子供のころ遊んだオモチャたちと異世界で無双します! ~レーザー銃使ったり、カードで魔物を召喚したり、ロボットを出して無双する~

純クロン@弱ゼロ吸血鬼2巻4月30日発売

第1話 変身!


 六歳の頃、俺は自分の部屋で小人の少女と出会った。


 初めて会った時の会話は今でも覚えている。


「私たちの世界を救って欲しいの! 貴方なら出来るわ!」

「ヒーローになって欲しいってこと?」

「そうよ!」


 小人は地球とは別の異世界から訪れた者で、俺が優れた魔法の才能を持つからスカウトしに来たのだ。


「魔法を極めればこんなことも出来るのよ。万人が見る夢よ、真実となれ! 想幻実化アイディール!」


 当時の俺の部屋には、戦隊もののロボットが飾ってあった。


 そのうちの一体が勝手に動き始めたのだ。電動じゃないので動くはずがなかったのに。


 そしてロボットのオモチャは俺の方を見て、


『健斗君、こんにちは。いつも遊んでくれてありがとう』

「!? お、オモチャが喋った!?」


 彼女はなんと意思を与えたのだ、俺の持っていたオモチャたちに。


「どう? これが魔法よ。今の私だと意思を持たせるくらいが限界だけど、貴方が魔法を鍛えれば、この人形を本物にできるわ。いや人形だけじゃない。そこにある伝説の剣の偽物や、紙に封じられた魔物なんかもね」


 小人はアニメで出てくる剣のオモチャや、カードゲームのデッキを指さした。


「ほ、本当!? オモチャが本物になるの!?」

「そうよ。貴方には魔法を教えてあげるから、頑張って練習して欲しいの。そして私の世界を救って欲しい。そのオモチャたちと共に」


 あの時の興奮は今でも覚えている。


 そして小人は他のオモチャたちにも意思を与えてくれて、さらに俺に簡単な魔法をいくつか教えてくれた。


 指から火や水を出せたり、目を光らせたりといった初歩的なモノだ。


 そして一か月ほどすると小人は俺の部屋から去るという。


「いい? 今から二年後に迎えに来るわ。それまで教えた魔法を練習していて欲しいの。戻ったら異世界に渡ったり、オモチャに力を与える魔法を教えるね」

「うん! 頑張る!」

「いい返事よ。必ず二年後に来るから、魔法の練習を怠ってはダメよ? じゃあね!」


 そう言い残して小人は姿を消した。今なら分かるが彼女は異世界転移魔法を使ったのだ。だが俺は寂しくなかった。何故なら、


『司令官、では今日からは私たちと修業ですね。ご安心を、貴方の修行カリキュラムは完璧に立てていますので』


 ロボットアニメの人型戦艦のオモチャが、背中のブースターをふかして宙に浮き、


「ワワワン!」


 手のひらサイズの黄色い犬のぬいぐるみが俺の足にすり寄ってきた。こいつはモンスター育成ゲームのパッケージキャラだ。


「正義のために頑張ろうぜ! 一緒に異世界を救うんだ!」


 戦隊モノのビニール人形がガッツポーズをしてくる。


 他にも大勢のオモチャたちが、オモチャ箱から飛び出して俺の元へ走って来た。だからまったく寂しくなくて、むしろすごくワクワクしていた。


 実際そこから二年間はものすごく楽しかった。魔法少女の人形から魔法を教わったり、ぬいぐるみたちと遊んだり、ロボットのオモチャに勉強を教えてもらったり……最高だった。


 俺にとってオモチャたちはかけがえのない友人で、一緒に異世界でヒーローになると何度も約束したのだから。


 そしてすぐに二年が経って八歳になった。だが小人はやってこない、待っている間に九歳になってしまう。


 ――そこからは地獄だった。


 オモチャたちの魔法が切れて、動かなくなっていったのだ。そして最後まで残ってくれた人型戦艦も、

 

『いいですか、司令、官。またきっと会える日がく、るはずです。決して、自暴自棄にならずに……それまでしばしお別れ……で……す……』


 全てのオモチャが動かなくなってしまった。誰も喋らなくなってしまった。


 俺はヒーローになれるどころか、多くの友人たちと別れることになったのだ。


 辛かった。オモチャが動かなくなったことがじゃない。友人たちともう話せなくて、約束も守れないことがあまりにも悲しかった。


 夢の国に行けず、ヒーローにもなれず、多くの友人たちを失った。約束を破った小人はもう来ないとも分かってしまったのだ。


 そうしてしばらく泣き続けた後、諦められなかった俺は……。





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 とある森の中にある小屋に、物々しい鎧姿の騎士が十人ほど押しかけていた。彼らはすでに剣を鞘から抜いていて、その刃の先には少女と老人がいる。


