第10話 竜王様、魔族の少女と一緒に暮らす事にする

 少女はしばらく泣き続け、やがてようやく大人しくなった。


「えーっと、大丈夫?」


「……うん」


 少女はポツポツと事情を話してくれた。

 彼女の名はポアルというらしい。

 ポアルは人間と魔族のハーフで、故郷で迫害されてここまでやってきたそうだ。


「それで水晶が半分だけ黒くなったのか……」


 この世界、魔族と人間のハーフはどこでも忌み嫌われる存在らしい。

 ポアルは生まれてからずっと魔族の世界にも、人間の世界にも居場所がなかった。

 唯一、彼女の味方だった両親も戦争で失ったそうだ。

 それからは地獄のような日々だったという。

 ハーフだとバレると迫害され、石を投げられ、殺されそうになる日々が続いた。

 必死に生き延び、最後に行きついたのがここだったという。


「ここも人間しか居ないけど、よく無事だったね?」


「……私、角短いから。ほら」


 少女は髪をかき上げると、小さな角を見せてくる。


「……あれ? 折れてる?」


「いじめられて折られた。魔族は角がないと碌に魔法も使えないから、ハーフのお前にはお似合いだって……」


「酷いことするねぇ……」


「私の味方、ミィしか居なかった……」


「ミィー」


 ミィと呼ばれた子猫は、ポアルに撫でられると気持ちよさそうに鳴く。旅の途中で拾ったらしい。

 出会った時は酷く衰弱していたらしく、ポアルが懸命に看病して一命を取り留めたとの事。


「……優しくしてくれてありがとう。私と普通に話してくれて……」


「別にいいよ。それじゃあ、私はここから出ていくね。ごめんね」


「え……?」


 私が去ろうとすると、ポアルは凄く寂しそうな表情を浮かべた。


「だってここ、君たちの住処なんでしょ? 私が居たら迷惑になるんじゃない?」


「そ、そんなことないっ。居てもいい……。い、一緒に居て欲しい……!」


 ポアルは縋るような視線をこちらに向けてくる。

 

「え、私も住んでいいの?」


「……うん」


「ありがとう! それじゃあこれからよろしくね」


「ん」

「ミィー」


 私が差し出した手をポアルは握りしめる。

 ついでにミィちゃんも手を乗せる。可愛い。 


「あ、そうだ。ポアル、もう一回頭見せて」


「……?」


 私はポアルの頭に魔力を込める。ポアルの体が光り輝いた。


「ほい、治ったよ」

「……?」


 ポアルは自分の頭を確認する。

 そしてソレに気付いて目を丸くした。


「角……角がある!」


「うん。折れてちゃ可哀そうだと思って。おせっかいだったかな?」


「そんなことない! 嬉しい! ありがとう! ありがとう……えっと」


 あ、そう言えばまだ名前を名乗ってなかった。


「アマネだよ。私の名前。これからよろしくね、ポアル」


「分かった! アマネ! 私、アマネの事、好き! すごく好き! ありがとう!」


「ミィー♪」


 その瞬間、私とポアル、ミィちゃんの間にパスが繋がった感覚があった。


「うわ、何だこの感覚……? 力が溢れてくる……」


「ミィィ……!」


 ポアルとミィちゃんの体が溢れんばかりの魔力で輝いている。


「あれ? ひょっとして私の魔力が流れ込んでるの? 二人とも私の眷属になっちゃった?」


 これは予想外だった。まさかこっちの世界で眷属をつくる事になるなんて。おそらくポアルの傷を治した時に流した魔力によって回路 パスが繋がったのだろう。


「けんぞくってなに……?」


「眷属ってのは私と魔力で繋がった臣下の事だよ。えーっとポアルでも分かるように言い換えると『家族』みたいなものかな。私が親で、ポアルやミィちゃんが子になるって感じ」


「家族? あまね、私の家族になってくれるの?」


「うん」


 私が頷くとポアルは花の咲くような笑みを浮かべた。


「なるっ! 私、あまねのけんぞくになるっ!」


「ミィー♪」


「あはは、ありがと」


 ポアルとミィちゃんは私に抱きついてくる。可愛い。凄く可愛い。

 しかし傷を治しただけとはいえ、あんな少量の魔力で眷属化が起きてしまうとは完全に予想外だった。

 なにせ眷属化は、主の魔力によって眷属となった者の力を爆発的に高める事が出来る。反面、主となる者に魔力が無ければ眷属に魔力を吸い取られて死んでしまう諸刃の剣だ。

 私の魔力はただでさえこの世界では危険物扱いなのだから、それを現地の生物にみだりに与えるのはよくない事だろう。


 私はあくまで休暇でこの世界に来ているのだから。


「……まあ、ポアルとミィちゃんくらいなら問題ないか」


 見た感じ、ポアルもミィちゃんもそこまで強くなってる感じはない。精々、竜界の最下級の竜くらいってところだ。これが元々強い力を持ってた存在だったら、上級竜くらいの力を手に入れてたかもしれないけど、他に眷属がいるわけもない。

 なので問題なし。

 なにはともあれ、こうして私は自分の住処と、一緒に住む仲間を手に入れたのだった。

 えーっと、こういう場合、アズサちゃんの世界で「幼女とモフモフゲットだぜ」って言うんだっけ?


「あ、ひょっとしてピザーノさんは最初からポアルやミィちゃんと引き合わせる為にこの家屋を私にくれたのかな? 考えてみれば人が住んでる家屋を勝手に与えるわけがないもん。私が一人で暮らすのが寂しくないように気を利かせてくれたんだっ」


 うん、そうだ。そうに違いない。

 やっぱりピザーノさんは凄く良い人だ。


「ありがとうございますピザーノさん。住む場所と素敵な同居人をプレゼントしてくれて……」


 ピザーノさんにも何かいい事がありますように……。

 私はピザーノさんに感謝の祈りを捧げるのだった。



あとがき

次回はピザーノさんのお話

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