大切なものなんだ。


「でも博士。今日は王族との会食があります。前回、すっぽかしてますから、流石に今回もとなるとヤバいですよ。これ以上、予算減らされるのはマズイです」


「え、マジ……? 仕方ない、不本意だが帰るとするか。アマネさん、今日はとても有意義な時間だったよ。またお邪魔しても良いかな?」


「ええ、いつでもいらして下さいね」


 当然、金貨もいっぱいご持参ください。大歓迎ですよ。うはははは。


「あ、よければこれ、お土産に差し上げます。ささ、どうぞ」


「え、これって乾燥させた緑王樹の葉……!? いいのかい? こんな貴重な物を?」


「ええ、気に入っていただけたみたいですから」


 とっても美味しそうに飲んでたもんね、お茶。

 葉っぱなんていくらでも生えてるから、また作ればいいし。

 それよりも金づる――もといサッシーさんのご機嫌をとっておけばまた金貨が手に入るかもしれないんだし。……ぐへへへ。


「あ、ありがとう! この恩は忘れないよ! ……しかしまさかあの程度のお金がこんなお宝に化けるなんて……」


 え、今あの程度のお金って言った?

 ぼそっと言ったけど、ちゃんと聞こえてたよ。

 竜王の耳は全てを漏らさず聞き取るからね。聞きたくない事以外。

 あの金貨、数千枚はあったよね? アズサちゃんの世界で数億円だ。

 あれでポケットマネー? この人、どんだけお金持ちなんだよ。


「仲良くしましょう、サッシーさん」


「うんっ。こちらこそよろしくだよ」


 私はサッシーさんと固く握手を交わす。

 まあ、お金云々を抜きにしてもこの人は、この世界で初めて私が竜だと信じてくれた人だ。

 ひょっとしたら普通の人ではない、『何か』があるのかもしれない。

 そういう意味でも、知り合っておいて損はないと思う。

 ともかくこうして私はサッシーさんとそのジョシーさんと知り合いになるのだった。

 二人が帰った後、ポアルがぎゅーっと抱きついてきた。


「……あまねってお金持ちが好きなの?」


「うん、大好きだよ」


「じゃあ私もお金持ち目指す! そうすれば、あまねはもっと私を好きになる?」


「そんな事しなくても、私はずーっとポアルの事が大好きだよ」


「えへへ……」


 ポアルはポアルのままでいいよ。

 お金があるかないかで変る事は………………うん、ないよ。絶対。


「ふわぁ~。それじゃ、もう寝よっか。……そういえば最近、誰かに見られてる気がするな……」


 ポアルは気付いてないっぽいけど、どちらかと言えば私じゃなくポアルの方をみているような感じの視線だ。

 それも一人じゃなく複数。

 一体、誰だろうか?


「このあいだの魔族?」


「んー、違うね。まあ、悪意は感じないし、何かしてこなければ別にどうでもいいかな」


 アイちゃんの件で私は学んだ。

 不用意な接触は私の休暇に響く可能性がある。

 なので相手が何もしてこないならノータッチ。

 別にみられて困るものなんて……あ、緑王樹があったか。まあ、あれは隠蔽してるから問題ない。

 でも仮にポアルとかミィちゃんとか金貨とか私の物に手を出すんなら問答無用で消すけどね。

 存在そのものを消せば、最初から無かった事になるから問題ないのだよ。

 存在しない事は罪にならないんです。


(あ、そう言えば、アズサちゃんは今頃どうしてるかなー?)


 騎士団と訓練してどんどん強くなってるらしい。

 今日も訓練で、帰ってくるのは明日の夜だったはず。


(場所は不朽の森の近くだったっけ?)


 明日も休みだし、たまには訓練の様子でも見に行ってみようかな。素材採取も出来るし。


(あ、そう言えばこの体になってからまだ一度もお酒を飲んでないな……)


 アズサちゃんが帰ってきたら、一緒にお酒を一緒に飲んでみようかな?

 竜王の頃は忙しくて碌にお酒も飲めなかったし、この世界のお酒にも興味がある。

 せっかくの休暇なんだし、一度酔いつぶれるまで飲んでみたいなー。

 明日の予定を立てつつ、私はポアルと一緒に眠りにつくのだった。


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