 彼女らはボロボロの平民服を着ていて、やせ細っている。


「アリシア姫の偽物を語る者よ。二年もよく逃げ延びたものだがここで終わりだな。大人しくお縄につけ! さもなければ痛い目にあうぞ!」

「抵抗しなければ可愛がってやるからよ!」

「偽物とはいえ姫とソックリの奴を好き放題できるとは役得だぜ!」


 騎士たちは下卑た笑みを浮かべ、剣を突き付けられた少女はすごく不快そうに顔をしかめた。


「誰が偽物よ! 私が本物なの! いま城にいる方が偽物なのよ!」

「またくだらないことを! 陛下も女王様も、お前を偽物だと宣言している!」

「お父様とお母さまが馬鹿で……!」

「貴様! アーク国王陛下を侮辱するか!」

「……じゃなくて騙されてるだけよ!」


 姫の偽物と呼ばれた少女は、怒りをぶつけるように地団太を踏み始めた。


「そのせいで私は城を追い出されて! まともに食べられなくて! ずっと木の皮や根を主食に生きてるのよ!? 貴方たちにわかるの!? 騎士団でぬくぬくと食べてる貴方たちに、パンすら食べられない気持ちが!!!!」


 偽物姫の気迫は凄まじく、騎士たちは僅かにたじろいだ。


 彼女はかつて王城で何不自由なく生きてきた。ドレスは数えきれないほど持っていたし、宝石だって求めればいくらでも手に入った。


 だがそれは昔の話、いまでは逃亡者として定住もできない暮らしだ。


 いきなりアリシアにそっくりな者が現れて、本物であるはずの彼女が偽物として追われることになったのだ。


 姫としての恵まれた生活から一転、姫を偽る者として国中で指名手配される身になってしまっている。


 そんな状況ではまともに生活するのは困難だ。服はところどころ破れた着の身着のままで、宝石どころか髪の毛すら切って売ったこともある。


 普段の暮らしもロクに食事すらとれず、平民のほうがよほど恵まれている。かつての城暮らしから、どん底に等しい生活水準まで落ちていた。


 超のつく大金持ちからスラム以下の生活だ。その苦労は筆舌に尽くしがたいだろう。


 そして彼女の近くにいた老人が泣き始める。


「おいたわしや……二年前まで城で美食三昧だった姫様が、いまや普通の民よりもよほどひどい暮らしを……! 木ごとの皮の味を覚えてしまうなど……このジイがふがいないばかりに……!」

「ちょっとジイ! 貴方が悪いんじゃないのよ! 悪いのはお父様やお母さまよ!」


 姫様は騎士たちをキッと睨みつける。その目は怒りのあまり血走っていて、だが口元は笑っていた。


「でも私は諦めてない! 取り戻すの! 姫であることを! だからどきなさい!」


 騎士たちはその言葉を、馬鹿にするように笑い始めた。


「それは出来ない相談ですねぇ、偽物姫様。貴女はこれから俺たちの相手をしてもらって、その後は王に突き出す予定ですから」

「そもそも木の皮を食うとか、その時点で姫様なわけないだろ。そんなやせ細ってボロボロで、誰が信じるって言うんだよ! 馬鹿かよ! 顔だけ似てるからって無理があるだろ!」

