第18話 竜王様、勇者ちゃんと再会する
「アマネさん! 良かった。心配してたんですよ!」
「アズサちゃん、昨日ぶりだね」
「はい、昨日ぶりですっ」
「アズサ……? ひょっとして勇者の
アズサちゃんの名に衛兵がピクリと反応する。
「はいっ。そうです」
アズサちゃんはふんすと胸を張る。すると衛兵は後ろへ下がった。
「こ、これは失礼いたしました」
へぇ、昨日の今日でもう彼女の事が伝わってるんだ。
……私の事は全然知らなかったのに。
まあ、そりゃそうか。
そもそも私、一応魔力無し判定で勇者じゃなく流民って事になってるし。
「それで、どうしたんですか、こんなところで?」
「いやぁ、王都に入りたいなーって思ったんだけど、私、身分証が無くてさ」
「そうなんですか? おかしいですね? アマネさんもこの国での身分は保証されてるはずですけど……」
アズサちゃんは衛兵の方を見る。彼は笑みを浮かべて、
「アズサ様のお知り合いでしたらすぐに身分証を発行致しますよ」
「え、いいの? この水晶とかは?」
私は魔力水晶を指差す。
「必要ありませんよ。アズサ様の保証は王族の保証と同等ですから。少々お待ちください。今、お二人分の身分証を持ってまいります」
衛兵さんは天幕を出ていく。へぇー、凄いねアズサちゃん。
「ていうか、格好も昨日と随分違うね。その鎧とか剣はどうしたの?」
「あ、これですか? 実は昨日、お城の中を色々探索しまして。ほら、初期配置のマッピングって基本じゃないですか。宝箱とかあるかもしれないですし」
「しょきはいち? まっぴんぐ?」
「そしたらお城の地下にすんごいでっかい扉があったんです。しかもその前をでっかい鎌を持った死神みたいな骸骨がうろついてまして、これはキターって思いました」
「へぇー」
鎌を持った骸骨かー。ひょっとして私の所に居た付喪神みたいなやつかな?
色んなところに居るんだね。
「最初は門番かと思ったんですけど、私に気付くとなんか開けて欲しそうに裾を引っ張ってきたので、せっかくだから入ってみようかなーって」
「鍵とか掛かってなかったの?」
「なかったですね。私が触ったら普通に開きましたから」
「へぇー」
ん? それじゃあその骸骨さんはどうして入れなかったんだろう?
まあ、どうでもいいか。
「それで扉の中には金貨とか宝石とかがいっぱいあったんですよ。その一番奥にこの剣が台座に刺さってまして、抜けるかなーってやってみたら抜けちゃいまして」
「抜けちゃったんだ」
「はい。でも勝手に取ったら泥棒ですし、ちゃんと台座に戻したんですが、この剣なんかついてきちゃって」
「付いてきちゃったんだ」
「はい。あとこのマントや衣装も剣と一緒についてきちゃって。朝起きたら、ベッドの脇に台座と一緒に鎮座してました」
「台座も!?」
そこは剣とマントだけじゃないの?
台座もついて来るとかあるの?
「あ、台座は外で待機してますよ」
「外で待機してる!?」
ついて来てるの? 台座が!? 見てみると本当に台座があった。
一メートルくらいの高さの錐台型で横からにょきっと手足が生えてる。
あ、こっちに気付いて、手を振ってきた。どういう仕組みなんだろう?
「いやぁー、パトリシアさん が凄くビックリしてましたねー。あ、姫様って呼ばなきゃ駄目だったんだ」
「そりゃパトリシアちゃんもびっくりするよ……」
「怒られるかなーって思ったんですけど、『元々勇者様にお渡しする予定の装備だったので』って言ってたのでなんかお咎めなしでした。あと扉の前でうろうろしていた変な骸骨はいつの間にか消えてましたね」
「ふーん」
成仏したのかな?
「ところでアマネさん、その子は誰ですか?」
「ん?」
アズサちゃんは私にくっ付くポアルを見る。……まあ、アズサちゃんなら話しても問題ないか。
私はアズサちゃんにポアルの事を説明した。
「うぐ……ひっく……そっか、大変だったんだねぇぇぇ……うぇぇぇえええん」
「すっごい泣いてる」
「は、はなせっ。鼻水ついた。あまね、助けて!」
アズサちゃんはポアルにくっ付いてうぉんうぉん泣いてる。ポアルは嫌らしく、引き剥がそうと必死だ。
「……魔族にも色々事情はあるんですね。……うーん、やっぱりこれ、王族側が問題あるパターンかな? でも魔族側の情報がないしまだこのままでいた方がいいかな」
アズサちゃんはなにやらブツブツ言っているがよく分からない。
「あの、アズサちゃん、この事は――」
「分かってます。誰にも言いません」
念の為に防音魔法も使っているから、外に居る衛兵にもこの話は聞かれていないはずだ。
「お待たせしましたー。身分証の方、出来ましたよ」
するとタイミングよく衛兵が天幕へ入ってくる。
「そう言えば、アズサちゃんはこれからどうするの?」
「今日は騎士団の方と一緒に外で訓練です。魔族との実戦はまだ先になるだろうって言ってました。……正直、今は少し安心してます。今の話を聞いて、ちょっと色々考えちゃって」
「……そっか。頑張ってね」
「はい」
アズサちゃんは手を振りながら天幕を出ていく。
少し離れたところに騎士団っぽい人たちと台座が居た。……訓練ってあの台座も参加するの?
「さて、それじゃ私達は王都に入ろっか」
「おー」
「みゃぅー」
なんやかんやあったが、梓ちゃんのおかげで身分証も手に入った。
私達は王都へと足を踏み入れたのだった。
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