貴方とは他人です、後悔したってもう遅い
あずあず
ヴァンルード家の私
第1話穏やかな日々
神様、この幸せを真に私にお与えください。
「愛しているよ、リリア。おやすみ」
旦那様は毎晩私のおでこにくちづけを落としてくれる。
(ああ、愛しい旦那様。どうか夢なら覚めないで)
私に背を向けてすぐに安らかな寝息が聞こえてきた。きっとここのところの激務でお疲れなのだろう。
その背中にそっと熱のこもったおでこをくっつける。
旦那様は寝ぼけながら寝返り、私をぎゅうと抱きしめたので、まるで冬の日の湯たんぽみたいに柔らかく温かい気持ちが訪れた。
旦那様の口元がむにゃむにゃと寝言を言いかける。私は慌てて耳を塞いで猫みたいに丸くなった。
(嫌だ、聞きたくない)
✴︎ ✴︎ ✴︎
翌日、少しだけ寝違えた首に湿布を貼ってもらった。
「マイロ、今日は結い上げるのではなくて下ろしたスタイルにしてくれる?」
言うと、侍女のマイロはふふっと微笑む。
「奥様の銀髪はとってもお綺麗だから、下ろすかハーフアップがお似合いですわ」
「あら、本当?毎日髪を結ってくれているマイロにそう言ってもらえるなんて嬉しいわ」
にこにこ顔のマイロは丁寧に丁寧に我が子を慈しむ様に髪を解いてくれる。私はこの時間が贅沢でとても大好きだ。
でも、とマイロは不思議そうに鏡越しに私を見た。
「お珍しいですわね、奥様。いつも結い上げてらっしゃるのに…まさかこの湿布が原因です?」
「昨日は少し冷えたでしょう、縮こまって眠ったら寝違えてしまったの。恥ずかしいわよね、笑ってくれるかしら?」
彼女は察しが良いので少し困惑顔を見せると、いつもの仕事をしている顔になる。
そしてぽつりと
「旦那様がなんと言おうとも、私も城の皆も奥様の銀髪はお美しいと思っておりますわ。誠の"七色の髪の乙女"は奥様なのですから」
私は鏡の自分と対峙した。
"七色の髪の乙女"そう呼ばれて久しい。
子供の頃は自分の髪が自慢でもあった。
ヘイリーハイト侯爵から"七色の髪の乙女"を望まれたと聞いた時は飛び上がる程嬉しくて。
けれど、ヘイリーハイト様が真実求めたのは私の姉、金髪のフォレスティーヌだった。
門を開いて出迎えた時の旦那様の微妙な顔は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
私の初恋は実ったと同時に腐って落ちた。
(大丈夫、私は旦那様と結婚して一年。こんなに幸せだもの)
結局私を迎え入れてくださり、今こうして暮らしている。
城のみんなとも打ち解けて楽しい日々だ。
恐ろしいくらいに穏やかだ。
-いつか終わる日が来るよ-
誰かがそっと耳打ちする声がよく聞こえるために用意されたのではないだろうか。そう思うほどに戦ぐ風さえも静かだ。
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