君がくれた365日

影山かける

プロローグ

4月のあの春。

君と出会ったあの日から、灰色だった世界は、一瞬で七色の世界に変わった。

それは、まるで夢のようで。


君がただ傍にいるだけで、世界は輝いて見える。

次会えるなら、その時はこの気持ちを君に伝えたい。

君の名前を叫んだ時のように、もう一度大きな声で。

僕の嘘偽りのない気持ちを――……


高校生になって2年が経つ。

サッカー部もまもなく最後の大会があり、高校生活最後の1年を過ごしている。

桜の花は散り、葉桜へと変わり始めた頃。

とある人物のことが頭から離れず、ぼーっと机で頬杖をついていると前の席に座っている女子が話を振ってきた。


「ねぇ、そういえば今日転校生が来るって知ってた?」


「転校生?」


「そっ!なんかこのクラスに転校生来るみたいだよ」


転校生というワードに、心が大きく揺さぶられる。


「この時期に転校とか珍しいな」


「だよねー!しかもウチのクラスに来るって噂だよ!」


「マジか……、でもなんでこの時期に転校なんか……」


「何か家庭の事情らしいよ?事情はわかんないけど、すっごい美人らしいよ!」


「ふーん」


前の席に座る女子の話に適当に相槌を打ちながら、内心はドキドキしていた。


「楽しみだねー!転校生!」


そんな僕の心情を知る由もない女子が、満面の笑みを浮かべながら言う。

俺もつられて笑みを浮かべていると、担任教師が教室に入ってきた。

それと同時に、廊下からきゃーきゃーと黄色い声が上がる。


「なぁなぁ!先生!今日転校生来るってホント!?」


「ホントだぞー」


「マジかぁ!!」


クラスの男子たちは興奮気味に騒ぎ立て、女子たちは興味津々な様子で耳を傾けている。


「おい!お前ら席につけ!今日は転校生を紹介する!」


担任の呼びかけに、騒がしかった教室は一瞬で静寂に包まれる。


そして、教室に君が入ってくる。


「えー、じゃあ自己紹介を」


「はい」


担任に促され、君は黒板に自分の名前を書き始める。

綺麗な黒髪が靡き、前髪は眉のあたりで切り揃えられている。

顔はとても整っており、目が大きく宝石のように輝いていた。

君の自己紹介と同時にクラス中が再びざわつく。


「初めまして。高橋琴音と申します」


そんな声すらも魅力的で、周りからはほぅ……と感嘆の吐息が聞こえた。


(うわぁ……めちゃくちゃ美人じゃん……)


その容姿に、僕は完全に心を奪われていた。


「じゃあ、高橋の席は……」


「あ、先生!鳥飼君の隣空いてますよ!」


(マジかよ…)


「じゃあ高橋さんはそっちの席で」


「はい」


指定された席は僕の隣だった。


(こんな偶然ってあんのか……?)


君は席に移動すると、隣の僕に視線を向ける。


「よろしく」


「あ、あぁ……鳥飼拓海です…よろしく…」


(可愛い……)


君に見惚れてしまい、挨拶を返すので精一杯だった。

それから授業の合間の休み時間になると、クラスの女子たちが君を囲んでいた。


「高橋さん!前の学校ってどんな感じだった?」


「彼氏とかいるの!?」


「え、えーっと……」


そんな女子たちの質問に君は苦笑いを浮かべる。


(めちゃくちゃ質問攻めだな……)


前の学校でのことを質問する生徒たちを横目で見ていると、君は口を開いた。



「前の学校は女子校だったので……男性と接する機会があまりなくて……」


「えー!女子高出身なんだ!」


「高橋さん!学校案内してあげようか?」


1人の女子が急にそんなことを言い出した。


「いいねそれ!」


「じゃあ鳥飼君!高橋さんを学校案内してあげてよ!」


「え!?」


(いきなりそんなこと言われても……)


女子たちに囲まれている君は、呆然とした顔で僕のことを見つめていた。

その姿を見て断れるはずもなく、僕は小さく頷いた。


(やばい……めっちゃ緊張する……)


