第7話 知りたい心

 ***


 長い奴隷生活で衰弱していたサザナミだったが、めきめきと回復し、少年団の子どもらに混じって鍛錬までできるようになった。

 鍛錬が終わり、騎士団の宿舎を歩いていると、前方に馴染み深い広い背中の男が目に入る。

「アキナ団長!」

「おお、サザナミか」

 アキナはふり返って敬礼するサザナミの姿を認めると、サザナミの髪を勢いよくわしゃわしゃと撫でた。

 なぜかアキナはサザナミが近寄ってくると、髪をぐしゃぐしゃに撫でるのであった。

「ちょ、やめてくださいよ。犬じゃないんだから」

「ああ、悪い。で、なにか用か」

「あ、はい」

 瞬時に真面目な顔つきになった少年を見下ろし、アキナも黙って続きを待つ。

「失礼を承知でうかがいたいのですが、ユクスさまはなぜ俺に会いにきているのですか」

「は?」

 思ってもない質問に、アキナは間抜けな声を出してしまう。

「なんか、あの人、あ、あの人とか言っちゃった……ユクスさま、もともとあまり外に出なかったんですよね。でも、さいきん、俺が騎士団の仕事をしているとたびたび呼び止めてくるんです」

「坊ちゃんとどんなことを話すんだ」

「いえ、なにも。なんか気まずそうな顔をして俺のことを見て、最後に必ず手を握って帰られるんです」

「なんだそりゃ」とアキナは笑う。

「俺が聞きたいですよ。でも勝手に質問をしていい立場にはないですから、ユクスさまが口を開くまで俺は黙っているしかないんです」

「そうかい」

「いったいなにが目的なのでしょうか」

「いやあ、それはね」

 サザナミに真剣に見つめられ、アキナはついと目をそらす。

 わが国の王子は友だちの作り方をしらないだけなんです、だなんで口が裂けても言えない。

「団長はご存じでないですか」

「知らないねぇ」とアキナはしらを切る。「本人に聞くしかないんじゃないの」

「俺から話しかけていいものなのですか。俺の国では、目上の人間に話しかけるのはご法度でした」

「アルバスもそうだけど、まあ、あの坊ちゃんはなんも咎めないよ。次会ったときに聞いてごらん」

 な、と騎士団長はサザナミの頭を撫でた。

 サザナミは不服そうな顔をして去っていった。


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