第29話 竜王様、回復薬を作る
クエストを終え、アマネはポアルと共に魔道具店へ戻っていた。
「バイト代の代わりに、回復薬が欲しい?」
「はい。どんな感じなのか試してみたくて」
「それは別に構わないけどぉ。結構お高いわよぉ? アマネちゃんはウチの店員だから割引してあげるけど、それでも銀貨三枚。今日のバイト代ほとんど 消えちゃうわよ?」
「銀貨三枚……!?」
その価格にアマネは戦慄した。
「安すぎですよ! 銀貨三枚って仕入れ値よりも低いじゃないですか! アナさん、前に言ってましたよね? 回復薬は銀貨九枚って言ってましたよね?」
「あらぁ、ちゃんと覚えてたのねぇ。でも仕入れ値まではお話してないわよねぇ? 誰が話したのかしらぁん……?」
アナはちらりとデンマの方を見る。
「ふん、ふふーん♪」
デンマは明後日の方向を見ながら、へたくそな口笛を吹いていた。分かり易い事この上ない。
はぁとアナは溜息をつくと、棚から回復薬を
「はぁ、仕方ないわねぇ。じゃあ、これ。今日のバイト代」
「え、いや……なんで二本も?」
「回復薬の勉強がしたいんでしょ? なら一本程度じゃ足りないでしょう。これ、それぞれ効果が違うから試してみると良いわ」
「て、店長……」
アマネはアナの心意気に感動した。ピザーノといいこういう人たちに竜界に居た頃に会いたかったと心底思った。
「ありがとうございますっ」
「はいはい。お礼は明日からのお仕事で返してね。ビシバシ働いてもらうんだから」
「私もがんばるっ」
「ミャァー」
こうしてアマネは回復薬の現物を手に入れるのであった。
だがこれが後にとんでもない事態を引き起こすのだが、それはまだ誰も知らない。
という訳で、アナさんから回復薬を頂いた。
一本は赤色の回復薬。もう一本は青色の回復薬だ。
アナさんによれば赤の方は体力を、青色の方は魔力を回復するらしい。
一体どういう素材を使っているのか。どういう調薬をしているのか。
「実に興味深いね。それじゃあ、頂きます」
さっそく一本飲んでみる。まずは赤色の方だ。
「……まっず」
普通に美味しくない。というか苦い。そして飲むと僅かに体に活力がみなぎる感覚がする。
青色の方はどうだろうか?
「……まっっっず」
もっと美味しくなかった。しかも臭い。飲んだらちょっとだけ魔力が満ちる感覚がした。
「アズサちゃんの世界の言葉だと良薬口に苦しって言うんだっけ?」
人間にとって苦味ってのは毒や害のあるものを示す味であり、他の四種(甘味、塩味、酸味、旨味)に比べて感じやすくなっているらしい。
私も今は人間の体だから、竜の時に比べて苦味に対する感覚が鋭くなってるんだろう。
竜は人に比べて苦味を感じるセンサーがかなり薄い。理由は毒が効かないから。病気にもかかりにくい。
――なので竜界には『回復薬』という存在自体まず存在しない。
傷を負っても、病気にかかっても魔法ですぐに回復する。
消費した魔力も周囲の魔素を吸ってすぐに元に戻る。なので外部の回復手段に頼る必要がないのだ。それが竜という生物。だからこそ、『回復薬』という存在は非常に興味深い。
「――
飲んだ成分を解析し、既存の知識や単語を使って成分を表示、更にそれぞれの調合比率や調理手順も算出する。
「リコの葉、リバの実、聖水……それに魔石の粉末……ふむふむ」
他にも色々と使われているみたいだ。随分と様々な素材を使ってるんだな。
素材を粉末にして調合し、聖水と呼ばれる特殊な水に溶かして希釈する。
「確かにこれは手間がかかるなぁ……。専門の組合が出来るのも納得だよ」
でも私なら、もっと簡単に、それでいて効果の高い回復薬を作る事が出来る。
勿論、竜の魔法ではなくあくまでこの世界の常識の範囲内で。
何でそんな事が出来るのかといえば、この世界の知識も日々収集しているからだよ。
「アズサちゃんの世界のインターネットみたいで便利だし、この世界の人たちももっと活用すればいいのに」
まあ、世界をまたいでアクセスできないのが難点と言えば難点だけど。
え? それなら回復薬の情報だって簡単に入手できるんじゃるないかって?
勿論、やろうと思えば出来るけど、それじゃつまんないじゃん。
まずは知る。答え合わせはそれからだよ。新たな知見を得る喜びは、無知だからこそ可能なのです。
それに存在しない情報、知ろうとしない情報は手に入らないし。
これから私が作ろうとしてる新種の回復薬だってそうだ。
存在しない情報は世界中枢記録には無い。これから作る物、生まれる命、新たな事象はこれから収集される情報であり、それらを事前に知る事が出来ない。
不便だと思う? それでいいんだよ。知らないから楽しいんだから。
アズサちゃんの世界の言葉で言うとあれだ。縛りプレイってやつ? ちょっと違うか?
「それじゃあ、さっそく作るとしようかな」
「あまね、回復薬作るの?」
「そうだよ。素材はあるからね」
「すごい! 私もやってみたい!」
「じゃあ一緒にやろっか」
「やる!」
その夜、私はポアルと一緒に回復薬作りに熱中した。
余りに楽しくて完成する頃にはすっかり夜が明けてしまった。
その結果、すっかり寝過ごして遅刻してしまいアナさんに初めて怒られてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます