第2話 宇宙戦艦グランギアス
逃げていく騎士たちを、ため息とともに眺めていた。
俺は田中健斗、おそらく地球で唯一だろう魔法使いだ。
……かつて俺は地球で小人に出会って、オモチャたちと親友になった。だが小人が帰ってしまい、そのオモチャたちは動かなくなってしまう。
もう親友たちと会えず、彼らとヒーローになるという約束も果たせない。これは仕方のないことだ。
――などと納得できるほど、俺は諦めがよくなかった。
最後のオモチャが動かなくなってから俺は気づいたのだ。小人が迎えに来てくれないならば俺の方から行けばいいと。
幸いにも異世界転移や
それからずっと魔法の修行を行った。毎日最低でも五時間は費やして、簡単な魔法から鍛え上げたのだ。
魔法といっても鍛錬方法は勉強や運動と変わらない。反復練習として魔法を放ち続けて、少しでもよくなるように考えて練習した。
そして生活も疎かにしていない。自分の生活を大事にして親を泣かせてはならないと、親友たちに言われ続けていたからな。あいつらの大半はヒーローだから。
なので小学校、中学校、高校とずっと真面目に通って今は大学生だ。すでに単位の大半を取り終えているが。
中高では勉強も部活もやりつつ、それでも時間を無理やり捻出して魔法の訓練は怠らなかった。
大変だったが親友たちとの約束は守り続けた。彼らとまた会う時に顔向けできるようにと。
そうして俺は魔法を自在に操れるようになり、同じ魔法でも六歳の頃とは雲泥の差になっていた。六歳時は指に火を灯すだけだった魔法も、今では高層ビルほどを包み込むほどの火柱を出すことすら容易だ。
もちろん他にも使える魔法も増えていき……そして二十歳になって、俺はとうとう異世界転移魔法と
この二つは気色が似ている魔法なので、片方使えればもう片方も出来るという類のものだった。
二つの魔法を使えるようになった時、泣いた。十二年間は決して楽ではなかったから。
心が折れそうになったことは何度もあったが、無理やり自分を奮い立たせ続けた。また親友たちに会うために、自分は天才だから出来ると根拠のない言葉を言い聞かせて。
そして今、ここにいる。異世界で親友たちと共にヒーローになるために。子供の頃の約束を果たすために。
それで異世界に来て少し探索していると、襲われる少女を見たので助けたわけだ。
……しかしさっきの騎士たちは逃げてくれてよかったな。もしこれでも立ち向かってくるなら、どうやって殺さずに倒すかで苦心しなければならなかった。
ヒーローは大悪人と怪人以外は殺さないからな。
「よくやったわ! あいつら追い返してありがとう!」
たぶん姫様が駆け寄って来る。
何故たぶんなのかと言うと彼女がパッと見で姫様に思えないからだ。
ボロボロの服を着ているし、それに薄汚れていてやせ細っている。容姿こそ優れているがとても姫などとは思えない見た目だ。
少し身長が低く中学生くらいに見える。
「どうもありがとうございます。この老体では、素手で騎士十人相手は流石に厳しく……」
姫様のおつきらしいお爺さんも頭を下げてくる。この人も服や髪などはボロボロだが、なんとなく気品を感じさせる。
「いえいえ。悪を倒すのはヒーローの役目なのでお気にせず」
さっきの姫様たちのやり取りこそ聞いていたが、彼女らの状況はあまり分かっていない。でもあの騎士たちが明らかに悪者だったのでとりあえず助けたというわけだ。
だがこの姫様たちが善人確定になるわけじゃない。
俺はかつてのトラウマで、他人を疑うのが習慣づいてしまっていた。騙されるのはもうコリゴリだからな。
「いえいえこれくらい容易いことです。ところで話をするならここだと落ち着きませんね。ひとまず落ち着いて話の出来る場所を用意しますので、少々お待ち頂けませんか?」
「落ち着いて話の出来る場所ですと?」
「はい。少々お待ちください」
俺は目の前に渦のようなモノを造りだし、その中に伸ばした。
これは収納魔法で渦の中にはいろいろなモノが入っている。その中のとあるモノを取り出した。
「えっ!? それなによ!?」
姫様が驚いているのも当然だろう。
俺が紙袋から取り出したモノは宇宙戦艦グランギアスだ。全長三百メートルを誇る戦艦で、かつ変形によって上半身人型で下半身がキャタピラの形態に移行する。
強力なビーム砲や電磁迷彩も備えている宇宙戦艦……のオモチャだ。とある戦隊モノに出てくるロボットで、今羅列したのも全部作中の設定である。
実際はプラスチック製のオモチャだ。でもちゃんと車輪で地面は走るし、変形もできるからクオリティ高めだが。
なのでこいつの実際の大きさは30センチくらいである。
しかし30センチって小さいな。子供の頃はもっと大きいイメージだったがなぁ。
「こいつは巨大な空飛ぶ、かつ地面を走る船です。今後の拠点にするために持ってきました」
「えっと……あ、さっきみたいに
「大丈夫ですよ」
俺はオモチャの戦艦に手を添えて、魔力を込め始める。
「万人が見る夢よ、真実となれ!
するとオモチャの戦艦は光り輝き、膨れ上がって山のように巨大になっていく。
それだけではなくボディがプラスチックから金属に変わり、エンジン音なども鳴り始める。
「嘘……
姫様は宇宙戦艦グランギアスを見て唖然としている。
想幻実化はこの世界の魔法で、モノに込められた祈りや設定を現実化するものだ。ただしこの世界の人間は想幻実化をまともに扱えない。
何故なら祈りや設定は、個人が勝手に考えただけでは成り立たない。想幻実化によって力を与えられるのは、大勢の人がその物体の設定を知っていなければならない。
例えば木剣を鉄剣にするのは可能だ。木剣が鉄剣の模造品であるのは誰でも理解できるから。
だが鉄剣を伝説の剣にしたい場合、数万人にこの鉄剣は勇者の剣ですと思ってもらわないとダメと。
しかもその勇者の剣がどのような力を持つのかも、ある程度の共通のイメージを持たせなければならない。どんなビームを放つのか、どれほどの硬さなのかなどなどだ。
そういった人のイメージを集まったモノならば、本物にすることができるという魔法だ。
だがこの世界では共通のイメージを抱かせるのは難しい。なにせ馬車社会のようだからな、そもそも数万人に特定の鉄剣を見せること自体が困難を極める。
あるいは数十万人のイメージが集まるなら、多少大雑把でもイメージの量で補えるかもしれない。だがそれも馬車社会では難しい、人口も少ないだろうし。
だが現代日本においては別だ。なにせ情報社会でテレビやネットがあるからな。
例えばアニメの勇者の剣を模したオモチャがあるとするなら、そのモチーフとなった勇者の剣を知っている視聴者は大勢いるだろう。
剣がどんな力を持っているのかも、映像でイメージを共有できている。
つまりこの想幻実化魔法はアニメのオモチャとの相性が最高なのだ。ちなみに小人が使った時はオモチャに意思を与えただけだったのは、おそらく魔力の節約のためだろう。
俺とあの時の小人では魔力量が段違いだ。小人があの時に俺の元に来たのも、俺が信じられない魔力の才能を持っていたからと聞いたことがある。
……ただ魔法の才能がありすぎるせいか、加減するのが少し苦手だ。少ない魔力でオモチャに意思だけ与えるのは逆にできない。
なので地球ではグランギアスに想幻実化を使えなかったんだけどな。こんなの地球で出したら大騒動不可避だから。
すると姫様は我を取り戻したのか、それとも折り合いをつけたのか。戦艦を見上げて感心していた。
「お、大きいわね……はっ!? これもしかしてお城なのでは!?」
「船と言ったはずですが」
「私、またお城に入りたいの! だからこれお城ってことにならない!?」
「なりません」
ともかくこの想幻実化魔法によって、オモチャだった宇宙戦艦グランギアスは原作設定と同じ力を得ている。
その大きさなんと三百メートル級だ。移動する基地みたいなものだな。
『司令官、ようやくお話することが出来ました。そしてお久しぶりです』
そんな宇宙戦艦グランギアスから声が発せられた。十年ぶりの再会に思わず泣きかけたが、他の者の目があるのでこらえる。
「グランギアス、お前も俺のことが分かるのか? 子供の頃よりだいぶ変わったと思ってるんだが」
『そんなことはありませんよ。貴方の心は変わっていません』
「……そうか? だいぶ性格が悪くなったという自負があるぞ」
『性格と心は違いますよ』
心が変わっていない、か。もしそうなら嬉しいな。
「早速だがお前の中に入って大丈夫か?」
『もちろんです。私は戦艦、人を中に入れるのも仕事ですから』
「助かる。えっと、どこから入ればいいんだ?」
『ではブリーフィングルームの扉を開きます』
宇宙戦艦グランギアスの側面の入り口が開き、俺たちは中に入っていく。
すると入った場所は机や椅子が置いてある会議室だった。
オモチャの時の内部はかなりてきとうな造りだったが、今は内側も本物の船でいるようだ。ここならゆっくりと今度の話ができそうだな。
俺たちは席について話し合いを始める。
「では改めまして、この度は助けて頂いてどうもありがとうございます」
「いえいえ。お気にせず」
爺さんが俺に頭を下げてくるが俺は手で制す。
ヒーローが弱者を助けるのは当たり前だからな。しかし……最高だな!
親友たちと異世界でヒーローになると約束したのに、今までずっと果たせなかった。だがとうとう異世界に来れるようになったのだから!
六歳のころからずっと夢見て、十四年経ってようやく叶ったのだ! 俺はヒーローになれる日を待っていたんだ!
だがもうひとつ、この世界でやりたいことがある。あの小人とまた会うことだ、あいつもこの世界の出だからどこかにいるはずだ。
あいつにはお礼参りをしなければならない。確かにあの小人のおかげで魔法が使えるようになったところもあるが、それでも約束を破ったのは許せない。
……なんで俺を迎えに来なかったのか、必ず問い詰めてやる。
などと考えているとドタドタと足音が聞こえてきて、とある三人が駆け込んできた。
『健斗君! 大丈夫か!』
全身を赤のヒーロースーツで覆った『ジャスティスレッド』が叫び、
「健斗よ、その者たちを利用するつもりか」
漆黒の鎧で全身を包んだ『銀河帝王ヴォルダーク』が、品定めするように姫様たちを見下し、
「この人たちを正義のもとに助けるの? ボクは賛成かな」
ドレスを着た魔法少女『マジカルホワイト』が笑いかけてくる。
彼らは俺のオモチャたちが本物になった者たちだ。
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オモチャという共通点が大きすぎるので、多種多様なキャラが出てきます。
少し昔を懐かしみながら、子供の頃を思い出してやりたい放題するつもりです。
ちなみに魔法少女がボクっ娘なのは私の趣味です。
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