心臓の鼓動は高鳴り、喉が渇く。

僕は緊張しながらも、君を連れて他の男子たちのところまで案内することになった。

クラスメイトから向けられる好奇の目や質問攻めに戸惑いつつも、君はなんとか応えていた。


「ここが男子のたまり場」


教室から少し離れたところにあり、

ゲームや漫画、トランプなどが置いてある。


「俺らはいつもここで遊んでる」


「そうなんだ……」


「ちょっと待ってて。俺の親友を呼んでくるよ。」


「うん」


僕はそのたまり場から、よく話している男子を1人連れてくる。


「おっす!悠斗!」


「おっ、拓海じゃん!どうした?」


この男子は井上悠斗。俺の幼馴染で同じクラスだ。

運動神経がよく、友達も多い人気者。

たまに女子たちから告白されたりもするが、全て断っている。

そんなことを考えていると、悠斗は君のことを熱心に見つめながら口を開いた。


「ん?この子誰だ?」


「転校生の高橋琴音さん。このクラスに転校してきたんだ。さっきクラスで自己紹介してたじゃん…」


「へぇー!転校生か!俺は井上悠斗。よろしくな!さっきは寝ててなんも聞いてなかったわ!スマン!」


悠斗は爽やかな笑みを浮かべ、自己紹介をする。すると、君もすぐに名前を言った。


「高橋琴音です。よろしく。」


それから僕たちはしばらく会話を楽しんだ後、教室へと戻った。

そのあとはあっという間に時間が過ぎて

放課後がすぐにやってきた。


「高橋さん!放課後どっか寄ろうよ!」


「私も一緒に行きたいー」


君の周りには女子たちが群がっていた。


(やっぱすげぇ人気だな……)


そんな光景を微笑ましく見ていると、隣にいる悠斗が口を開いた。


「琴音ちゃんめちゃくちゃ可愛いな……」


悠斗は君に見惚れながら小声で呟く。

その言葉を聞いた瞬間、なんだか胸が苦しくなった。

悠斗も君の容姿に惹かれている。その事実になんだか焦りを感じている自分がいる。


(なに焦ってんだ俺……)


僕は自分の気持ちが分からぬまま、悶々とするのであった。


「みんなごめんね…今日は家に帰らないといけないの。」


君は申し訳なさそうにしながら、女子たちに謝る。


「えー!残念だけど……しょうがないね。」


「また一緒に遊ぼうね!」


女子たちは渋々諦め、君と別れていった。


「拓海君……だったよね?一緒に帰らない?」


君は僕に視線を向けてそう言った。


(マジか!?俺と一緒に帰ってくれるのか!?あと名前呼び!?!?)


そんな君の申し出に断る理由もなく、僕は頷くのであった。


(やばいやばいやばい……!心臓がバクバクだ……!)


僕は緊張でガチガチになりながらも、平静を装いつつ君と歩き始めた。


隣を歩く君は、緊張する僕の様子を不思議そうに見ていた。

「あのさ……高橋さん」



「琴音でいいよ」


「あ、じゃあ……琴音……」


君に下の名前で呼んでいいと言われた瞬間、顔が熱くなるのを感じた。


「悠斗君と親友なんだよね?」



「悠斗がそう言ってた?」


「うん。すごく仲が良さそうだったから」


「まぁ……長い付き合いだしな……」


「拓海君ってモテそうだよね。」


「そんなことはないよ」


僕は曖昧な返事を返す。


「好きな子とかいるの?」


「いや……いないな」


「…良かった」


ボソっと呟いた君の言葉に、僕の心臓はギュッと締め付けられる。


「え?」


「あ……なんでもないよ!」


(なんだこの気持ち……)


自分の気持ちに疑問を持ちながら、君と並んで帰り道を歩く。


「琴音はさ……その……彼氏とかいないの?」


「いないよ」


君は即答した。その言葉に安堵している自分がいた。


「そうなの?」


「うん」


「そうなんだ……」


その後はお互い無言で歩き続けていた。

すると、琴音は少し歩みを遅めて口を開いた。


「拓海君は……」


「……ん?」


「その……彼女とかいないの……?」


照れているのか、君の声は徐々に小さくなっていく。

そんな君を見て、僕の心臓はさらに鼓動が高鳴るのを感じた。


(やばい……可愛すぎる……!)


「いないよ」


僕は平静を装いながら答えると、君は嬉しそうに微笑んだ。

家の前に着く。


「じゃあ僕は帰るよ」


「うん!またね!」


君は笑顔で手を振ってくれた。僕も小さく手を振り返した。

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