第23話 竜王様、勇者ちゃんにおしかけられる
アズサちゃんの言葉に、私は首を傾げる。
「……へ? ここに住む?」
「はい! 騎士団長さんにお願いしたら許可してくれました!」
「へぇー、そうなんだ」
勇者って色々立場もあるだろうし、自由に動けないのかと思ったけど、意外と融通が利くんだ。ホワイトだねぇ、羨ましいねぇ。竜族とは大違いだ。こんちくしょうが。
「でもここって城から遠いよ? いいの?」
「ダイちゃんに乗れば早いですし、通うのに不便はないですよ」
「ダイー!」
アズサちゃんの声に、勇者の剣の台座――通称ダイちゃんが反応する。
……君、いたんだ。
「ソレ、乗れるんだ」
「はい、乗れます。すっごく早いですよ。乗る時は足が車輪みたいに変化するんです」
「ダイー!」
「すごいねー」
それ本当に台座なの?
なんか別の生き物じゃないの?
「あと剣の刺し加減でギアやスピード調節もできるんですよ。凄いですよね」
「ダイー!」
「すごいねー」
勇者の台座ってなんだっけ?
いや、勿論違うんだけど、もう言葉通りの意味になってるのが逆に違和感。
「というか、この子……んー?」
「ダイー?」
私は台座をじっと見つめる。
うーん、気のせいかな?
なんか見た事があるような気がしたけど。まあ、いっか。
「あ、そうだ。天音さん、とりあえずこれ、どうぞ」
アズサちゃんは私に革袋を渡してくる。すっごく重たい。中をあけてみると、金貨がぎっしり入っていた。
「…………」
金貨だ。この世界の金貨って初めて見た。
なにこれ? 金貨ってこんなに綺麗なの? これに比べたら竜界の金なんてカスや。なんちゅうもんを……なんちゅうもんを見せてくれたんやアズサちゃん。
「当面の家賃と生活費です。なんか騎士団の方で融通してくれました」
「ようこそ、アズサちゃん。歓迎するよ」
私はもろ手を上げてアズサちゃんを歓迎した。
「あまね、この人、一緒に住むの?」
不安そうな表情のポアル。
「ポアル、心配しなくても大丈夫だよ。この人はとってもいい人なの」
「いいひと? こいつ、私を羽交い絞めにして鼻水付けたよ?」
「あー、うん……。でもそれはポアルの境遇に同情しただけだから……」
いい人だよ、間違いなく。
「それにほら、当面の生活費だって困らないよ。これだけあれば好きな物や欲しい物もなんでも買えるよ」
「……あまね、目が金貨みたいになってるよ?」
「………………気のせいだよ」
決してお金に釣られたとかじゃない。断じてない。
という訳で、アズサちゃんが一緒に住むことになった。
うっへっへ金貨だー。
というわけで、さっそくアズサちゃんに私達の家を案内する。
「へぇー、郊外の森って大臣から聞いた時はちょっと不安でしたけど、すごく快適そうですね」
「色々、リフォームしたからねー」
旧お化け屋敷だった我が家は現在平屋の3LDK。ゆくゆくは庭や家庭菜園にもチャレンジしてみる予定だ。やっぱ休暇と言えば家庭菜園だよね。
「アズサちゃんはこっちの部屋使っていいよ。私達はこっちで寝るから」
「私はあまねと一緒に寝る」
「えぇっ!?」
親しき仲にも礼儀ありっていうし、その方がいいだろう。そう思ったのだが、アズサちゃんは何故か物凄くショックを受けたような顔をした。
「その、わ、私はアマネさんと一緒でも全然構わないというか、むしろそっちの方が嬉しいというか、ご褒美というか…… 」
「……? 別に一緒でいいならそれでもいいけ――」
「是非! お願いします!」
「あ、うん。いいよ……」
アズサちゃん、顔近い。皆で寝るのが好きなのだろうか?
プライバシーとか一人の時間っていうのが大事ってアズサちゃんから貰った知識にはあったけど……。まあ、どっちもでいいか。
「一緒……アマネさんと一緒に就寝。じゅるっ、思わず涎が……。まだよ、まだ我慢するのよ私。初めてのシチュエーションはやっぱりロマンチックな感じにしなきゃ。まずは好感度を稼いで、アマネさんからのデレを引き出し、向こうから求めてくる感じで……っ。いい……凄く良い。それでお互いの初めてを交換し合うの……。ここは異世界なんだもの。女の子同士で好き合ったってなんの問題もないじゃない……ぐへへへっ」
「……」
なんかアズサちゃんの顔がとんでもなく卑猥な感じになってるけど見なかったことにした。
それよりも私にとって大事なのはこっちだ。
革袋いっぱいに詰め込まれた金貨を眺める。
その黄金の輝きに私は目を奪われた。
「ああ、なんて……なんて美しい。金貨が一枚……金貨が二枚……金貨が三枚……金貨がいっぱい。なんて見事な輝きなんだ。いずれはもっともっと金貨を手に入れて、浴槽のバスタブいっぱいに……。他にも宝石とか財宝とか、金目の物に囲まれてくらしたい……。アズサちゃんの世界ではそういうのを「勝ちまくり、モテまくり」とか言うんだっけ? いいね、最高じゃん……ふへへへっ」
金貨のお風呂……いや、金貨のプールを泳いでみたい。
あぁ、ヤバい。想像しただけで涎が垂れてきた。
「……あまねもアズサも気持ち悪い。いこ、ミィ」
「ミィー」
そんな汚れた笑みを浮かべる私とアズサちゃんを、ポアルとミィちゃんは冷めた目で見つめるのだった。
まあ、そんな訳で勇者のアズサちゃんが我が家の一員となるのだった。
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