物欲

堕なの。

物欲

 東雲に移りゆく海辺で、小さな水飛沫を立てて歩いていた。水の染みたサンダルが冷たくて気持ちいい。陸風に晒されながらそんなことを思った。

「綺麗だね」

「うん。一緒に見られて良かった」

 私の彼氏と手を繋ぎながら歩く。朗らかな笑顔を浮かべていた。

「来年も、再来年も来ようね」

「勿論だよ。ずっと一緒」

 私のペースで歩く。彼は同じスピードでくっついて来る。私が足を止めれば、彼も止まった。

「祈ろうよ。偶には良いでしょ」

「うん。祈ろうか」

 彼のつぶらな瞳に映し出される私の姿は、酷く汚らしい。でも、そんな事どうでもよかった。気にならないくらいに、今が幸せだった。ホントに? 其の問いには気にもとめないままで。

 君の首元でキラリとネックレスが輝いた。私が付き合って一年記念に渡した、安物のネックレスだ。彼ならもっと高いものも買えるというのに、ずっと着けてくれていた。其れが、自分でも信じられないほどに嬉しかった。

「当たり前だよ。君からの大事なプレゼントだ。それに、学生の頃は全然安くなかっただろう?」

「其れはそうだけど、よく似合ってないって言われるでしょ?」

「言われないよ。言われても彼女のプレゼントだってちゃんと説明する」

「恥ずかしいんだけど」

 堂々として、ずっと憧れの感情も抱いていた。一体、どうしてこうなってしまったのか。



「ねえ、なんであのお姉ちゃん人形に話しかけてるの?」

「しっ、静かにしなさい」

 可哀想に。あの子、恋人が死んでからずっとあの様子で……。

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物欲 堕なの。 @danano

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