第21話 勇者ちゃん、訓練をする
アマネとポアルがバイトの面接をしていた頃、アズサは勇者としての訓練に励んでいた。
「ダイ君! 突進!」
「ダイーーーーーッ!」
「ぐはぁっ!」
「ぐああああああーっ」
「がはっ」
梓の声に従い、勇者の剣の台座――命名ダイ君が騎士たちに突撃する。
騎士たちはなすすべもなく吹き飛んだ。
「ダイ君! のしかかり!」
「ダイーーーーーッ!」
「ぐがああああ……アズサ様! ギブ! ギブです!」
勇者の台座に圧し掛かられた騎士はたまらずギブアップを宣言する。
「すげぇ……アレが勇者の台座の力……!」
「ああ、なんかよく分からないが強い」
「勇者様、一切動いてない……!」
勇者の剣の台座は大活躍であった。
「ふぅ、ダイ君お疲れ様。はい、これ。剣」
「ダイーー♪」
アズサは台座に剣を突き刺す。
すると台座は嬉しそうに手足を引っ込めて元の台座に戻った。
どうやら台座はこの状態が落ち着くらしく、ご褒美としてあげているのである。
トレーニングを終えて、タオルで汗をぬぐう。そしてふぅっと息を吐いて――、
「………………なんか違くない?」
これは勇者のトレーニングじゃない。断じて違う。アズサは当たり前のことを疑問に思った。
「そもそもこれ私の訓練じゃなくて台座の訓練じゃん! 私、トレーナーとかブリーダーみたいにただ指示出してるだけじゃん! ポケ●ンかよ! これ、絶対勇者じゃないじゃん! 私は王道テンプレな俺tueeee勇者がしたいのに!」
アズサはごくごく当たり前の事に気付いた。
「――という訳で、訓練の内容を変えるべきだと思います」
「……確かにそうですね。ダイ君があまりにも強いので我々もつい興が乗ってしまいました……」
アズサは騎士団長に相談した。
騎士団長も流石にこれは違うなーと思い始めていたらしいので丁度いいタイミングだったようだ。
「私は一刻も早く強くなりたいんです! あとお金も必要だから出来るだけたくさん稼ぎたいんです」
「魔王を倒すのは分かりますが、なぜお金が必要なのですか? 必要であれば王室からいくらでも支援金が出せますが……」
「それはあくまで勇者経費で、それ以外の資金使途では申請できないじゃないですか。私は個人で自由に使える金銭が欲しいんです」
「何の為にですか?」
「養いたい人達が居るんです!」
「……養いたい人達?」
「はいっ!」
アズサは力強く頷いた。
(そう、私が勇者としての名声を高め、たくさんお金を稼げばアマネさんやポアルちゃんに楽をさせてあげられる……!)
アマネはアズサと違い、魔力無しと判定され王城を追放された。
その事を知っているのはアズサと王族、そして彼らの側近だけだ。騎士団や民衆には一切知らされていない。
(……養いたい? はて? この世界に召喚されたばかりの彼女に親しい人間など居るわけがないが……?)
故に、騎士団長の疑問は最もであった。
彼はこれまでのアズサの行動から今の発言の真意がなんなのか考え、そしてハッと思い出した。
ここへ来る前に、城門の前で彼女は孤児を抱きしめて泣いていた事を。
(そうか! 孤児院を造りたいのか!)
それは城門でアマネたちと再会した時の事だ。
アマネの張った防音魔法があったので声は聞こえてなかったが、天幕の隙間から彼女が
ポアルの服装はボロボロだ。彼が孤児と見間違えてもおかしくないだろう。
(……なんと優しいお人か……)
勇者とはただ力を持つ者にあらず。
大事なのは正しい心と、正しい力の使い方。
勇者としての武力は悲劇を未然に食い止めることが出来るだろう。
勇者としての名声は出資金を集め、新たな孤児院を造ることも出来るだろう。
(優しさと慈悲の心。まるで聖女の様な高潔なお方だ)
騎士団長はアズサへの評価を大きく上げた。
「畏まりました。そういう事であれば、我々も尽力いたしましょう。協力してくれそうな文官にも心当たりがあるので当たってみます」
「……? え、あ、はい。よろしくお願いします……?」
何の事かアズサにはさっぱりわからなかった。
こうしてまた一つ新たな勘違いが生まれた。
――後に王都郊外をはじめ、各所に梓名義の孤児院が建てられることになるのだが、それはまた別のお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます