第9話 竜王様、幼女に出会う

 骸骨の人形さんを見送った後、私は家屋のリフォームに勤しんでいた。


「……あぁ、楽しい」


 体を動かし、ひたすら一つの作業に集中する事のなんと心地よい事か。

 イヤイヤ働いて体を動かすのとは違う爽快感。心が洗われていく気がする。


「よし、とりあえずこんなもんかな……」


 なんとか家屋としてマシな見た目にはなっただろう。所々、継ぎ目が甘かったり、はみ出したりしてるのはご愛嬌だ。


「そのうち畑とか作ってみたいな。あ、地下室とかもいいかも。アズサちゃんの知識にあったサウナってのも作ってみたいな」


 これからの未来にワクワクしていると、外から声が聞こえた。


「な、なんだこれ……私達の住処が」

「ミィー……」

「ん?」


 出ると、みすぼらしい姿の少女と痩せ細った子猫がこちらを見ていた。

 少女のこめかみからはヤギの様な曲がった角が片方だけ生えている。


「だ、誰だお前! 私達の住処で何をしてるんだ!」

「ミィー!」

「え、ここ住んでたの?」


 確かにボロボロだが誰かが住んでる形跡があったけど……。私はてっきりテーマパークの名残かと思ってた。おいおい、お偉い人さんよ。ちゃんと下調べしてよ。

 これじゃ私が人の家を勝手に改造しちゃってる不審者になっちゃうじゃんか。


「えーっと、その……ごめんね、勝手にお邪魔しちゃって」


「は、はやく出て行け! 人間は私達から住処まで奪うのか!」


「ミィ……!」


「?」


 何か事情があるのかな? そういえば姿形は人のそれだが、感じる魔力が違う。

 ……確かめてみるか。


創造魔法ツクール――魔力水晶)


 創造魔法。その名の通り、私が一度見た物、触れた物を自由に再現する魔法。

 今、再現したのは私や梓ちゃんの魔力を測定した魔力水晶だ。

 これを目の前の少女へ向ける。 


 ――水晶は少し黒くなった。


 確か、黒は魔族の色だったっけ? てことは、目の前の少女は魔族なのか。

 今度は子猫の方へ水晶を向ける。こっちは緑と赤が混じっていた。

 緑は動物、赤はモンスターだったよね? モンスターと動物のハーフ?

 なんかわけありっぽいな。


「な、なんだその水晶は! それで私達を殺すつもりか!」


「ミャァー!」


「いやいや、殺すつもりなんてないってば」


 そのつもりならとっくに殺してるって。

 私は他の竜と違って癇癪で同族を殺したり、大陸を消したりしない。

 精々、山を一つか二つ吹き飛ばすくらいの温厚でクールな竜だよ。


「私は勇者として召喚されたけど、今は勇者じゃないからね。魔族と戦うつもりはないよ。私の休暇を邪魔するなら別だけど」


「ゆうしゃ……? ゆうしゃってなんだ?」


「人間の為に魔族と戦い、魔王を滅ぼす者って意味らしいよ。武器や兵器みたいなものかな」


「……!」


 私がそう説明すると、目の前の少女はブルブルと震えだした。


「う、うあぁぁあああ! どっかいけ人間―!」


「あ、ちょ、石投げちゃ駄目だってば。痛っ――くはないけど、目に当たった! やめなさいって」


 そもそも私は人間じゃないし。

 あーもう、どうすればいいのかな?


(アズサちゃんの知識によれば……子供は食べ物で釣るべしだっけ?)


 アズサちゃんの世界では、子供は飴というお菓子を上げると機嫌がよくなり、上げた人物について来るらしい。

 ならばその飴とやらを再現して――あ、無理だ。

 私の創造魔法は記憶じゃなく実物を見ないと再現できない。


 ……私の居た世界の食べ物でも大丈夫だろうか?


創造魔法ツクール――赤い果実)


 私は創造魔法で竜界の果実を再現した。

 見た目はアズサちゃんの世界のイチジクに近い果物だ。

 甘くてジューシー。あとほんのちょっぴり魔力を回復、強化してくれる。


「これあげるから大人しくして」


「……なんだこれ?」


「果物だよ。ほら、毒なんて入ってない。美味しいよ?」


 自分の口に入れて毒が無い事をアピール。


「……くれるのか? なんで?」


「えーっと仲良くなりたいから?」


「……おまえ、へん。普通の人は私達と仲良くなりたいなんて思わない」


「私は『普通』じゃないからね。ほら、美味しいよ」


「……」


 少女はおずおずと果物を口に入れた。


「――!」


 効果はばつぐんだった。

 少女は夢中で果物を頬張っている。


「ミィ! これ食べろ! 凄く美味しいぞ!」


「ミィ? ……!」


 子猫も一口食べると目を輝かせた。名前はミィちゃんって言うらしい。


「まだまだあるからいっぱい食べていいよ」


 私は創造魔法で赤い果実を大量に創りだす。

 少女と子猫はガツガツ食べる。私はそれをじっと見つめる。


(うーむ、なるほど。これは確かに――可愛い)


 小さい子がリスのように口いっぱいに頬張る姿は心に来るものがある。

 ほっこりするとはこういう感情か。

 触りたいな。頭とか撫でてみてもいいのかな?

 手を伸ばそうとしたら、少女が急に食べるのを止めた。

 くっ、駄目か。触っちゃ駄目なのか?


「うぅ……ぁぅ……」


「ん?」


「うわぁあああああああああん! わああああああああああん!」


 あ、あれー? なんか急に泣き出しちゃったんですけど?

 おいおい、アズサちゃんよぉ、話が違うじゃねーか……。

 

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