第5話 とりあえず、人心掌握成功


 ソレを見た騎士達の口からぽろぽろと、不安気な言葉が零れ落ちる。


 「まさか」


 「王城を護る《結界》が、壊れているのか?」


 「なぜ、王城の庭に魔物が出現出来るんだ?」


 「《結界》が壊れた気配はしないのに?」


 騎士達の発言に対して、恵里花は思いついた原因をさらりと口にする。


 〔あぁ…やっぱり…混乱しちゃったか……

 ここは、たぶんでも、理由が必要よね


 揺ぎ無いモノが崩れた時には

 縋るモノや言葉は必要だもの………〕


 「たぶんだけど…壊れたわけじゃないと思うわ


 異世界から、聖女候補の《召還》をする為に

 この王都を護る為の《結界》の一部に


 呼び込むための穴を開けた状態に

 なっているんじゃないかと思います


 でも、神官様達も魔法使いの皆さんも

 《魔力》を使い果たしてしまい


 サーチする《魔力》も無い状態になったから

 気が付かなかったのではないでしょうか?


 それと聖女候補の《召還》の魔法を

 唱えていないといっても


 この場に居る騎士様も神官様方も

 魔法陣に《魔力》を吸われて


 サーチの機能が働かない状態になり

 《結界》の異常に気が付かなかったのでは

 ないでしょうか?


 だって、おおもとの《結界》は

 《正常》に機能しているんですから……」


 恵里花の発言にオスカー達はなるほどと思い頷いた。


 「……確かに…穴が開いていると

 表現してもイイでしょう…」


 〔ヨシ、恵里花の言うコトを信用したわ

 この状態になったら、OKね


 ここで、畳み込むように指示すれば

 恵里花の思うとおりに…

 騎士様達をこき使えるわ


 だって…急がないと、倒れた神官様達が

 使い物にならなくなるかも………

 最悪…死ぬんですもの……


 何としても、助けたい

 命に代わりは無いんだから…


 それに…パパの……


 『恩は売れるときに、高く売れ』


 って、言葉に従っておけば間違いないし……


 この異世界での味方を作りたいし………

 頑張れ…恵里花……〕


 「あと、この部屋から外に出ないで行ける

 窓の無い部屋はありますか?」


 内心では、ちょっとダークな恵里花だったが、慌てふためいている騎士達には、その表情が爽やかな聖女に見える。

 だから、素直に、恵里花に応える。


 「あります」


 欲しかった答えをもらった恵里花は、にっこり笑って命令する。


 「では、倒れた方達や顔色の悪い方達を

 その部屋に運んで下さい


 恵里花の持つ荷物の中には

 《甘味》が入っていますから……


 試してみる価値があると思います


 なんと言っても、界を渡っているので

 界の狭間に存在しているエネルギーが

 濃縮されて入っている可能性があります


 失われた《魔力》を補給できるかも………

 できるだけ、急いでください」


 恵里花の極自然にみえる命令に、オスカーは従った。


 「そうですね

 お前達、とりあえず倒れている者から

 隣りの部屋へ運べ


 あの部屋に窓は無いからな


 《魔力》に余裕のある者は

 ここを死守し、アレを撃退しろ


 戦闘が無理と思う者は

 倒れた者達を運べ………」


 「「「「「はい」」」」」


 良い子のお返事?をした騎士達と倒れた神官達などと一緒に恵里花は部屋から出て行った。


 なお恵里花の荷物は…………。

 リュックサックもスーツケースも、騎士達が運んでいったのは確かなコトだった。

 その時の会話は、こんな感じだった。


 恵里花の大荷物に気が付いていたオスカーが言う。


 「姫君、そのような荷物を運ぶのは

 我等に任せて下さい」


 「えっ…荷物を持ってくれるの?」


 「か弱い女性に、こんな荷物を運ばせるのは

 騎士として恥ずかしいコトですから」


 「ありがとう」


 恵里花のスーツケースを、オスカーがあっさりと取りあげた。

 その部下のフェリクスが、恵里花のリュックサックに手をかける。


 「姫君、腕を……これは…私が持ちます

 もしまた、何か大きな物を運びたいと

 思ったのなら、我等に…………」


 「ありがとう」


 恵里花は騎士達の親切に嬉しくなって、笑って御礼を言ったのだった。





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