01-36 攻撃魔術の物理系――奥拉(オーラ)

「私の潜在属性は木、顕在属性は水。マサくんの潜在属性は水だから、まずは水属性の攻撃魔術の基本について教えるね」


 この時、セルラからメイリアとネアの潜在属性と顕在属性の組み合わせはそれぞれ光と火、闇と風であると教えてくれた。


「そもそも、顕在属性って何ですか?」

 雅稀は向かいに立っているセルラに尋ねる。


「顕在属性はあとから自発的に習得した属性のこと。潜在属性は元から自身が持っている属性だから対の関係にある」

「つまり、潜在属性は先天的に備わっている属性で、顕在属性は後天的に身につけた属性ということですか?」

「その通り。理解が早いね。私の場合、水属性は顕在属性ではあるけど、潜在属性であろうと基本は同じ。顕在属性は大学院修士課程へ進んだら習うよ」


 セルラの右手から剣が現れ、

「早速、物理系の攻撃魔術からいくよ」

 と目の前に剣を斜めに構えた。


「はい!」

 雅稀は講義で習った剣の出し方を思い出しながら目を閉じる。


 ヒルトを掴んだ感覚をしたところで目を開ける。

 そこには真剣な目つきをしたセルラが剣を下ろしていた。


「物理系、砲弾系、波動系の技はそれぞれ2種類の技が存在する。まずは物理系の技の1種類目、剣身ボディに属性の色を光らせる奥拉オーラ

 セルラの剣身ボディが徐々に水色の光の強度を増す。


「これが攻撃魔術の中でも基本中の基本。やってみて」

 セルラからそう言われた雅稀は剣に精神を集中させる。


 しかし、雅稀の剣身ボディは全く光らない。


「精神を集中させるんじゃなくて、魔力だよ。『奥拉オーラ・水』って力強く言ってみて」


(魔力……そうか。魔法戦士が攻撃したり防御したりする時の技は、すべて魔力が関係しているのか)

