第12話 竜王様、猫の素晴らしさを知る

 という訳で、ポアルとミィちゃんと一緒に住むことになった。

 わーい、パチパチパチ~♪

 最初は一人でもいいかなと思ったけど、同居人が居るのもそれはそれでいいものだね。

 それに私はこの世界に来て小さくて可愛いものが好きになった。

 これはいい。これはいいものだ。


「ん~、可愛い。ねえ、ポアル。ぎゅーってしていい?」

「いいよ、あまねの好きにして」

「かはっ……!」


 な、なんだ今の一言。

 心が……四つある私の心臓が――あ、今は人の姿だから一つか。

 ともかく私の心臓がかつてない程に高鳴っている。


  ――これが、恋……?(※違います)


 ……そう言えば、アズサちゃんの居た世界だと、こういう風にちっちゃくて可愛い少女を愛でる奴の事を『ロリコン』って言うんだっけ?

 蔑称や差別用語らしいが、そもそも小さい生物は本能的に自分より強い者に庇護を求めるものだ。そして強きものはそれに応えて守り愛でる義務がある。

 つまり両者ウィンウィンの関係。

 いいじゃないか、ロリコンで。こういうのでいいんだよ、こういうので。


「ミィ~ミィ~」


 すると自分も構えと鳴くにゃんこ。

 可愛い。可愛い。可愛いです。ありがとうございます。


「おー、よしよし。ここかー? ここがいんですかー?」

「フミャゥ~♪ ミィ……」


 うーん、お腹出してこちらに身を預けてくる子猫。可愛過ぎる。竜界ですさんだ心がどんどん癒されてゆく。やはり子猫……子猫は全てを解決する。子猫との和解は必須。


(……一応、竜界にも愛玩動物はいたけど)


 竜界の愛玩動物。名をボルボラという。

 岩石獣に属する四足歩行の動く岩だ。大きさは一般的な山と同じくらいでくしゃみをするとマグマを吐き出す。

 そして四匹以上が一緒に居ると爆発するという奇妙な特性がある。


『ベボグボロォォオオオオオオオオ♪ バブリブレブログアァァァァ♪』


 その超独特の鳴き声は大地を壊し、マグマが溢れ出す。

 一時期、竜界では何故か空前のボルボラペットブームが起き、挙句の果てに戦争にまで発展した。

 もう一度言うが、ボルボラは四匹以上揃うと爆発する。

 そして竜は数をきちんと数えられる者が少ない。四以上を数えられる者なんてザラだ。

 当時、竜王だった私の父もハマり、二十匹近くのボルボラを家に連れてきた。

 大爆発が起きた。

 他の竜の住処でもボルボルラの多頭飼いによる連鎖爆発が多発した。

 そして『これは敵対竜族によるテロ行為だ!』とお互いがお互いに馬鹿な主張し合って戦争になったのだ。

 馬鹿なのか? 馬鹿だよね。割と真面目に竜族は一回滅んだ方がいいと思う。

 というかまずは数をきちんと数えられるところから始めなきゃいけない。私が教えようとしても腐蝕竜のディーちゃんと部下の竜くらいしか真面目に覚えようとしなかった。


(そもそもボルボラって可愛くないんだよ!)


 レアな鉱石を見つけては勝手に食べるし、洞窟を広げてダンジョンにしようとするしいい迷惑だった。

 鳴き声だって、あれただの騒音だし!


「その点、ミィちゃんは可愛い! すっごくモフモフ! 私、ミィちゃんに出会えただけでもこの世界に来た価値があると思える!」

「ミィ~?」


 決めた。

 私、竜界に帰る時が来ても絶対にミィちゃんだけは持って帰る。

 ていうか、猫を二千匹くらい持って帰る。

 向こうで猫の楽園を創るんだ。邪魔するやつは全員滅ぼす。転生もさせない。不転、大殺、真っ黒になるまですり潰す。


「ディーちゃん辺りも喜んでくれるかなー。あの子も可愛いものが大好きだからね~。ほ~らうりうり~」

「フミャァ~……ミゥゥ」


 アマネの撫でに、ミィはうっとりと気持ちよさそうに喉を鳴らす。


「むぅ……」


 するとポアルがむすっとする。おやおや焼きもちですか? 可愛いですね。


「おいで」

「……えへへ」


 手招きして頭を撫でると、ポアルは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 うーん、可愛い。ポアルも持って帰りたいなー。


「はぁ~~~~~すげぇな、人間界。可愛いものに溢れてんじゃんよ……」


 休暇最高! 休暇最高!

 お前も休暇最高って言いなさい。


「……あまねは不思議だ。他の人間と全然においが違う」


 そう言ってポアルは顔を私の胸にごしごしこすりつけてくる。


「あはは、確かに私は人間じゃないからね」


「? ひょっとしてあまねって魔族?」


「違うよ。信じて貰えないかもしれないけど、私は『ドラゴン』って生き物なんだ」


「どらごん……? あまねはどらごんなの?」


「うん、そうだよ。ほらこれ、角」


 するとポアルは目を輝かせた。


「あまねってやっぱり凄い! カッコいい! 好き!」


「お、信じてくれるの?」


「うんっ」


 王宮じゃ誰も信じてくれなかったのに、ポアルは信じてくれるのか。

 ひょっとしたら眷属になった影響かもしれない。


「よし、せっかくだしポアルには私の本当の姿も見せてあげるよ」

「本当の姿ってどらごんの姿? みたい! あまねの本当の姿みたい!」

「オッケー。んじゃ、ちょっと外に出ようか」


 気分を良くした私はポアルに元の姿を見せてあげることにした。

 

 さて、私はどの程度までこの世界を騙す事が出来るかな?

 世界を滅ぼさないよう気を付けないとね。

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