第14話 婚約破棄 エンゲージ・リボケーション
女性をあんな風に背中へ並べて、何が楽しいのよ?
貴族の子息マッテオへの怒りで全身が煮えてくる。
嫌味な貴族は饒舌に振る舞う。
「婚約者の諸君、見るがいい。このご令嬢は昔、僕が一度優しくしたくらいで、自らを細君(妻)だと早とちりしているのだ」
それを聞いた赤青緑の婚約者アベンジャーズは、口を隠して肩で笑った。
華やかな社交場の空気が次第に濁って行く。
子息マッテオは鼻を高くし、まるで雲の上から下界を見下ろすように語った。
「やはり、同じ貴族でも伯爵と男爵ていどでは、大きな隔たりがあるか」
私は口に手を添えて他の人に聞こえないよう、師匠へ聞いた。
「伯爵と男爵って何が違うんですか?」
「貴族には序列が存在する。
伯爵とは遠方の土地を納め管理し、王族の一大事が起きれば真っ先に馳せ参じ、国から内政を任される高い身分だ。
その下に子爵という伯爵を支える身分があり、伯爵の統治する土地を一部任されている。それゆえ、子爵は伯爵の身内が多い。
さらに下にいるのが男爵だ。貴族社会では肩身が狭く、上位階級の下命を拒みにくい位置にいる」
「師匠って、貴族のことに詳しいですね?」
「無駄に寿命が長いと余計なことを覚えるものだ」
視線を戻すとアラベラ嬢は激しく動揺していた。
産み落とした卵を包むように十年も大切にしてき過去、日々の努力の糧にしていた思い出を、嘲笑で締めくくられたのだ。
見ていて胸が張り裂けそうになる。
子息マッテオはイタズラ好きの子供のような、いやしい笑みを浮かべて言う。
「前々から、この舞踏会で来客驚かせる余興を考えていたんだ――――ヴァルトナ男爵の娘アラベラ。君との婚約は、この時をもって解消する!」
マッテオが高らかに宣言したことに会場はザワつき、冗談かと愛想笑いを浮かべる男爵もいれば、哀れとばかりに冷笑する貴婦人もいた。
その笑いの渦中にいるアラベラ嬢は、あまりのショックと恥ずかしさから、言葉を詰まらせながら聞いた。
「そ、それは、婚約破棄……と言うことですか?」
「頭の足りない令嬢だな。婚約破棄だと言っている」
「そんな……そんな、あんまりです。ワタクシはアナタに相応しい花嫁になろうと、これまで必死に学問と教養を学んで来ました。なのに、どうして?」
「そういうところだよ」
「え?」
「僕が君に抱く嫌悪だ。ひたすら何かを追い続けるひたむきさ。逆にそれが信用とは足らぬのだ。さも、自分は愛されるべき人間だとアピールしているようにしか見えない。何もかもがウソに見える」
「ワ、ワタクシはアナタにウソなどつきません」
「ウソも過ぎれば一つの余興。そのウソすらつけないか? つくづく、つまらない女だ」
「ワタクシは……どうすれば良いのですか?」
「どうもならないさ。笑うこともなく、この場で感情に任せて怒りを現すこともない。君は動く蝋人形と同じ。だから不気味なのだよ」
「蝋人形……」
「そもそも学問や教養など女には必要ないのだ。花嫁など美しくつくろい、黙って夫の側で笑っているだけで良い。それ以外、取り柄などいらないだろ? それが女の役目だ」
あ~~ぁあーーーー!!!
もう頭来た、あの×△○@貴族!
ここにいる貴族階級の男性はそれを聞いて、笑ってるのもムカつくけど、上流階級とは言え、なんで奥方や私と近い年齢の女子は黙って聞いてられるの?
アラベラ嬢は平穏な心を取り戻せず、うわ言のように語る。
「こ、心を磨けばアナタは振り向いて下さると信じて、すがる思いで研魔士様に頼ったのに。そ、それがきっと全てだと信じて……信じていたのに」
「心も磨いて? これは呆れた! 貴族でありながら研魔術に頼るとは。あんな詐欺まがいの怪しい術の施しを受けるとは、俗世の垢にみれたか」
横目で師匠の顔色をうかがった。
ダーケスト様の目尻が痙攣してる。
あの貴族の息子は、決して言ってはならないことを口にしてしまった。
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