01-41 目先と先行きの目標
「じゃあ、今回はここまで。肉体に戻ったあとも練習するんだよ」
ネアは右手を腰に当てる。
雅稀たちは基本技の習得に熱中していたあまり、肉体を脱いだ状態であったことを忘れていた。
「本当に、さっきのようにできるんでしょうか……?」
自信のない声で尋ねる雅稀にネアは
「案ずるな。魂が覚えているから」
と雅稀を見つめる。
メイリアは頭上の木漏れ日を眺めてから視線を雅稀たちに戻して
「肉体のある場所へ返すわよ。あんたたちが
と両手を開いて伸ばす。
「あっ……」
雅稀は何かを言い出す前に視界が真っ白になった。
――***――
雅稀は布団から勢いよく体を起こした。
辺りを見渡すと学生寮の寝室にいることがわかる。
(何か、夢でも見ていたような……)
雅稀は寝ぼけた目で時間を確認すると、18時だった。
思わず飛び上がって左へ顔を向けると、利哉と一翔が苦しそうな顔をして眠っている。
(半日以上寝ていたのは俺だけじゃないのか……)
雅稀は不思議な気持ちを隠せないまま、ベッドから降りて背伸びをしながらリビングへ向かった。
支度が終わった頃、利哉と一翔が寝室から出てきた。
「さっきまで苦しそうな顔をしてたけど、大丈夫か?」
雅稀は寝ぼけた声で2人を心配する。
「まあ。オレ、変な夢見ちまってよ」
利哉はソファーに腰を下ろす。
「お前もか。実は俺も妙な夢を見たんだ」
雅稀は手を組んで視線を落とす。
「僕も夢を見たけど、女の人3人に会ってフォール=グリフィンの拠点へ行き、そして物理系と砲弾系の攻撃と防御魔術の練習をしていた」
一翔も利哉に続いてソファーに座った。
「あっ! 一緒だ!」
雅稀と利哉は同時に一翔を指す。
「確かあの時は肉体を脱いで魂だけの状態だったよな。覚えているもんなんだ……」
雅稀は胸に右手を当てる。
意識はあるし心臓の鼓動も感じる。
「フォール=グリフィンの拠点に行ったのは良いけど、誰がGFPを組み込んだかまでは聞き出せなかったな」
利哉は腕を組んで俯く。
「誰がその魔術をかけているかまで特定できれば
雅稀はため息をつく。
「うん。でも、誰の仕業か特定できたとしても、今の僕たちの実力では勝てないよ」
一翔は悔しそうな目つきで白い袖口を見つめる。
「それはオレもわかってるけど、何か悔しいなぁ……」
利哉がそう言ったあと、少しの間、3人に沈黙の空気が流れた。
20秒程経って、雅稀は思い出したかのように口を開いた。
「そう言えば、メイリアさんって人が
「ああ。オレも聞いた。あの人、オレの負けず嫌いの性格に火を点けに行くから、大変だったんだぜ」
利哉は後頭部に手を組んで苦笑いする。
「肉体ではなく、魂が大変だったんだ」
一翔も利哉につられて笑った。
「俺に抜かされるぞって言われたのか?」雅稀は利哉の顔を覗き込むと「フォール=グリフィンどころかマサに勝てないわよ! って」と利哉はメイリアの甲高い声を真似するかの如く、裏声を発する。
「そんなこと言われてたんか」
「おう。何でかは知らんけどな」
利哉は雅稀の笑う顔を見て引く。
「とにかく、今は期末試験で合格して
「ああ。一翔の言う通りだ」
雅稀はやる気のある表情をした。
利哉はやれやれと言わんばかりに目前に設置されているテーブルに目をやる。
「あれ? こんなメモ用紙あったっけ?」
利哉は見覚えのないメモ用紙を手に取る。
一翔は手を差し出して利哉からメモ用紙を受け取り、書かれている内容を読み上げた。
「わたしたちに修業をつけてほしければ、念じた時点で肉体から魂を分離させる。君たちが
「反逆者って、メイリアさん、セルラさん、ネアさんの3人のことだよな?」雅稀は訊くと「その人たちに違いない」と一翔から答えが返ってきた。
「だよな。全く、フォール=グリフィンを脱退したら反逆者呼ばわりされるって、ひどい奴らだな」
雅稀は腕を組んで『反逆者』の文字を目に焼きつける。
「一刻も早く、魔法戦士としての技を身につけようぜ! 早速、晩飯を食って訓練棟で練習だーっ!」
利哉は飛び降りるようにソファーから立ち上がり、出入り口のドアへ小走りする。
「晩飯ってまだ19時来てないぞ」
雅稀は彼を追いかけるようにドアへ向かった。
一翔はメモ用紙をテーブルにそっと置き、いつもの歩調でドアへ向かった。
グリフォンパーツ学院大学へ入学した日に、前世は
俺たちが前世で何をしたかは知らない。
本来なら、魔術を使えないまま
しかし、グリフォンパーツ学院大学を滅ぼそうと暗躍している連中がいる。
何らかの因縁が関係しているのかもしれないが、グリフォンパーツ学院大学やそこに通う学生と教員の命を守るために、俺たちは誰よりも強くならなければならない。
打倒! フォール=グリフィンに加え、虹彩の色を決める遺伝子の上流にgfp遺伝子を組み込んだ張本人は誰かを特定し、緑に光る目を解決する。
そして、俺たちの前世は何をした罪人なのか。
これらの目標を達成するために、俺たちはたとえ困難な壁が待ち受けていたとしても、立ち向かうと決心した。
――第2章へ続く――
【第1章完結!】GFP EYES 河松星香 @Seika-Kawamatsu
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