 雅稀はセルラの話を聞いて何となくわかった気分になった。


奥拉オーラ・水!」


 雅稀はセルラの言う通りに声を上げて体中に巡る魔力を右手に集中させる。

 すると、雅稀の剣身ボディが淡い水色に光り始めた。


「うん。そんな感じ」

 セルラはこくりと頷き、左手を雅稀の前に伸ばす。

 彼女の目前に等身大の藁人形が現れた。


「この状態で藁人形を切り裂いてみて」

 セルラは剣を握ったまま腕を組み、雅稀を見守る。


 雅稀は左手でヒルトを支えて右肩の近くに剣をゆっくり構える。


「やーっ!」

 雅稀は剣道をやっていた頃を思い出しながら、藁人形に向かってぶんと剣を大きく振り下ろした。

 藁人形はスパンと竹が真っ二つに割れるように分断された。


「初めてにしては上出来」

 セルラは口元を緩めると、雅稀は少し嬉しそうに笑う。


「練習を積んでいくと魔力が上がっていくから、怠らないようにね」

 セルラは切れた藁人形に手をかざして魔術をかける。

 今度は藁人形が横一直線に10個並ぶ。


「今のマサくんなら、一気に切り落とせると思う」

 急にハードルが上がったなと雅稀は藁人形を睨みつけ、もう一度剣に魔力を集中させる。


 剣身ボディが水色に光ったのを確認したところで、剣を左腕の近くへ構えた。


「だりゃーっ!」


 真横に剣を振って藁人形を薙ぐ。

 何とか10個すべて切り落とせたが、思ったより腕力が必要だと雅稀の腕は感じていた。


 セルラは目を丸くして

「やるね。もう1回やって、クリアしたら次ね」

 と再び藁人形を10個召喚した。


 雅稀は既に息を切らしているが、歯を食いしばって奥拉オーラ・水を唱える。

 体中の魔力を右手、ではなくその先に構えている剣身ボディに行き渡らせるように集中してみた。

 彼の剣身ボディに光っている色はあんなに薄い水色だったのが、今や深海を思わせる神秘的な群青色に輝いている。


 セルラがはっと驚くのも束の間、雅稀は無言で藁人形たちを横一直線に潔く切り裂いた。


 ふぅーっと呼吸を整える雅稀に

「……コツを掴んだみたいね」

 とセルラは驚いた声を漏らしながら頬を緩める。


「はい。剣身ボディに魔力を集中させたら、俺の想像以上に威力が出たみたいで」

 雅稀は満足そうに後頭部を掻いた。


「何も言わなくてもわかってるじゃない。じゃあ次、物理系の2種類目、スプリット

 セルラの振り下ろしている剣から水が現れた。



 一方で、利哉は気の強いメイリアにしごかれながら、奥拉オーラ・火を必死になって練習している。


「ちょっと! そんなんじゃあ砲弾系の技は疎かスプリットすら出せないわよ!」

 メイリアは厳しい目つきで利哉の剣身ボディの光の度合いを凝視する。

 微かに赤く光っているのがわかるが、魔力を剣身ボディに集中させていないのをメイリアはわかっていた。


「そんな急にスプリットとか言われてもわからないですって……!」

 利哉は開き直るかの如く吐き捨てたが、メイリアには通用しない。


「あのね、どこに魔力を集中しているの?」

 メイリアは呆れ返って利哉に尋ねる。


「胸辺り……」

 利哉は冷静になって心臓の位置辺りを見つめる。


「胸辺りから光線を出すなりして、相手を攻撃するの?」

 メイリアは腕を組んで眉毛をへの字に曲げる。


「……!」

 利哉は閃いたように目を大きく開けた。


「そうか、剣本体だ」

 利哉は小声で呟いて両手でヒルトを握って魔力を剣に集中させる。


 さっきとは見違える程、利哉の剣身ボディは薄赤く光り始め、熱気も感じられるようになった。


 利哉は用意された藁人形に向かって「てやっ!」と頭上から薪を割るように剣を思い切って振り下ろす。

 パコンと弾ける音を響かせながら藁人形は2つに割れた。


「ふうん。やればできるじゃない」

 メイリアはニヤリと歯を見せ、割れた藁人形から姿を現した利哉を上から目線気味で褒める。


 やった! と利哉の内心は喜んでいた。


 メイリアは軽く辺りを見渡すと、セルラと雅稀が物理系のスプリットの練習をしていたのを捉えた。


「あら、マサくんはもうスプリットの練習に入っているわね」メイリアが口にすると利哉は悔しそうに「あいつに先越されてたまるか」と険しい表情に変わった。


「マサくんとは友達じゃないの?」

「友達だけど、あいつには負けたくないんです!」

「へぇ……良いこと聞いちゃった」

 メイリアは何かを企んでいるような笑みを見せた。


 その表情を見た利哉は、出来が悪かったらマサを出しにして、負けず嫌いの性格に火を点けにいくだろうなと感じて、顔を少し引きつらせた。

 メイリアはまさしくそうするつもりで考えているが、勘の鋭い利哉から見抜かれていることに気づいていない。


「はいっ、この意気でもう1回やるわよ!」

 メイリアは藁人形を横一直線に10個召喚した。


「え? まだ奥拉オーラ・火の練習をするんですか?」

「あったり前よ! 基本中の基本ができてないとスプリットの技を出すなんて夢の夢の世界だわよ!」

「そんなぁ……」

「嫌味を言っていると、フォール=グリフィンどころかマサくんに勝てないよ! 良いの?」

「……ちっくしょうめい!」

 利哉は半分やけくそになって剣身ボディに赤い光をまとった。


「もうちょっと冷静になりなさいよ! さっきの熱気はどこ行ったのよ?」

 メイリアは興奮している利哉を黄色い声で落ち着かせる。


 利哉は我に返った顔をして気持ちを静めた。


「負けたくない気持ちはわかるけど、最大の敵は自分自身にあるの。このことを頭の中に入れておきなさい」

 メイリアがそう言い放ったが、利哉は既に技に集中していた。


「話が耳に入らないくらい技に専念するのは良いことだけど、あたしの肝心な話を聞いてほしかった」

 メイリアは目を軽く閉じてぼそっと呟いた。


 彼女が目を開けると、利哉が握っている剣身ボディはルビー色に輝いていた。

 それに加え、利哉の気持ちが制御された静かな情熱を遠くから感じられるくらいに成長していた。


 メイリアはどれどれと藁人形の間から利哉を覗き込むように、技の行方を見守る。


奥拉オーラ・火!」


 利哉は技の名前を唱えてX字に剣を素早く振った。

 10個の藁人形は四方八方に散らばった。


 少し前まで奥拉オーラをまともに出せなかった利哉と比べると、基本中の基本を身につけた利哉がメイリアにはかっこよく映っていた。


「合格! この感覚を忘れないで。ようやくスプリットに移るわよ」

 メイリアのようやくという台詞が利哉にとって余計な一言に感じたが、いずれ訪れるフォール=グリフィンとの決闘に備えて取り組もうと腹をくくった。

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