第17話 竜王様、町に向かう

 と、言う訳で森を出て王都に向かった。

 ハリボッテ王国の王都は城壁が築かれていて、壁外は全て郊外っていう物凄く大雑把な括りだ。

 なので外れにある森も郊外と言ってしまえば郊外になる。


「郊外でもけっこう栄えてるんだね」


 改めて見ると、郊外も結構な街並みだ。

 王都周辺だけあって、人もそれなりに多い。


「あまね、見て見て! あそこ、私がよく残飯漁ってる場所!」


 ポアルは目を輝かせてゴミ捨て場を指差す。


「……悲しくなる情報をありがとう。なんか美味しいものでも食べようね」

「うん! あまねと一緒なら私、どこでも楽しい!」


 あぁ、この子は本当に眩しい。

 労働で疲れた心に沁みこんでくる。

 時折馬車や、冒険者っていう人たちとすれ違ったけど、特にトラブルは起きなかった。


「……うぉー、本当に私、ハーフに見えてないんだ」

「そうだよー。認識阻害の魔法を使って、ポアルの角を隠してるからね」


 それでも今までの癖なのか、人とすれ違うたびにポアルは帽子をぎゅっと被る。

 傍から見れば人見知りの女の子に見えただろう。

 今はまだ無理だろうけど、少しずつその癖も治ってほしいと思わずにはいられなかった。

 道中はとても順調だったのだが、問題は城門に着いた時に起こった。


「身分証をお持ちですか?」

「え、いや……その、持ってないですけど。無いと町に入れないんですか?」

「いえ、お持ちでなければこちらで発行致します。勿論、犯罪歴の無い方に限りますが」

「そういうのって調べられるんですか?」

「はい、こちらへどうぞ」


 私達は城門の近くに張られた天幕へ案内される。

 そこには私が二度と見たくないと思っていたアレがあった。


「この魔力水晶で犯罪歴を調べるんです」

「………………」


 マジか。まさかまたあの水晶とご対面するとは思わなかった。


「…………これに魔力を込めるんですか?」

「いえ、触れて頂くだけで大丈夫ですよ? 過去に罪を犯した者が触れた場合、水晶の色が黒くなるんです」

「あ、魔力込めなくていいんですか!」


 良かったぁー。

 私はまたてっきりあの地獄が再現されるのかと思ったよ。

 私は安心して水晶に触れようとして――ソレが起こった。


 ――ズキンッと、右目が痛んだ。



 竜眼が、未来を知らせてくれた。

 私が触れた瞬間、水晶は一瞬で真っ黒に染め上がり、そのまま破裂した。

 当然、魔力の暴走は止まらない。

 天幕は吹き飛び、衛兵たちは粉々になった。

『ば、化け物! 化け物だーーー!』

『すぐに騎士団へ連絡を! 王都にとんでもない化け物が現れたぞ!』

『くっ、化け物め! ここから先は一歩も通さんぞ!』

 生き残った衛兵たちがてんやわんやの阿鼻叫喚。

 


 そこで映像は途切れた。


(あー、なるほどね。私が触れるだけでこうなるわけか……)


 無理じゃん。

 王城の時と違って、触れるだけでアウトとか絶対に無理じゃん。


「どうかなされましたか?」

「あまね、どうした?」


 水晶を前にプルプルと震える私を見て、衛兵とポアルが不審な目を向ける。


「……ちなみにこれって人間以外の種族が触れたらどうなるんですか? その、動物とか」

「みぃ?」


 私は話を誤魔化すように、フードに入ってたミィちゃんを取りだす。


「あっはっは、動物はふれても何も起きませんよ」

「で、ですよねー」

「まあ、魔族や魔族の血が混じった者が触れれば話は別ですがね。以前、人間に化けて王都に侵入しようとした魔族が居ましたから」

「へ、へぇー……」


 じゃあポアルが触れてもアウトなのか。

 もうこれ無理じゃん。


(仕方ない。王都に入るのは諦めるか……)


 残念だけど、今回は諦めよう。

 衛兵には不審がられるかもしれないが、用事を思い出したとか適当な嘘をついてこの場を――


「あれー、アマネさんじゃないですか!」


 天幕に明るい声が響き渡った。


「良かった。これから会いに行こうと思ってたんですよ」 


 声のした方を見れば、そこにはアズサちゃんが居た。

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