「こんのっ……! 嘘じゃないのに……!」


 姫は悔しそうに歯を食いしばりながら泣くのを耐えている。するとしびれを切らした騎士のひとりが、姫の喉元に向けて剣を突き付けた。


「ひっ……」

「おう、さっさと縛って連れてくぞ。口はともかく顔はいいし、喋らせなければ上玉だろ。そこのジジイはいらんから殺すか」

「ほいほい」


 騎士のひとりが剣を抜いて老人の元へ歩いていく。その時だった。


「ちょっと待ってください。いくらなんでも横暴だと思いますよ」


 近くの茂みからひとりの二十歳くらいの少年が出てきた。Tシャツにジーパンを着ていて、いかにも日本の街にいそうな若者。


 だが実際は町中にいたら笑われてしまうだろう。何故ならプラスチック製の銃のオモチャを腰につけているからだ。


「なんだお前は。おい、俺たちは騎士だ。これから重罪人を裁くところでな、さっさと去れ」

「そういうわけにもいかないですよ。今のやり取りは明らかに酷いですから。あ、私は田中健斗と申します」


 健斗と名乗った男はゆっくりと騎士たちに近づいていく。そして少し離れた場所で立ち止まると、


「状況はあまり分かっていないのですが、それでもやり過ぎと思います。少し落ち着かれてはいかがでしょうか」

「あん? なんだてめぇ?」

「おいもういいだろ。さっさとヤりたいんだよ俺は。こいつと爺は殺して、偽姫は捕らえようぜ」

「そうだな。偽物姫の話など聞く価値もない」


 騎士たちはいっせいに剣を構え直すと、健斗に殺気を向ける。


 健斗は僅かにたじろくがすぐに余裕の態度に戻った。


「そうですか。なら仕方ない。少し脅させてもらいますね」

「脅すだと? 我らは騎士だぞ? 平民風情が我らを脅すとは、その言葉は命で償ってもらうぞ!」


 騎士たちが吠えて襲い掛かるのを見て、健斗はポケットからを取り出した。


 それはプラスチック製の四角い小さな箱のようなもので、いくつかのボタンがついている。古い戦隊モノの変身グッズのオモチャであった。


想幻実化アイディール!」


 健斗がそう告げると、彼が握っていたオモチャが光り輝いた。すると箱の質感や雰囲気が大きく変わる。


 先ほどまでがプラスチックのオモチャならば、今は金属製で精巧に造られた本物の宝飾品のようだ。


「そんな箱がどうしたってんだ! 死ねよっ!」


 騎士のひとりが健斗に向けて剣を振りかざす。だが健斗は金属製の小さな箱を自信満々に構えると、


「変身!」

『竜王変身! ドラゴニアレッド!』


 すると箱から電子音が響いた。それは本来ならばオモチャの音声機能でしかない。


 だがそこからだった。健斗の身体が光に包まれて、姿が変わった。


 頭は独特な形状の兜になり、派手な鎧と丈夫そうな材質の布の混ざった衣装へと変貌する。


 それは俗にいうヒーローに相応しいスーツである。


「ば、馬鹿なっ!?」


 騎士の一人が悲鳴をあげた。当然だろう、健斗は腕で騎士の剣を受け止めていたからだ。


「っ!? 囲んで斬れ!」


 他の騎士たちも恐怖を感じたのか、健斗を包囲して剣で襲い掛かる。


 だがヒーローは動かない。動く必要もないからだ。


 騎士の剣はなんの防御もしない健斗の身体に当たって、


「……は? え?」


 そのまま薄皮一枚切り裂けず、鈍い音と共に止まってしまった。騎士たちが唖然とする中、健斗は騎士の剣の刀身を掴んでそのままへし折ってしまう。


「無駄だ。このスーツは大砲でも傷がつかない設定だからな」

「は、へ、ええっ!? け、剣だぞ!? 素手で折った!?」

「ぐ、偶然だ! たまたま剣が脆くなっていただけのこと!」


 騎士たちは剣とは違って、戦う意思はまだ折れてない。健斗は少し困ったように腕を組み始めた。


「追いかけたりしないから、ここは引いてくれないか?」

「なにをふざけたことを!」

「弱ったな。今ので逃げると思ってたのに……ならこれで脅すか」


 健斗は腰につけていたオモチャの銃を片手で構えた。


 その銃口は近くの巨大な、幹の太さが1メートルはあるだろう大樹に向いている。


想幻実化アイディール


 健斗が呪文を唱えると、オモチャの銃もまた金属製に変貌する。


 それはもはやオモチャとは思えぬほどに精巧なモノだった。それも当然だ、何故なら……、


「最終警告だ。もし逃げないなら」

『アルティメットゥ、メーザー!』


 健斗は銃の引き金を引いた。すると銃からやかましい電子音が鳴り響いて、銃口の数倍の太さのビームが打ち出された。


 ビームは照準先にあった大樹に大穴を空けてしまい、周囲に焦げた匂いが漂い始める。


「さて次はお前たちがあの大樹みたいになるが、どうする?」


 健斗が銃口を騎士たちに向けた瞬間だった。


「ひ、ひいっ、ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?!?!」


 騎士たちはもはや抵抗する気力などわかず、一目散に逃げ始めるのだった。



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