第7話 キャバクラ
「わかったわ。本当は、よくわからないけど、でも父は、わたしを娘として育ててくれたわ。」
「そうですね。でも、もういい加減、うんざりしているのかも、しれないですね。わたしを認知しようか、って話も、あるくらいですから。」
「そうするかどうかは、それは父の問題だわ。」
「ええ、ええ。ただ、わたしは、これを伝えたくって、ここで待っていたのです。」
「わかりました。ええ。」
「あなた、認める?」
「ええ、認めるわ。それで、いい?」
「そう、いいわ。よかったわ、義理のお姉さん。」
剣上エリは道路の端に寄ると、にこりとした。
その容貌は、よく見ると何処か父に似ているところがある。大体、娘というのは父に似るものなのである。ユナは呆然としながら歩き始めた。高ヶ坂の六百坪の自宅に帰る坂道の中で、ユナの頭の中は、かつてないほど目まぐるしく回転していった。
わたしが父の子じゃないとしたら、わたしは誰の子なのかしら、母は、わたしの本当の母なのかしら、わたし父には似てない気もしてたし、母には似てる気もしたことがあったけど、今まで一度も、そんな事、考えた事なかったから、わたし、こんなに不幸せな気持ちになった事なかったわ
あの女が言ってる事は、やっぱり嘘なのかな、
でも、やっぱり父とは母は仲が、よさそうに見えた事は、なかったし、そういえば、父が、わたしを本当に可愛がってくれた事も、ないような気がして、なにか、わたしが間違った時も母の方が、わたしをかばってくれたよう気がしてたし、父親って、あまり愛情を示してくれないのかなと思って、納得していた事もあったんだけど、うちには、お手伝いさんもいたりするから、他の普通の家庭のように孤独になる事はないし、お手伝いさんも、わたしを可愛いって言ってくれて、母と同じように可愛がってくれたから、父親なんて、あんなものと思っていたのだけど
もしかして?そう、なんとか父に聞いてみよう。って、本当の父って誰なのかしら。今までの自分は、あれが世の中の父親の姿だと思っていた。ユナは気がつくと自宅の門の中に入っていた。右手にある大きな樹木が、何か彼女を蔑むように見つめている気がした。
娘というものは、母親と同じ運命を辿る場合が実に多いものだ。剣上エリも十八歳なのに母と同じ業界で働きたいと思っている。母は今はキャバクラの経営者だけど、昔はキャバクラでナンバーワンを取っていたらしい。静岡から東京に出てきて、赤坂や銀座で働いて、今は町田で店を開いている。「お母さん、月収って、いくらなの?」
「うん、多い時で、そう、三百万円かな。」
「すごーい。それ、それ、年収じゃないのねっ?」
「もちろんよ、でもね、少ない時は、二百万円だけど。」
「だって今、いまー、年収、三百万時代とか、日本では、言われているのでしょ?」
「そうみたいね。でもね、エリ。お母さんは大丈夫よ、あなた、アメリカに留学したって、いいわ。いいお客様が、たくさん付いてくれているし、町田って既婚者が多いから、うちは結構繁盛してるのよ。」
「うん、アメリカか。エリね、インターネットの勉強したいな、アメリカに行って。」
「それは、とっても、いいわね。お母さんにも、ぜひ、教えてね、エリは、でも他に、絵を描くのが、うまいんだから、それでネットで、有名になれるかもしれないわね。」
「お母さん、わたしの絵の才能って、お父さん譲り?」
「そうなのだわ、きっとね。エリは、すごい天才かも、しれないのよ。」
「お父さん、ねえ、次は、いつ来てくれるの?」
「来月よー、きっと。きっと、そうなのよ。」
「エリのところに、いつも帰ってきて、ほしいな。」
「無理を言っちゃ、駄目よ。お父さんには、お父さんの、事情があるの。」
「うん。それ、わかるー。」
居間の大きな窓からは、小田急とJRの町田駅近辺の風景が見える。人影は小さく動いている。
夜遅く、浜野は版画美術館の近くのベンチに置かれていた、女の下半身の写真を携帯で見てみた。すると何と、そこには上半身も裸の女性が、右手を頬に当てて微笑んでいるではないか。若い二十代の女性でOL風の感じがする。ぞっ、と浜野は背筋が寒くなった。(これはー、なんなー、写っとる、上も。幽霊かいな、これ。)そう思って、目の錯覚か、どうか確かめるために、あちこちに手で携帯電話を持っていって見たが、やはり消えないで写っている。(こげなことがー、やっぱ、ある、とたい。)あの事件は、ネットでも有名になったが、何と動画に撮って動画共有サイトにアップロードした、つわものもいた。その動画は最近の一番人気とは、なっていたのだが、しかし、浜野も見たその動画では上半身は写っていなかった。(おれの携帯にだけ、写っとるのだろか。) 警察も捜査中だが犯人の目星もつかず、女性の上半身も発見されていなかった。(警察に持っていってやろーか。でも、取り合って、もらえんかもしれん。いや、それより、おれが疑われる。かもしれん。だけん、持っていくのは、やめとこー。)
浜野も純朴ではあるが、過去に財布の落し物を警察に届けた時に、変に思われた過去を持っていたのだ。(うん、上半身は、おれが撮影したと、思われるけんなー。)それにしても、その女性の胸は、キレイな巨乳なのだ。(よか、おなご(標準語・訳 おんな)、たい。)
浜野は隔週日曜日に緑川鈴代と会って、いつも十万円は貰っていたので、月二十万円の収入になった。
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