第4話 やはり、騎士系はわんこだった



 恵里花が話しかけようと近寄った騎士は、実は《召還》された時から、その様子をそ知らぬ顔で注視していた。

 なぜなら…………。


 〔まったく、団長が居ない時に

 絶対に、聖女候補を異世界から呼ぶ為の


 《召還》魔法はするなと

 きつく厳命されていたはずなのに……


 それにしても、あのチマッとした

 大荷物を持った娘なんて

 ロコツに団長の好みの子だよなぁ~……


 はぁ~……絶対に叱責される……


 ぅん? おやっ? もしかして

 こっちに向かっているのか?〕


 魔法騎士団の2人いる副団長のひとりで、ブランシュバーグ男爵の5男坊であるヘルムート・オスカー・ブランシュバーグは、自分に向かって歩いて来る恵里花をじっと見詰めてしまう。

 オスカーが内心で首を傾げている間に、恵里花は自分の疑問を口にする。


 「騎士様、神官様達が倒れたのは

 どうしてですか?」


 オスカーは、恵里花の質問に無意識(条件反射?)で応える。

 そう、やっぱり、騎士系だけあって、立派なわんこ気質なのだ。


 「神官が倒れたのは《魔力》枯渇(切れ)か


 《魔力》制御が不能になり《魔力発生器官》から

 《魔力》流出しすぎて《魔力》が足りなくなったか


 《魔力》が血中に溶け出す《魔力融解》の

 どれかを引き起こしたのでしょう」


 オスカーからの答えの中には、恵里花に聞き取れない単語があった。

 いや、正確には、聞き取れないのではなく、言われた言葉の意味が理解出来なかっただけなのだか………。


 〔うぅ~ん……《魔力》枯渇は理解できるわ

 ようするに、使い過ぎて空になったってことね


 でも《魔力発生器官》って、何処にあるの?

 ……《魔力融解》って…どういう現象かしら?


 やだ…意味が理解(わか)らないことが多いわ……〕


 所詮は、剣と魔法のファンタジー世界なので、魔法の無い世界で育った恵里花達には、説明されても大元の常識が違うので、その説明を即完全に理解するというのは無理なのだ。

 

 〔うぅ~んとぁ~……とにかく、どうすれば

 倒れた方達の救助が出来るかを聞かないと……


 私に出来ることが有ると良いんだけど………〕


 恵里花には、倒れた神官達を救助する方法が思いつかなかった。

 だから、再度、オスカーに尋ねることにした。


 「それでは、倒れた方達には

 どんな手当てをすれば良いのですか?」


 恵里花に質問されて、オスカーは倒れている神官達や魔法師団の人間達に、やっと気が付いた。


 〔うっ…不味いっ

 1魔力量がある団長が…不在なのに…

 無理に聖女候補の《召還》をしたツケが出たか…


 このまま放置すれば…倒れた彼らの大半が…

 《魔力》という能力(《力》)を失う


 下手をすれば…命すら失う

 最悪…全身が灰になり…何一つ残らない


 だぁぁぁぁ~……そんなコトになったら……

 どんなに…団長が嘆き怒ることか……


 でも、倒れた者達をなんとかしたくても

 ここのところの不作続きで………

 ろくな《甘味》も《蜂蜜》も無い


 嗚呼…どうしたら…イイんだ?〕


 内心でかなり苦悩していたオスカーだが、表情はまっく動かなかった。

 その為に、恵里花の目にはとぉーっても冷静沈着な騎士に見えていた。

 オスカーは軽く頭を振ると、恵里花に優しい声で説明する。


 「今回の聖女候補の《召還》には

 残念ながら、用意できませんでしたが………


 《召還》魔法による《魔力》の消失には

 通常、高濃度の《魔力》を含む

 《甘味》を与えるのが1番なんです


 次に、余力のある者が、《魔力》切れした者に

 生命回復魔法を掛ける方法があります」


 そう説明したオスカーは、恵里花からの反応を待たずに、自分の側に控えて居た部下達を振り返って命令する。


 「お前達、神官達や魔法師団の連中を

 とにかく医務室に運べ」


 〔《魔力》を使う能力の消失だけなら良いが

 全てが塵のようになって消える姿なんて


 聖女候補の少女達に

 見せられたモノではないからな〕


 副団長の命令に、声の届いた範囲の騎士達が応える。


 「「「「「はい」」」」」


 そして、自分達の近くに倒れている神官達や魔法師団の魔法使い達の元へと行こうとする。

 それに対して、制止する言葉を掛けたのは恵里花だった。


 「ちょっと、待って下さい


 窓の外に、化け物の触手が見えています


 身動きの取れない人達を連れて

 どこにあるかわかりませんが 

 医務室まで、移動するのは無理だと思います」


 恵里花からの指摘に、オスカーをはじめとした魔法騎士団の人間達は、いっせいに窓へと視線を向けた。

 そこには、ヒビの入った窓ガラスと魔物の触手が蠢いていた。








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