01-37 攻撃魔術の物理系――精(スプリット)

 利哉がスプリットの練習を始めた頃、雅稀はその技のポイントを掴みかかるところまで到達していた。


 雅稀は無言で剣身ボディに集中するが、肝心の水はフラーの周辺しか現れていない。

 これでは相手に攻撃が当たらない。


「水の特徴は変化に富む。さっきの奥拉オーラは魔力を剣に込めれば出せるけど、スプリットとなれば、各々の属性の意味合いを理解していないと出せないの」

 セルラは目を細めて技に専念する雅稀にアドバイスを送る。


 雅稀は入学式後に行われたオリエンテーションで、マルス学科長が話していたことを思い出した。


 ――炎のような情熱を表す火属性。多様な変化に富む水属性。恩恵を与える木属性。大気を操る風属性。希望をもたらす光属性。正義を貫く闇属性――


 そうだった。水は丸い容器に入れれば丸く見える。四角い容器に入れれば四角に見える。時には雨として滴になる。様々な形に変化できる……


 雅稀は改めて剣身ボディに魔力を注ぐと同時に、変化に富む水を頭の中で思い描く。

 水で潤う剣身ボディを想像しながら息を整える。


 ぱっと目を開けると、構えている剣身ボディ全体に水が張りついていた。

 セルラへ目をやると、深く頷いていた。


「よしっ、このまま……」

 雅稀は右肩に剣を構え、なだらかな斜線を描くように振り下ろした。


 立ちはだかる藁人形は剣身ボディに張りついた水に濡れながら斜めに分断された。

 セルラは黙って小さく拍手をして「マサくん、さすがだね」と教え甲斐を感じた嬉しそうな顔をする。


「いや、まだまだですけど……」

「ううん、上等。これら2つの物理系の技とこれから教える砲弾系の技を習得したら、赤階級ロドゥクラスに近づくよ」

「いくら近づくとは言え、防御魔術も使えないといけないんじゃ……」


 雅稀は若干不安そうにするが、セルラは表情を緩めて

「あなた、真面目なんだね。属性の意味合いと物理系の技で言えば奥拉オーラスプリットができていれば防御できる」

 と腰に両手を当てる。


「それって、相手が奥拉オーラで攻撃してきたら奥拉オーラで、スプリットだったらスプリットで防御すれば良いってことですか?」

「そう言うこと。よくわかってるね」

 セルラは腕を組んで目を光らせる。


 雅稀からすると、セルラの言動と仕草がネアと似ているなと感じた。


「ただ、砲弾系となると話が変わってくるから注意ね。このあと、砲弾系の攻撃魔術について教えて、昼から物理系と砲弾系の防御方法について教える」

 セルラは真面目な眼差しで雅稀を見つめた。


(1年の前期に学ぶことを一気に叩き込まれるのか……)

 雅稀は一瞬目の前が暗くなったが、「お願いします」と胸元に剣を構えた。

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